春烙

寒いなあ…

四神伝 一章 四.朱雀<17>

2008年06月08日 23時25分09秒 | 四神伝 一章<完>
 突然、部屋中に激しい揺れが、鳴り響いていた。
「うわ、なんだ!?」
「普通の揺れだと思いますか!?」
 青のコートを着込んだ水奈が、兄に言った。
「いや……違うな」
 揺れが少しずつ止まりかけていた時だった。アスカが扉を開けて、飛び出していったのだ。
「「アスカッ!」」
 アスカの後を、泳地と壱鬼は追いかけてく。
『待たれよ』
 ベルトをつけて水奈も追いかけようとした時に、長に呼び止められてしまう。
「なにか?」
『先ほどの揺れ……朱雀が覚醒した』
「なんですって!?」
『じゃが……少し不安定じゃ』
「どういうことですか。不安定というのは?」
 水奈は長の方を向いて、座った。
『妖魔が何かしたのか分からぬが。翼乃どのは、怒りに任せて朱雀になっておる』
「それが一体なんでしょうか?」
『怒りに任せて覚醒をすれば……姿が不安定となり、死にいたる恐れがあるのじゃ』
「そんな!!?」
『翼乃どのは今、意識を失っておる。意識を取り戻せば、姿が安定するはずじゃ』
「意識を取り戻せば、いいのですね」
 立ち上がると、水奈は壱鬼が開けたもう一つの箱の中から、赤いコートとベルトを手にした。
『待たぬか。まだ話があるのじゃぞ』
「早くしないと、あの子が死ぬんです!」
 水奈が怒鳴ると、長は表情を変えないまま話を続ける。
『そのために、お主らに知っておくことがあるだろう』
「知っておく、こと?」
『神器の意じゃ』
「!!」
『わしが知っておる意は、3つ。『守り』『癒し』『排除』じゃ』
 水奈は首を傾げて言った。
「3つ? おかしくありませんか」
『知らぬからな。朱雀の神器の意を』
「えっ……なぜですか?」
『自分で見つけて欲しい……朱雀がそう言ったのじゃよ』
「……今も変わりませんね」
 水奈は少し笑みを浮かばせる。
「知っていますか? ……火を消すのは、水の力ですよ」
 と言って、水奈は部屋を出た。

「兄さん!」
 コートとベルトを持った水奈は、兄に歩み寄った。
「翼乃君はっ」
「あそこだ」
 泳地が破壊された壁を指すと、水奈はコートを握り締めて近づいていった。
 上空には、巨大な炎球が妖怪に囲まれていた。
「やはり……」
 横を見ると、今にでも外に飛び出そうとするアスカを壱鬼が止めていた。
「よくっちー!」
「バカ! やめろ!」
「だって、よくっちが苦しんでいるんだよ!!」
「……」
 泣きながら妹の名前を叫ぶアスカを見て、水奈は炎球の隙間から見える黄金に輝く瞳を見つめる。
「(まだ……死んではいけませんよ)」

「わざわざ連れてくるとはな」
 男の声が聞こえ、四人は後ろを向いた。
「お前は」
「おれはミダラ。あの方の命により、貴様らを殺しに来た」
「…あなたが……」
 水奈が一歩前に出ると、泳地はベルトにかけた銃に手をかけ、壱鬼は白いグローブをつけてアスカの前に立った。
「あなたが、翼乃君を朱雀にっ」
「まあ。そうとは言うな」
「どういう意味だ」
 銃をホルダーから抜かないまま、泳地は言った。
「おれは何もしていない。自分からなったんだからな」
「自分から、だと?」
「そう……人間や妖怪はただの道具でしかない、と言ったらな」
「彼女が怒るのは、当たり前ですよ!」
 水奈の瞳が、穏やかな青から怒りの色へと変わっていた。
「翼乃君は僕達兄妹の中で、一番自由を好んでいるんですよ。『誰が何をしても自由だから』『生きるのも自由』てね。あの子はいつも自由に生きているんです……それなのにあなたは!」
「おれはおれの言いたい事を言ったまでだ。それに。あの方がお目覚めになれば、この世に生きるもの達は、我らの支配下となるのだからな」
「そんなことは……」
 水奈は赤のコートとベルトをその場に置いた。
「そんなことは、させませんっ!」
 置いた瞬間。水奈の腕が青い水の渦に包み込まれていく。
「加水(かすい)・水流波(すいりゅうは)!!」
 水奈が腕を伸ばすと、絡み付いていた渦が大きくなってミダラに向かっていくが、ミダラは横に避けていった。
「なぜ。そんな力が出せるんだ!?」
 ミダラは水奈が放った水の渦を見て驚いていたが。
「自分の心を信じればいい」
 カチリッという音がミダラの後ろからしていた。水奈が攻撃をしたと同時に、泳地がミダラの後ろに回りこみ、ホルダーから銃を抜き頭に突きつけたのだ。
「あいつが俺に言ってくれた言葉だ。あいつは……翼乃は生まれた時から力を持っていて、一度も嫌だと思ってない。むしろ、誰かのために使いたいっと言っていたんだ」

 ――ドクンッ

「嫌だと思ってないだと? ハッ、笑わせる。人間は力を持つ者を避けているのではないか」
「それはそれでいいだろ。無理にいやにならなくても」

 ――ドクンッ……

「人間全員が避けているわけではありません。一人一人。誰が誰を受け入れても、その人が決めたことですから」

 ――ドクンッ………

「それを……
 それをあなた達、妖魔に決められたくありませんっ!!」



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