「ショーゴ、マサムネのお散歩行ってくれる?」
1階から母さんの声。
はぁ…これから観たいTVあるのに、なんでまたこんな時に限ってビデオ壊れちゃったんだか。
「ショーゴ!お父さんいないんだから、分担して散歩行く約束なんじゃないの?」
分かってるんだけどさぁ、でも今日だけは勘弁してよ、母さん行ってよ。
「ショーゴ!聞こえてるんでしょ!?」
あぁ…もぉ!!
と、階段からいつもの足音が。
マサムネ…上ってきたんだ。
あ~あ、いつもの目つきでじっと見てるよこいつ…
─全く、全然来ねぇと思ってたらTV見てんのかよ。
そんな目で僕を見ないでよ。
─いいんだぜ俺は、別に散歩1日くらい我慢できらぁ
何でお前、いっつもそういう目で僕を見るのさ…
友達の家の犬見ててもさ、みーんな言うこと聞くよ?
マサムネ…お前って、僕の言うこと全然聞かないね。
僕が生まれた時、マサムネはもうこの家にいたんだよね。
だからかなぁ…僕より兄さんだって思っているの?
─オラ、どーすんだ、行くのか行かねぇのか早く決めろ。
「ショーゴ!お母さん今手が離せないんだから、早くしてくれる?」
分かったよ…行きゃいいんでしょ、全く。
「マサムネ…」
─ンだよ?俺に何か言いたいことあるのか?
「ちょっと急ぎたいんだ、最短コースで我慢ね」
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さて…と、ビニール袋持ったし、行くかマサムネ。
─今日はどこ行くんだ?川沿いか?それとも学校か?
「10分で済まさないと最初っからTV観れないから…今日だけ我慢ね」
─おい、いつもとコース違うぞ!こっち行くぞこっち!
相変わらずマサムネの力は凄い、でも僕も負けてられない!
「だ、か、ら!今日だけお願い!10分でトイレ全部済ませて!」
ちょっと車の通りが激しい道へ出た、僕の秘密の最短コース。
─いや違う…こっちは通るな!バカ!
「何だよマサムネ!まだ抵抗するの?」
─違う違う違う!変な予感がするんだ、引き返すぞ!
「ほら、こっちでトイレ済ませて早く帰るよ」
─!!!!!!
突然、マサムネが僕を…もの凄い勢いで押し飛ばした。
目の前が真っ暗に。
それと
ゴシャアアアァァン!!!
耳が張り裂けそうな金属音!
僕は…一体?
あ…
ここ、用水路…か。
細長い溝に、僕だけすっぽりはまってる。
そして黒い、ガソリン臭い屋根。
屋根と僕との間に…マサムネが…
…え?
マサムネ!?
─
何?何か言いたいのマサムネ?
─
どうしたんだよマサムネ、そんな弱った顔しちゃってさ…
え…なんだこれ?
生温かい…マサムネの方からこぼれてきてる。
─
何なんだよこれ…それに何言ってるんだよ!
─
ねぇ…何を言おうとしてるの?マサムネ。
ちょっと…こんな時に寝ないでよ…一緒にここから出ようよ。
起きてよ…こんなとこで寝ないでさ。
ねぇ、マサムネったら。
起きて…起きてってば…
ねぇ、マサムネ…
「マサムネ…」
「お、気がついたようじゃの」
「よかった~、どっか触っちゃったんじゃないかと思った」
「大丈夫ショーゴ?意識ある?」
「ショーゴ…よかった」
青空の下、僕の周りをみんなが囲んでいる。
権じい、リンカ、タクト、それに菜乃。
みんな心配そうな顔で僕を見てる…何でだろう?
「夢…?」
どうしたんだろう僕…確か蟲に囲まれた後、マサムネに抱かれて…?
「そうだ…マサムネは!?」
僕が尋ねると、リンカはちょっと笑いながら数m先を指差した。
…大の字になって倒れてた。
そうか…僕を抱えながら突破したんだよね…
でもよかった、マサムネも無事で。
と、隣にいた権じいがおデコにシワを寄せて、僕を杖でゴツンと。
「全く…マサムネがいち早く察知してくれたからいいものを、自殺行為じゃぞ!」
「ごめんなさい…」
「うむ、じゃが…まずそれはマサムネに言わねばの」
「うん…」
それを聞いていたのか、マサムネも起き上がった。
「全くよ…気絶して夢見てるなんていい身分だぜ」
「ごめん…マサムネ」
マサムネ、僕と目を合わすの避けてる…やっぱ怒ってるんだ。
「さて…」
「どうしたのじゃ?マサムネ」
「腹減ったからな、メシ食いに行くぞ」
突然僕の方を見て、ニヤリと怖い目で微笑んできた。
「…罰としておめーのおごりな」
「えええええええ!?」