ただ文章を書くだけのブログ

登山とか旅行とか音楽とか楽器とか

婆さんのスカーフの話

2021-06-15 21:39:55 | 思う事があってさ
 地元が大変な田舎というだけあって、いつも通り隣町のスーパーに食材を買いに行くと、来ている客の大半は高齢者だ。土日となれば若い人もそれなりに居るが、平日はだいたい60歳以上が殆どで、その殆ど以外の人も40歳以上というような有様なのが我が地元。

 特に何を見るという事も無く視線を流していても、店に並んでいる物なんてのはそんなに変わり映えもしないので、必要な物を買い物かごに入れた後は、何となく、別にこれという意味もなく、他の客をチラりと見てしまう。頭のハゲた爺さんや腹の出た中年のおっさん、しわしわ顔で腰ががっつり曲がった農家育ちのおばあさんに、最初から最後までずーっと喋ってる地元のおばさん二人組やら、きっと、いつも見ている人と同じ人ではないのだろうけれども、きっといつも見ている人と同じ様な人達ばかりだ。

 そんな人たちの”服装”の中で、俺がいっつも目に留めては内心うれしくなるのが「おばあさんが頭や首元に巻いているスカーフ」だ。何やら変な趣味があるのではないかと思われそうなので最初に言っておくが、おばあさんのつけてるスカーフが好きなんじゃない。「何歳であろうと、顔や手足が皺だらけであろうと、外出する時に身だしなみを整えるその姿勢」が好きなんだ。

 俺は別に男だから男の味方だとか女が好きだから女の味方だとか、そういう事を言うつもりは無いんだけど、インターネットの色んなサイトを見ていると、その中には結構「男or女のこういうトコが嫌いだ」(これでもかなり優しい表現だが)というような記事があるけれど、女性の身だしなみに掛かる費用や時間についての苦言を見たりすると「ちょっと浅はかな考え方じゃないかな?」という気がしないでもない。

 俺自身、正直ちょっと男としては結構気を付けている方だと自分でも思うくらい鏡を見て眉毛剃ったり髭の剃り残しチェックしたり、髪のサイドが膨らんでないかとか、鼻毛出てないかとか、そういうのをチェックする癖がついてて朝晩10分くらいかける事もあるくらい神経質で、散髪も2~3週間に1回はほぼ必ず行く。出掛ける時に服の合わせ方が気に入らない(同じ組み合わせでも日によって変かな? と思う日があったりする)と何回か着替えることもある。これは、女性だと当たり前じゃね? と思うかもしれないけど、男だとかなりシビアな方だ。そんな俺から見ても、世の中を当たり前に歩いている女の人の殆どは「間違いなく身だしなみに俺よりも遥かに時間が掛かっている」のは、自分がやってるだけによく分かる。

 それを分かるだけに、上で書いたような記事というかサイトの中身を見た時に「女は勝手に化粧して勝手に金と時間を使ってるだけ」というような内容の書き込みを見ると「この書き込みをしてるやつの姿は中々見れたもんじゃないだろうなあ」と思ってしまう。こういう事に気付けない人っていうのはやっぱり、自分のそれにも気付いていないのは、まず、間違いないと思う。

 こういう”身だしなみ”ってのは通り一遍の意味がある訳じゃなく「自分が良くなる気持ちよさから毎日行う」という部分もあれば「人に自分のみっともない所を見せない最低限の礼儀」という部分もあり、どっちか一方だけの理由で行うものじゃない。それは正直「女性は大変」とは言うものの「100%損だと思ってやってはいないでしょ?」という気持ちもある。自分が磨かれるあの感覚はやっぱり面倒臭さはあるものの、やっていればそれなりに自分に自信が出るものだ。だからこそ、身だしなみを「服の選び方だけのこと」と捉えている様なちょっと残念な”男たち”の「毎日風呂に入ってりゃ良いというような考え」にはちょっと賛同出来ない。大事なのは本質的な清潔さじゃない、清潔感なのだ。

 話を戻すが、おばあさんのスカーフというのは何のために付けているのだろうか? と昔思った事があったので何人かの地元の婆さんにそれとなく聞いたことがある(今思えばなんと不躾なガキだ)が、みんながみんな言うのは「首が皺だらけだから隠す為に」という理由だった。この理由も上述した2つの意味で「自分の醜い所を見せないという自分の為の理由」と「人に不快な部分を見せない相手の為の理由」が両立している。俺は何というか、そこに「人の美しさ」を感じる。100%自分の為でもなく100%人の為でもなく、しかし、どっちにも不利益は無く、悪意なんて全く無く、ちょっとの自己満足もある、そんな健気さを感じるんだ。

 色んな店で色んな人を見ていると、誰しもひとりふたりくらいは「お前、外はお前の家の中じゃないんだぞ」と言いたくなるような不体裁な格好の人を見たことがあるだろう。もっさりした訳の分からない髪型の頭から落ちたフケが肩や首回りに乗っている様なヤツとか、今しがた布団から出てきたままに店に来たかの様な毛玉だらけの上下スウェットに醜い体型のヤツとか、垢でも塗りこんだのかと思う様な小汚いスニーカーにダルダルのソックスを履いたヤツとか、奴らは年齢はさまざまであるが、総じて「男」だ。悲しいことに、男だ。女でそんくらい酷いのは殆ど見たことが無い。(世の中にはいるのかもしれないけどね)デブは男にも女にもいるけどさ。

 どうしても男っていうのは「みっともいいと感じるのはまず第一に顔の造形だろう」という考え方をしがちだけど、これは俺は間違いだと思っている。いや、間違っている、という訳じゃないんだけど、これは「まず身だしなみが出来ていないことにはその判断をする領域にすら立てない」のだと思う。これを解せずに「どうせ俺は顔が悪いから」と、それをあたかも色々な手間を惜しむ体のいい言い訳の様に使う男を見ると、見苦しい、と思ってしまう。なんでもそうだが、卑屈になる前に少しは試してみろよ、と。

 なにはともあれ、あの「おばあさんがスカーフを巻く気持ち」は何気に大事な事だと思う。たかがおばあさん、されどおばあさん、気を抜くと若い俺らも「おばあさんのオシャレ」に負けてしまうよ。

 (ちなみに、今回書かなかったけど、田舎特有の”フォーマルなジャケットとスラックスで農作業をする爺さん”とかも好きだ。都会の人だと見たことないんだろうけど)