古代都市の形成
大河のほとりの新生活では、肥沃な土壌で潅漑を行うことによって生産力を増大させることに成功した。しかし一方で水路や農地の管理・維持のために多くの人力が必要になった。そのために周辺の地域の人々を呼び込み、定住してもらうような働きかけが行われたと考えられる。その結果、人口が急増したと考えられる。この人口増加には、人々の密集化にともなう出生率の増加も関係していると推測される。
それでは、この人口増加はどのような影響を及ぼしたのだろうか。身近な例で考えてみよう。
現代社会で一人暮らしをしていると、食事の準備と後片付け、掃除、洗濯など日常生活の様々な作業を自分一人でこなさなければいけない。ところが、結婚して夫婦二人の共同生活を始めると家事を分担するようになる。この役割分担が家事の効率化に重要だ。例えば、一方が食事の準備を担当した場合、二人分の料理を作る労力は一人の時の二倍ではなく、ずっと少ない。また、一方が食事を作っている間に、もう一方は掃除や洗濯などの別の作業を行うことができる。このように人が増えると、一人で行っていた作業を集約させ数人に分割することで効率化できるのだ。その結果、余暇が増えて生活に余裕が生まれる。大河の流域で増加した人々の中でもこのような「分業」を行うことにより、効率化を進めたと考えられる。
さらに、このような分業化により集団社会の技術は大きく発展する。なぜなら、それぞれの作業の担当者は専門の仕事を日々繰返すことで次第に熟練度が増すだろうし、新しい技術を生み出す努力もする。こうして、特定の仕事を専門とする多数の集団が生まれ定着することで、技術は高度化し社会は複雑化したと考えられるのだ。
このように世の中が高度化し複雑になってくると、いろいろな情報を整理して保存する必要に迫られる。そこで、物事の状態を表す絵文字を用いた記録が始まったと考えられる。やがて一つの文字が一つの語に対応する象形文字が生み出されることによって、より複雑な記録が可能になった。四大文明で発明された文字はこのような象形文字だ。
また、分業化が進んだために人々が生活必要品を売買する必要が出てくる。このために貨幣制度が整った。
さらに、多数の人々が生活する土地では、集団生活の秩序を維持するための役所や警察・裁判所にあたる組織も必要になってくる。当然、灌漑農業を行うための組織は最も大切だ。また、食料の生産が増えると、外部からの略奪者や侵略者に対抗するための軍隊も必要になるだろう。次第に、以上のような組織を統括する政府のようなものが作られるようになり、そのリーダーたちが王や貴族などの支配者層になったのではないだろうか。
また、これらの支配者たちによって計画的な街づくりが進められたと考えられる。つまり、効率的な生活のためには、食料や生活用品の貯蔵を行うための専用の施設やそれらを運搬するための道路が必要になる。また、飲み水などための上水の設備や生活排水のための下水の設備が作られただろう。
このようにして都市化が進んで行ったと考えられる。