春烙

寒いなあ…

四神伝 一章 三.白虎<10>

2008年03月10日 00時53分00秒 | 四神伝 一章<完>
「……んっ…」
 何かが撫でている感触がし、壱鬼は目を覚ました。
「起きた、壱鬼兄さん」
 壱鬼の隣には、翼乃が立っていた。
「どこだ、ここ?」
 壱鬼は立ち上がって、周りを見渡した。
 そこはあたり一面、草が生えている野原であった。
「空間の中だと思うけど」
 空の方を見上げて翼乃は言った。
 ゆがんだ空がそこにあった。
「あのおばさんは?」
「ヒジリだよ、壱鬼兄さん」
「別にどっちでもいいだろ」
「よくないわよ!」
 と、壱鬼と翼乃の前にヒジリが姿を現した。
「……」
 翼乃は目を細めて、ヒジリを見た。
「なんなの、朱雀、その目は!?」
「いや……別に」
「ここは空間の中なのか、おばさん」
「ヒジリだって」
 敵であろうと一応名前で呼ぼうよっと、翼乃はそう思って突っ込みをいれた。
「空間によって、場所はいろいろよ……あれも空間の中にあるらしいけど」
「「あれ??」」
「でも」
 ヒジリは袖から扇子を取り出し、壱鬼と翼乃を指す。
「あれの所に行く前に、あなたたちはいないのだもの」
 そう言った瞬間、ヒジリの周りに無数の矢が現れてきた。
「その矢は、おばさんのか!?」
 矢の形を見て、壱鬼は怒鳴った。
「名前は覚えようよ、壱鬼兄さん」
「なんで俺ばっかり、当ててくるんだよ!」
 妹の言葉を聞こうとせず、目の前の敵をにらみつけていた。
「白虎の毛って、白くてふわってしてて、かわいい」
「「かわいい――!!?」」
 女子高生みたいな事を言い出したヒジリに、二人は驚きの顔を隠せずにいた。
「朱雀の赤い羽より、白虎の白い毛が気持ちよさそうな感じだったからよ!」
「翼乃。やっぱ、おばさんのままでいいか?」
「もう、勝手にして」
 自分の事を言われて、あきれてしまった翼乃。
「とにかく! 死になさい!!」
 ヒジリが言うと、無数の矢が壱鬼と翼乃に目掛けて飛び出してきた。
「「やばっ!!」」
 壱鬼と翼乃は左右に別れ、矢をかわした。が。無数の矢は左右に別れ、二人の後を追う。
「どんどん逃げなさい!」
「どうすんだよ!」
「聞くなよ!……なんか武器があるといいけど」
「どこにあるんだよ!?」
「しゃべってて、いいのかしら?」
 ヒジリは扇子を仰ぎ、矢を出現させる。
「「うそっ!?」」
 二人は無数の矢から逃げ続けていたが。翼乃が足をつまずき、倒れてしまう。
「翼乃!」
 妹の所へ向かおうとした壱鬼だが、正面に矢が現れ、飛んできた。
「なっ!?」
「死になさい! 白虎、朱雀!!」
 矢のスピードがまし、壱鬼と翼乃に襲い掛かる。

 ――このまま死ぬのか
 ――こんな所で死んでいいの

「な、なんだ!?」
「この声……」
 突然、壱鬼と翼乃の頭に呼びかける、なぞの声。

 ――自分たちの事を知らずにか
「知りたいに、決まってるだろ!」

 ――大切な事を忘れたままで
「大切な事……」

 ――立て。そして、あれを呼び起こせ
 ――私たちの……あなた達の武器を

「立ってやるよ!」
 壱鬼は足を止め、翼乃は立ち上がった。
「呼び起こしてみせるぜ!」
「俺たちは……」

 まだ死ぬわけには、いかないんだ!!


 壱鬼と翼乃に呼び掛けた声。その時、泳地と水奈にも異変が!


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