週刊ダイヤモンド5/23日号の特別レポート「日本のワクチン後進国ぶりをあらわにしたもう一つの感染症」を見て、少なからず日本医学の高さを評価していたが、こんな遅れもあるのかと愕然とした。
冒頭に「世界中で新型インフルエンザが関心の的であるが、日本国内ではもう一つの感染症への恐怖が乳幼児の保護者のあいだで話題となっているのをご存知だろうか。乳幼児を襲い、命を奪うこともある細菌性髄膜炎だ。これを予防するワクチンが昨年末に解禁されたが、品不足で保護者や医療現場から悲鳴が上がっている。日本の"ワクチン後進国"ぶりがあらためて浮きあがってくる。」とあるので、ひきこまれるように目を走らせた。
千葉県の団体職員の高畠紀一氏が「細菌性髄膜炎から子供たちを守る会」の事務局長に就いたのは5年前。当時3歳のわが子が突然の如く、"ヒブ(インフルエンザ菌b型)による細菌性髄膜炎"に罹患「今晩がヤマです、三分の一の確率で死亡するか、三分の一の確率で後遺症が残るかもしれません」と医師に告げられたが、その二日前まで元気に走り回っていたわが子が何故急にこんな事態になったのか,そのときは理解できずに呆然とした。
幸いにして息子さんは健康を取り戻したので、運が悪かっただけとして、早く忘れようとしていたが、たまたま、ある報道で細菌性髄膜炎は「ヒブワクチン」で予防できること、そしてこのヒブワクチンは20年以前から存在し、11年前には世界保健機関(WHO)から無料定期接種の勧告書が出ていた事、すでに世界では133カ国で定期接種を行なっている事実も知った。
「運が悪かったのではない、予防できた病で、一時は死線をさまよった」と言う悔しさと、「ほかの親子に同じ思いをさせたくない」と言う思いが強まり、この病を広く啓発し、ワクチン解禁を求める運動に加わったというのである。
小児科医や守る会を中心にした10年以上に及ぶ啓蒙活動や、関係機関への働きかけが実り、日本でもヒブワクチンが解禁されたのが昨年12月中旬のことである。ところが、このニュースや啓蒙活動の結果、悩ましい結果も生まれた。解禁を待っていた多くの親達に加え、ワクチン解禁のニュースを見た人たちが殺到して製造元が事前に年100万本、25万人分を用意していたが、年明けには供給不足状態になった。日赤病院では四月二十七日に予約を再開したが、3日後には受付を終了という状態。
今回のようなワクチンの存在を知っているか否かと言った情報格差、意識格差も全体から見ると、非常に激しい。いち早く接種をすませた親がいる一方、約4割の親が、この病気のことを知らないのが現状であると言う。例えば麻疹は、多い年には100人も命を落としていると言う怖い病気なのだが、麻疹で子を亡くした親はたいてい"麻疹が死ぬ病気でワクチンで防げたなんて知らなかった"と悔やむように、親の情報格差が、そのまま子供に影響が出ているのである。
それと大きな問題が、日本がワクチン後進国であることだという。たとえばヒブワクチンは、世界で日系人や在外邦人を含めて約1億5千万人が接種しているが、日本では独自の審査や成分にこだわるあまり、導入の遅れや供給不足を招いた。このような医療行政の怠惰や役所の責任回避の体質は責められてしかるべきだと述べる専門医もいる。
最も、この背景には、過去のワクチン接種による副作用が社会問題となり、ワクチン不要論や行政悪玉論が高まり、被害者救済を優先するあまり医学的証明が未解決のままに賠償金支払いの判決が定着し、世論も喝采を送ったのも事実。マスコミや市民団体などがワクチン副作用被害を大々的に取り上げ、マイナスイメージを増幅、定着させてしまったことがある。こうして日本人がワクチンを嫌っている間に、海外とのワクチン開発体制やワクチン医療水準が大きく差が開いてしまったと言う。接種義務化をやめた日本で、麻疹の大流行が起こり学校閉鎖が相次いだことも出ている。また感染した日本人旅行者や留学生が世界中にバラ撒き"麻疹輸出国"などと後ろ指差される不名誉な存在になったことによって徐々にではあるがワクチンの逆風も止みつつあるのが現状であるという。