7月29日(土)午後2時から新見公立大学学術交流センターに島根県隠岐郡海士町(あまちょう)から山内道雄町長を迎えて、第19回「鳴滝塾」が開かれた。山内町長は「ないものはない~離島からの挑戦」と題して講演した=写真。
海士町は島根半島の沖合約60㎞に浮かぶ隠岐諸島の1つ中ノ島で、人口は2,350人。承久の乱で配流された後鳥羽上皇が、島内の隠岐神社に祀られている。過疎・少子高齢化に加え、離島振興法などによる公共事業への投資で社会資本は整備されたものの地方債は体力以上に膨らんで財政が悪化。「平成の大合併の嵐」の中、「自分たちの島は自分たちで守り、島の未来は自分たちで築く」と任意合併協議会を解散、「自立への道=単独町制」を選択した。ところが、「三位一体の改革」により地方交付税が大幅に削減され、島の存続さえも危うくなった。そのとき打ち出されたのが「海士町自立促進プラン」(平成16年)。住民代表と町議会、町行政が一体となって策定された。
徹底した行財政改革(給料・報酬カット、職員数削減、年功序列の廃止など)を行い、新産業の創出を推進。海士町が募集した商品開発研修生や脱サラのIターン者がキーマンになって、それまで商品価値のあることさえ気づかなかった「さざえカレー」がヒット商品になり、「隠岐海士のイワガキ・春香」の養殖に成功。また、CAS(Cells Alive System=細胞組織を壊すことなく凍結させるシステム)を導入し、イワガキやシロイカを旬の味と鮮度を保ったまま首都圏などへ出荷できるようになった。
また、公共事業の減少により仕事が減った建設業者が、雇用の場を創出しようと黒毛和牛「隠岐牛」の繁殖、肥育、販売に乗り出した。島の牧草は海からの潮風でミネラル分が多く含まれており、隠岐牛肉は美味。さらにメスの未経産牛のみを肥育し、肉質にこだわった。「島生まれ、島育ち、隠岐牛」のブランドで、品質に厳しい東京食肉市場に絞って勝負している。
一方、教育では、統廃合の危機が迫っていた県立隠岐島前高校に寮費・食費の補助などを行う「島留学制度」を導入して生徒を全国募集するなど、「島前高校魅力化プロジェクト」によって生徒数はU字回復、募集定員を増やすまでになった。
山内町長は「まず職員の意識改革から始めた」と、平成の大合併も「自立の道」を選択して歩んできた道のりを具体例を挙げて語り、最後に「これらは成功例ではない。挑戦事例だ。挑戦し続けなければならない」と締めくくった。
この後、新見市教育委員会の城井田二郎教育長、新見市観光協会の中川和洋会長、新見公立大・短大の公文裕巳学長、それに当日参加の皆さんが加わって、座談会「海士町長と語ろう」が開かれた=写真。