たか☆ひ狼のいろいろ

ファンタジー小説とか、動物園撮影紀とか、アリクイとか。

天獣戦記譚マサムネ:2-10話

2005-07-29 19:55:58 | オリジナル連載小説

「ショーゴ、マサムネのお散歩行ってくれる?」
1階から母さんの声。
はぁ…これから観たいTVあるのに、なんでまたこんな時に限ってビデオ壊れちゃったんだか。
「ショーゴ!お父さんいないんだから、分担して散歩行く約束なんじゃないの?」
分かってるんだけどさぁ、でも今日だけは勘弁してよ、母さん行ってよ。
「ショーゴ!聞こえてるんでしょ!?」
あぁ…もぉ!!

と、階段からいつもの足音が。
マサムネ…上ってきたんだ。
あ~あ、いつもの目つきでじっと見てるよこいつ…

─全く、全然来ねぇと思ってたらTV見てんのかよ。
そんな目で僕を見ないでよ。

─いいんだぜ俺は、別に散歩1日くらい我慢できらぁ
何でお前、いっつもそういう目で僕を見るのさ…
友達の家の犬見ててもさ、みーんな言うこと聞くよ?
マサムネ…お前って、僕の言うこと全然聞かないね。

僕が生まれた時、マサムネはもうこの家にいたんだよね。
だからかなぁ…僕より兄さんだって思っているの?

─オラ、どーすんだ、行くのか行かねぇのか早く決めろ。
「ショーゴ!お母さん今手が離せないんだから、早くしてくれる?」

分かったよ…行きゃいいんでしょ、全く。

「マサムネ…」
─ンだよ?俺に何か言いたいことあるのか?


「ちょっと急ぎたいんだ、最短コースで我慢ね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて…と、ビニール袋持ったし、行くかマサムネ。
─今日はどこ行くんだ?川沿いか?それとも学校か?

「10分で済まさないと最初っからTV観れないから…今日だけ我慢ね」
─おい、いつもとコース違うぞ!こっち行くぞこっち!
相変わらずマサムネの力は凄い、でも僕も負けてられない!
「だ、か、ら!今日だけお願い!10分でトイレ全部済ませて!」

ちょっと車の通りが激しい道へ出た、僕の秘密の最短コース。
─いや違う…こっちは通るな!バカ!
「何だよマサムネ!まだ抵抗するの?」
─違う違う違う!変な予感がするんだ、引き返すぞ!
「ほら、こっちでトイレ済ませて早く帰るよ」

─!!!!!!

突然、マサムネが僕を…もの凄い勢いで押し飛ばした。
目の前が真っ暗に。
それと

ゴシャアアアァァン!!!

耳が張り裂けそうな金属音!

僕は…一体?

あ…
ここ、用水路…か。
細長い溝に、僕だけすっぽりはまってる。
そして黒い、ガソリン臭い屋根。
屋根と僕との間に…マサムネが…

…え?
マサムネ!?



何?何か言いたいのマサムネ?



どうしたんだよマサムネ、そんな弱った顔しちゃってさ…

え…なんだこれ?

生温かい…マサムネの方からこぼれてきてる。



何なんだよこれ…それに何言ってるんだよ!



ねぇ…何を言おうとしてるの?マサムネ。


ちょっと…こんな時に寝ないでよ…一緒にここから出ようよ。

起きてよ…こんなとこで寝ないでさ。

ねぇ、マサムネったら。

起きて…起きてってば…

ねぇ、マサムネ…






「マサムネ…」

「お、気がついたようじゃの」
「よかった~、どっか触っちゃったんじゃないかと思った」
「大丈夫ショーゴ?意識ある?」

「ショーゴ…よかった」

青空の下、僕の周りをみんなが囲んでいる。

権じい、リンカ、タクト、それに菜乃。
みんな心配そうな顔で僕を見てる…何でだろう?
「夢…?」

どうしたんだろう僕…確か蟲に囲まれた後、マサムネに抱かれて…?
「そうだ…マサムネは!?」
僕が尋ねると、リンカはちょっと笑いながら数m先を指差した。

…大の字になって倒れてた。
そうか…僕を抱えながら突破したんだよね…
でもよかった、マサムネも無事で。

と、隣にいた権じいがおデコにシワを寄せて、僕を杖でゴツンと。
「全く…マサムネがいち早く察知してくれたからいいものを、自殺行為じゃぞ!」
「ごめんなさい…」
「うむ、じゃが…まずそれはマサムネに言わねばの」
「うん…」

それを聞いていたのか、マサムネも起き上がった。
「全くよ…気絶して夢見てるなんていい身分だぜ」
「ごめん…マサムネ」

マサムネ、僕と目を合わすの避けてる…やっぱ怒ってるんだ。

「さて…」
「どうしたのじゃ?マサムネ」
「腹減ったからな、メシ食いに行くぞ」
突然僕の方を見て、ニヤリと怖い目で微笑んできた。

「…罰としておめーのおごりな」

「えええええええ!?」


努力結実!ワラビーV 2話

2005-07-24 21:37:59 | オリジナル連載小説
「どうするコユキ、買い物して出るか?それとも泊まるか?」
人ごみをかき分けつつゆっくり運転するハッサク。
一応自分らのギルドに申請した期日は、明日一杯まで。
ここで旅の疲れを落とすにも、お金を落とすのも自由だ。
「んじゃ両方とも」

「買い物して泊まって出る、だな」
「あぁ、よく分かってるじゃんハッサク」
「お前と何年組んでんだ」
「まぁな」

言葉少なながら、ハッサクはコユキの会話の要点を巧みに心得ていた。

今日一泊する宿にお金を払い、3人はとりあえず自由行動となった。
ガレージとシャッターもある、誰かが車を盗ろうとしても(ある程度は)大丈夫だ。

「くぁ~、変な道ばっか走ってたからさ、ケツが痛いのなんのって」
「サスがいい加減駄目になってきたからな、家についたら全部バラさないと」
車から降りて、まずはお決まりの大あくびと背伸び。
そしてやることはいろいろある、楽しみな買い物に、温かい食事とシャワー。

「ねぇねぇ、コユキ」
ビャッコが彼女の服のすそをぐいぐい引っ張る。
「お前…そろそろ服買い換えたら、いい加減ヤバいぞ?」

ビャッコはお世辞にも、あまりいい身なりではない。
だぶだぶの長袖Tシャツの上に、これまた大きめの軍用ベスト。
カーキ色のその上着には、昔は弾薬を入れていたであろう、無数のポケットがついている。
足首丈の太いバギーパンツは、ベルト代わりに腰もとをロープで結わえ付けてある
左右サイズ違いの軍用ブーツは、ワニの口のように底がパックリ開いている。
もうずっと履き続けているのか、ブーツからはみ出た裸足の爪先は、土埃まみれで真っ黒だった。
そして、いつもかぶりっ放しの戦車兵のヘルメット。
目深にかぶったその顔は、目が半分隠れて、いつも睨みつけているようにしか見えない。

「ううん、ぼく他に買いたいのがあるから」
「何買うんだ、服か?それとも靴?」
ビャッコは大きくかぶりを左右に振った。
「銃買うんだ」
「へ?銃??」
一瞬、コユキはビャッコが冗談でも言ってるのかと思った。
ビャッコはベストのポケットから、彼の身なり同様薄汚い、小さな袋を取り出した。
じゃらんと重い音・・・財布代わりだろう。
そして、その袋をコユキにぐいと突きつけた。
「銃って・・・お前、ンな金持ってんのかよ?」
コユキは、ビャッコの手からその袋を取り上げた。
「枚数数えてあるからね、盗ったって分かるから」
「大丈夫だって、おめーの金なんて盗りゃしねぇよ」
袋の中には、大小さまざまな硬貨と、何枚かの札が詰め込まれていた。
「ふん・・・」コユキは、ぽいとビャッコに袋を投げた。
「・・・盗ってないよね?」上目遣いにじーっと睨み付ける。
「盗りゃしねーっていったろ!だけど・・・銃買えるかどうか難しいぞ、それに・・・」
「それに・・・何?」
「銃買っていったい何すんだ?」ビャッコの大きなヘルメットをぽふっと叩く。
「・・・やだ、教えない」ビャッコの口がへの字になる、すねている証拠だ。
「あ、まさか俺らが寝てる最中襲ったり?」いつしかコユキのそれは笑いに替わっていた。
「コユキもハッサクも撃ったりしないよ、仲間なんだし」
「じゃ、俺ら撃たないとしたら何撃つんだよ?トカゲか?」
「教えないもんね!」言うや否や、ビャッコはたっと駆け出す。
「あ、おい!待てよビャッコ!」後を追ってコユキも走った・・・が、すばしこく小さなビャッコにたくさんの人手。
あっという間にコユキは彼を見失ってしまった。
「ま・・・いいか、買い物したら戻ってくるだろうからな」
コユキもまた、自分の買い物へと足を運んでいった。

裏通りのさらに奥。
そこには遥か昔に戦争で使われていた兵器たちの残骸が、数少ないジャンク商たちによって捌かれていた。
しかしそんなものには目もくれず、ビャッコは一心不乱に銃を売る場所を探していた。
「あ・・・」
息を切らした少年の前に、多数のライフルや大砲を並べている露天が姿を現した。
雑然とハンドガンを積んだテーブルの後ろには、白い顎ひげをたくわえた50過ぎのオヤジが、ぷかぷかとパイプをくゆらせている。
「はんどがん・・・ましんがんその他対・・・戦車らいふるもあり…弾薬その他は要…相談」
何度かつっかえながらも、看板の字を読み取る。

「ほほぉ…その看板の字が読めたとはな、なかなかのモンじゃねぇか」
「う、うん、字の勉強はしたよ、ちゃんと」
店主の思いがけない優しい言葉に、ビャッコはちょっと照れた。
「おぉう、そいつは感心だ、で、この店に何か用でもあるのかい?」
「銃欲しいんだ、ちゃんとお金はあるよ」
「ぬお!?」
店主は驚いた、大人とかが銃を買うのならともかく、こんな小さなガキが・・・と。
「しかし銃といってもピンからキリまであるぞ、どんな銃が欲しいんだ?」
「えっと・・・強いの」
「強い??」オヤジは目を真ん丸くした。
「強いのが欲しいんだ・・・いいのないかな?」
強いといっても、この子のサイズと所持金額にはキリがある。
「いくら持ってんだ?」
「えっとね・・・」
テーブルの隅のスペースに、ビャッコはさっきの袋の中身をじゃらじゃらと出した。
「これで全部」
「よしよし、じゃあ数えてみるか」
店主はビャッコの金を数えた。
・・・だが、全て安い硬貨ばかり。
「う~む・・・」考え込む店主。
「・・・足りる?」ビャッコは心配そうな顔をして聞く。
(いくらこのチビから金取るにしても、限度ってものがあるな・・・)
しかしそこそこの拳銃を売ったにしても、弾薬はその何十倍の値段だ。
さらにそんな銃を持たせたところで、この小さな身体で扱うことは不可能に近い。
店主はビャッコの顔をチラリと見た。
懇願するその目に、心が揺れ動く。

「よっ、しゃぁ!」
「あるの?」
何かをひらめいた店主は、テーブルの下から何かをがさごそ探し出す。
そしてようやく探し出した銃。
それはとても小さな、手のひらサイズのハンドガン。
「なにこれ?」初めて目にする小さな銃に驚くビャッコ。
くるりと丸みを帯びたグリップに、銃身が二つ、それとむき出しのトリガー。
埃まみれだが、ところどころ銀色に輝いていた。
「お前さんにピッタリのサイズの奴だ、珍品だぞ!」
「でもなんていうの、これ?」
「えっと・・・何だったっけか・・・な」
「知らないの?」
「いや、まぁとにかく!コイツは珍品だ!それに威力最強、オマケに小さな手にもぴったりのサイズだ!」
店主はビャッコの小さな手にそれを渡す。
しかし小ささの割にはずっしりと重い。
「わぁ・・・」ビャッコの瞳がたちまち輝く。
きっとボディの銀色がダイヤの輝きに見えたであろう。
「それと弾10発でボクのお金全部と交換だ!」
オヤジがどこかの倉庫から拾ってきた銃。
それはデリンジャーというポケットサイズの拳銃だった。
弾丸を加えても大したことの無い値だが、ビャッコの全財産と交換してちょうどいい位だろう。

「ありがとうおじさん!」
ビャッコは渡された銃と弾をポケットにしまうと、ダッシュで表通りへと消えていった。

「ま、いいか、動作は保障できねぇ…骨董品みたいなもんだ」
店主はまたパイプをふかしなおした。


天獣戦記譚マサムネ:2-7話

2005-07-18 19:41:29 | オリジナル連載小説
初めて僕たちの前に前に現われた時の武器とはまた違う。
何ていえばいいんだろう、そう…簡単に言えば右腕だけのヨロイを装着したリンカが、僕らの前に現われた。
さっきまで滑り台の上で居眠りしていたのに、いつ気づいたんだろう?

「リンカ、さっきまでずっと先の公園で寝てたのに…いつ気づいたの?」
「あたしの耳にピンって来たんだ、蟲のイヤ~な気が」
「気…?」
「うん、いわゆる動物たちの第6感…って言えばいいかな…って菜乃ちゃん!?」
そうだ、菜乃のことすっかり忘れてた。
やっぱり捻挫したのかな…さっきより辛い顔になってきているのが分かる。

「大丈夫?菜乃ちゃん」
「ん…っ」
さっき見た時より足首が腫れてきているのがはっきりと分かってきた。
どうしよう、病院連れて行かないと…
「権じいのところ行こ、いい薬持ってるから」
リンカは今にも泣きそうな菜乃を抱きかかえると、すぐさま今来た道をダッシュで。
「ショーゴ君も早く!みんなこっちにいるから!」
とはいっても、リンカ早いんだよなぁ…

5分ほど走ったとこの空き地に、権じいとタクトがいた。
「ふむ…どうやら無事だったようじゃの」
「心配したんだよ、菜乃姉ちゃんもショーゴも」
あっちの方が2歳年下だって言うのに、何故かタクトは僕だけいつも呼び捨てにしている。
菜乃の方はちゃんと「姉ちゃん」って呼んでるのに…まぁいいけど。
「それが…菜乃ちゃん転んで足捻挫しちゃったんだ…権じい診てくれる?」

空き地と言っても、それほど大きくはない。
そして…僕らが初めてあいつらに会った時のような、あの冷たい気が、だんだんと近づいてくるように感じられた。
下ろされた菜乃の足首を、権じいはじーっと眺めている。
「それほどひどくはないみたいじゃな、これならすぐ治せる」
権じいは、腰に下げていたポーチから、なにやら深緑色の小さな布切れを取り出した。
それをペタンと、腫れてる菜乃の足首へ。
「わしの調合した膏薬じゃ、ここでじっとしていなさい、すぐに治るでな」

正直ちょっと驚いた。
あんなにひどかった捻挫が…普通医者に行けば1週間はかかるくらいの腫れだったのに。
それが「すぐに治る」って…!?

「あ…」
さっきまで痛みをこらえて真っ青だった菜乃の顔に、少しずつ赤みが。
「どうじゃ?」
「え、あ…あんな痛かったのに…これ貼ってもらったら急に引いちゃって」
菜乃の顔、すっごく不思議そう。

「天界での薬をな、こっちの世界向けに調合比率を変えてみたんじゃ、用いる材料は違えども、効力は一緒じゃ」
なんか難しい言葉いってるけど…要は凄い湿布薬なんだろうな。

「…どうやらここ、嗅ぎつけられたみたい…だね」
リンカがちょびっと舌なめずりしながら辺りを見渡す。
そう、正面の通りには、さっきのダンゴ虫がわらわらと湧き出てきた。
「あと何匹くらいかな?権じい」
「あいつがどこで油売ってるのかは分からんが…お前さん含めて、もう三分の二は退治したはずじゃ」
「そっか、んじゃもうひと踏ん張りしてくるね」
リンカは鎧の腕をブンブン振り回した、まるでバッターの打撃練習みたいに。

そして…

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
姿勢を低くした直後、もの凄い速さで蟲の先頭集団にダッシュ。
そこから…何て言えばいいんだろう。
ゲームセンターでよく眺めていた格闘ゲーム、それで言うところの「流れるような連続攻撃」
ダッシュでパンチして、ひざ蹴りした後に今度は回し蹴り。
相手がひるんだところに、あの鎧の腕の、とっても重そうな一撃。
「はっ!たぁっ!っりゃあっ!!!」
流れるようにタンタタンタンと攻撃、そしてフィニッシュ。
ダンゴ虫は崩れ落ち、そして砂のようにサラサラと崩れていった。

「す…ごい!」
思わず僕の口からも、驚きの声が。
「格ゲーの多段コンボ見てるみたいだね、ショーゴ」
そう、僕が思っていたことと同じ思いを、タクトも感じていたみたいだ。
「リンカの得意とする素早さに、あの剛腕を合わせれば、無類の強さになるんじゃ」
タクトの後ろで権じいが、満面の笑みで話してくれた。

そして、集団を驚きの速さで消し去ったリンカ。
「あいつら、あんまり強くないけどね~けど大量に出てくるわ硬いわで、結構大変なんだよ」
「硬い…?」つい僕の口から、そんな言葉が出てしまった。
あの流れるような攻撃を出して、みんな瞬く間に退治して…それでも大変って一体?

「うん、あの蟲ね、背中の殻がすっごく硬いんだ、だから腹側からとにかく叩き込まないとダメなの」
「一旦危険を感知すると、奴らは丸まってしまう習性を持っているんじゃ…」
「そうなんだ…だからリンカの武器も…?」
「そういうこと~、だけどね…」

リンカの言葉をさえぎるように、僕らの背後から突然大きな音が!

ドッ!!!!

知らないうちに僕らの後ろに忍び寄っていた、あのダンゴ蟲。
それも今までのよりちょっと大きい。
でも…僕らを襲わないし、身動き一つしない。

そしてその蟲は、突然真っ二つに!
「ギ…」

正面から斬ったんじゃない、後ろからだ。
けど…確かリンカはこいつの殻が硬いからって…一体??

崩れ去る蟲。
そしてその後ろには、あの大斧を振り下ろしたマサムネが!

「だけどね、こいつだけは別」
リンカがいたずらっぽい笑顔で、マサムネを指差していた。


「何か言ったか?」


マサムネのバカ力だけは…例外なんだね。

天獣戦記譚マサムネ:2-5話

2005-07-13 22:18:53 | オリジナル連載小説
すごい怖い目で睨まれたけど、まだ絆のせいでマサムネはみんなに認められてないし、ってことで。
「俺のも買ってこいよな」
ってことでどうにか外出することができた。
日曜は何にもしないで家で寝ていたいんだけど…まぁいいか。

僕の家から15分ほど歩いたところにある、大きなファーストフード店、マーフィーズ。
菜乃はここのシェイクが大好きで、1週間に3~4回は行ってる。
大半は僕のおごりだけど…

「いらっしゃいませ、店内ですか?それともお持ち帰りですか?」
ちょっと店内を見渡す。
日曜だからかなり混んでるか…
「えっと、持ち帰りでバニラシェイクをMサイズ…」
「XLサイズで、それとダージリンとメイプルを1つずつ下さい~!」
Mサイズにしようかと思ったら、菜乃が脇から口を挟む。
ちょっと何だよXLって、1人で飲めるの?

ちなみにメイプルシロップ味は僕の大好物。
菜乃はその辺、ぬかりは無いみたいだ。

「ふんふふ~ん♪」
巨大なXLシェイクを抱えながら、菜乃はうれしそうに飲んでいた。
「んふ~、やっぱここのダージリンは最高♪」
「でしょでしょ、XLサイズなんて他のお店には無いからね」

おなかこわすぞ菜乃。

歩きながら飲むのもなんだから、ちょっと近くの高台にある公園へ立ち寄った。
ほとんど毎日人気の無い、小さなすべり台とブランコが置いてあるだけの、寂れた公園。
でも僕と菜乃はこの公園が大好き。
なぜかって言うと、高台から見下ろす景色がとってもきれいだから。
「んん~、風が気持ちいい~」
はるか遠くに港が見える。
そこから運ばれてくる潮風が、とっても大好きで。
菜乃はいつも高台のギリギリまで近づいて、その潮風の香りにひたっていた。

一方、リンカはというと…
「お日さまが気持ちいいね…ここはいつも変わってない…」 
すべり台の坂部分に寝そべって、日光浴をしていた。

もう少し、ここにいようかな…やること特に無いし。
「あ」
しまった、マサムネのシェイク買うの忘れてた。
あ~、あいつ怒るだろうな、急いで買ってこなきゃ。

「ちょっとマサムネのぶん買ってくる、何味がいいんだろう、リンカ?」
幼なじみだったら、あいつの好きなのわかるかも。

「んく~…」

…寝てた。

しょうがない…菜乃と一緒にもう一度マーフィーズに戻るか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「マサムネって…何味好きだか分かる?」
「ンなの、あたしが知ってるわけ無いじゃん、適当でいいよ適当で」
公園を下る長い階段、菜乃は思ったとおりの答えを僕に返してきた。
「バニラストロベリーチョコミントダージリンバナナメイプルエスプレッソマンゴーピーチ…と」
「だからさー、別に全メニュー考えなくったっていーじゃない」
とりあえずシェイクの全部のメニュー思い出す…あぁどうしよう。
「だってさぁ、昨日プリンシェイク飲ませたら怒ったじゃん、また変なの買って怒られやしないかって…」
「じゃベーシックなところでバニラでいいじゃん」
「うん…」

階段を降りきったら、お店へダッシュ。
溶けないうちにマサムネのところへ持っていかないと。
「!」
と考えてる時に、前を走ってた菜乃の足がピタッと止まる。
「どうしたの?」
「…前見て…」
驚きの色を隠せない、その顔。
菜乃に言われるままに、ずっと前のほうを見た。

「!!!」
「ショーゴ…昨日のアレ…だよね」
「うん…あれだ…」
ずっと先にある住宅の並び、その通り一帯が、あの霧に包まれていた。
白と黒しか無い、あの霧。

「逃げる…菜乃?」
「うん…戻ってリンカ呼んで…」

ワシャ

「!?」
話に割り込むように、妙なざわついた音が。
ワシャ…シャシャシャ、ジャッ!
落ち葉を踏みしめるような、軽いけど、でも大量の音。
そんな音たちが、近くに…いや周りに!

シャ…

角から姿を現したそいつ。
「これ…」
「うわやだ、これ苦手!」
黒いいくつもの節に別れた身体。
そしてその身体からは無数の脚が伸び、前でワシャワシャと音を出している。
猫背気味の身体のてっぺんには、長い触角と、電気切れかけの懐中電灯みたいに力なく光っている、黄色い眼。
「これ…ダンゴ虫…だよね」
「いやいやいやいや、これわたし大ッッッッ嫌いー!」
ダンゴ虫っていっても、その立ち上がった背丈、僕らと同じくらい。

そしてそれがたくさん、ワシャワシャと現われてきた。
その光る視線は、みんな僕と菜乃に!

「逃げよう!」
マーフィーズへの道にはたくさんのダンゴ虫でふさがれていた。
右も左も…何匹かいる。
後ろの道には何もいない、チャンスだ!
ダッシュでさっきの公園へ!

「菜乃は公園行ってリンカ呼んで!僕はマサムネと権じい呼ぶから!」
あのダンゴ虫がどのくらいの速さか分からないけど、今は逃げるしかない。

っていうか…

ワシャワシャワシャワシャ

ぺったぱったぺったぱった


あー、いつものスニーカーにしとけばよかった。
なんで菜乃も僕もこういうときに限ってサンダルなんか!

だんだんとあいつらの足音が早くなっていくのが分かる。
後ろは振り向きたくない、さっきより増えているのが音でわかるから。


あぁ…マサムネ連れてけば良かった…


天獣戦記譚マサムネ:2-4話

2005-07-13 00:24:43 | オリジナル連載小説
「おい、片付け終わったぞ」
2階の階段をどすどすと、大きな足音でマサムネが入ってきた。
心配してた食器割りも無かったみたいで、ちょっと安心。
「マサムネ、エプロン似合うね~!」
と、冷やかし気味にリンカ。
「うん、なんかホントにお手伝いさんって感じ」
菜乃も追い討ちをかける。
「………」
そこまで僕には言えない…
っていうか、ここで暴れるんじゃないかって、ちょっと心配。

「リン、さっきはよくも俺のこと…!」
「え?何のことだっけ?」
「大飯喰らいだ性格最悪だとか足が臭うわとか、ウソ言うんじゃねぇ!」
「だーってー、それ全部ホントのコトじゃん」
「ぐっ…」
っていうか本当のことだったんだ、リンカの言ったことって。

「けどな!おめーは俺の臭い嗅いだことあるのかよ、ええ!?」
「あーのねー、あんたと何年一緒に暮らしたと思ってるのよ、そんぐらいわかって当然じゃん」
「一緒に暮らしてたって言われたかぁねぇ!、だいいちおめーだって風呂大嫌いじゃねぇか!」
「ネ…ネコは元来濡れるの嫌いだって知らないわけ?頭悪すぎじゃんマサムネ!」
「ほら見ろ、だったら風呂嫌いだなんだぬかすんじゃねーっつーの!」

あー、キリがないやこれじゃ。
っていうか2人とも同じレベルっぽい…頭のつくり。

「ショーゴ」
2人の口論を黙ってみていた菜乃が、つんつんと僕の肩をたたいた。
「ちょっといいかな?」
「え…?うん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
レベルの低い口論を背中に、僕らはベランダへと出た。
そう…あの時、流れ星にお願いした、あの場所だ。
「どうしたの、菜乃?」
「ん…あ、いや、おバカ連中の口論見ててさ、ちょっと外の空気吸いたかったんでね」
ベランダの柵に頬杖をつきながら、ちょっと菜乃が苦笑した。
肩までとどいた髪を後ろで束ね、服はお決まりのTシャツにトレーナーのズボン。
いつものラフな菜乃の格好が、今日はちょっとだけ大人に見えた。
「どうする、今日はどっかへ遊びに行く?」
柵に背を向け、つま先でくるくるとスリッパを回転させながら、僕に話しかけた。
「とりあえずシェイクおごらないとね、お礼しなきゃ」
菜乃は黙ってウンウンうなづいた。
「あ、昨日の夜はどうだったの、リンカとは」
ちょっと聞いてみたかった、昨日のことを。
僕と違って菜乃の家のほうは《絆》があるから、スムーズに認めてもらったんだろうな…って。

「寝たの夜の2時…」
「えぇ!?」
僕の家だって寝る時間は最高11時だし…かなりの夜更かしだ。
「パパとママがリンカにお酒薦めちゃってさー、もう騒ぐ騒ぐ」
僕には全然分からなかったな…寝てたからか?
「ショーゴはどうしてたの?夜」
「外で毛布かぶって寝てた」
「え?なんで外で??」
菜乃は、僕の格好を上から下までじーっと眺め回した。
「…そーいや、昨日と服変わってないね…」
すっごく冷ややかな目。

「とりあえず着替えたら?それじゃマサムネと一緒だよ」
「臭うかな…?」
考えてみたら、寝るときもパジャマに着替えず、出かけの服のままだった。
まぁ確かに…菜乃に言われるのも無理ないか。
「着替えたらマーフィーズ行こ、ここで待ってるから」
「うん」


「だから!俺ら犬だって濡れるの嫌いなのはいっぱいいるんだ!」
「そーゆー問題じゃないじゃん!要はキレイ好きかどうかの問題で!」

部屋に下りても、まだ口論バトルは終わってなかった。
母さん起きるとやっかいだし、どうにかしないと。

「僕、リンカ連れて外行くけど…マサムネは留守番ね」

「あン??」