春烙

寒いなあ…

四神伝 一章 四.朱雀<15>

2008年05月29日 22時47分30秒 | 四神伝 一章<完>
 翼乃が焔斬を呼び出した時、奥の部屋では。
「どうしたの!?」
 泳地・水奈・壱鬼が重力に押されているかのように、倒れかけていた。
「な、なんですか!? この威圧は!」
「さっきの部屋からか!」
『この気配……懐かしいのう』
「えっ?」
 アスカは首を傾げて、長の方を見た。
『あの者が呼び出されたのか』
「あの者って、誰だよ!?」
『火炎の大妖怪であり、朱雀の妖である……名を焔斬という』
「焔、斬……」
 重みが消えると、体中から力が抜けていき、倒れていく。
「重かった……」
『焔斬を呼び出せるのは、朱雀だけじゃ』
「つまり……翼乃君が呼び出した、っと」
 呼吸を整えながら、水奈が言った。
「大丈夫か、水奈」
「平気です……でもなんでしょう。暑苦しくて…」
『火と水は対する属。また、地と風は対する属』
「それって。どっちかが強くなると、もう一方は弱くなる――ってことか?」
 壱鬼が腕を天秤のように動かして説明すると、長は頷いた。
「じゃあ……翼乃君より強くならないといけませんね」
 と言うと、水奈はある事に気づく。
「翼乃君が焔斬を呼び出したという事は、別の妖魔が現れたのでは」
「ないとは言えないな」
「うわ、マジ!?」
 話を聞いて、壱鬼は驚いた。
「おばさん以外にもいんのっ」
「お前、名前で言わないのか」
「言う気、なしっ!」
「……」
 胸を張って言った弟を見て、泳地は何も言えなかった。
「長。例の物をお持ちしました」
 雷信とかがりが、それぞれ茶色の箱を持って現れてきた。
「それは?」
『お主らの前世が、ここに置いていった物じゃ』
「俺達が置いていった?」
『これを返す前に、言っておきたい事がある』
「言っておきたい事?」
 長はアスカを指して、こう告げるのであった。
『麒麟の来世を、ここに置いてはくれぬか』
「なにっ」
「どういうことだよ!」
『これから先。妖魔との戦いが過酷になるだろう。そんな時に、来世を守れる自信があるのか?』
「だからと言って……」
 水奈が長を睨みつけて言った。
「ここが安全とは思いませんよ。現に妖魔がいるのですから」
『なら。お主らは来世を殺すというのか』
「それは!」
 水奈が言おうとしたが、泳地に止められてしまう。
「それが運命(さだめ)というのなら。俺達は死ぬまで背負ってやる」
 泳地はアスカを見て、長に忠告した。
「だがな、こいつを守るのは俺達だということを忘れるな」
『それでよいのか?』
「俺は守りの神だ。そして、破壊の神でもあるんだ」
 それにっと、泳地はさらに続けた。
「そういうのは、アスカが決めることだ。貴様がきめることじゃない」
『ならば。来世に決めてもらおうか』
 長が言うと、その場の全員がアスカを見だし、泳地がアスカに聞いた。
「アスカ。お前はこの城にいるか? それとも」
「みんなといたいよ!」
 アスカは怒鳴り、黄金の瞳を輝かせる。
「話はわからないよ。でも、泳地達はぼくにとって、生きる場所なんだ。死んだ仲間の分まで生きろって、言ってくれた!」
 と言うと、アスカは扉の方を向いた。
「今だって。よくっちが心配でしょうがないよ。強いのは分かるけど……でも、死んだらやだよ!!」
『それが、答えか』
「ぼくは、泳地達と一緒に、生きたい!」
 透き通った黄金の目が、長を見つめていた。
『……そこまで言うのなら』
 長が片手を軽くあげると、雷信とかがりは箱を泳地たちの前に置いた。
『それをお主らに返そう。お主らに必要な物じゃからな』
「開けていいのか?」
「ああ」
 兄の許しを得ると、壱鬼は二つの箱のうち、一つを開ける。
「何が、入っていたの?」
 アスカが聞くと、壱鬼は首を傾げていた。
「うーん……この箱は、兄貴達にやるよ」
 壱鬼はふたを閉じて、箱を兄達に渡して、もう一つの方へと行った。
「どういう事でしょうか?」
「こういう事だろう」
 泳地は三男から渡された箱を開けて、水奈に言った。
「これは……」
 水奈は開けられた箱の中をのぞいた。箱の中には、黒と青の布がわかれて、黒には銃が二丁、青には色鮮やかな玉が上に置いてあった。
「翼乃が持っていた短剣と同じように。俺達にも武器があるんだな」
 泳地が銃を取って言うと、水奈は青い布の上にある玉を手のひらにのせる。
「それは、五玉石だと思います」
 水奈の手にある玉を見て、かがりが言った。
「ごぎょくせき?」
「翼乃様が長からもらった宝玉の原石で作られた、武器です」
「同じ原石、というと?」
「そこまでは……ですが。天界にある特別な鉱石だとか」
「…きれい……」
 五玉石に心を奪われ、水奈はうっとりと見つめていた。
「おっ、とっと」
 それを見た泳地が、うっかり銃を落としそうになった。
「どうかしましたか、兄さん?」
 何食わぬ顔で水奈が聞くと、泳地は苦笑いをして言った。
「いや。なんでもない(こいつって、こんな顔をするんだな)」
「わあ!」
 突然、アスカが声を上げた。見ると、壱鬼が白いコートを着ていた。
「うわっ、ピッタリだ」
 壱鬼はコートの袖を引っ張っていた。
「どうやら。その布は特別製だと思います」
「うーん。たしかに、違うような……」
「似合ってるよ、壱鬼!」
 瞳を輝かせているアスカを見て。
「そうか?」
 壱鬼は苦々しく言った。
「なるほど……」
 泳地は黒い布を箱から取り出す。
「コートだったのか」
 銃を床に置き、泳地は立ち上がって素早くコートを着た。
「たしかに、サイズは合ってるな」
「底の方に、何かありますよ」
 と言って、水奈は箱の底にある物を取り出した。
「……ベルト?」
 泳地は不思議そうに眺めている弟から、ベルトを取る。
「なんだ…?」
 ベルトにはいくつのもポケットがあり、背にあたる所にはホルダーが2つ付いていた。泳地は床に置いた銃を一つ取ると、ホルダーの1つに差し込む。
「そういうことか」
 ベルトをつけると、泳地はもう1つの銃をホルダーに差し込んだ。
「俺達だけが、使える物か……」



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