キノの旅 (17) the Beautiful World
時雨沢恵一 (著), 黒星紅白 (イラスト)



『大人の国』出身の若者キノの生涯と不思議で驚きに満ちた旅についての記述, 2013/10/12 ☆☆☆☆☆
キノとしゃべる二輪車エルメスが旅をして色々な国を訪ねる物語の17冊目です。
色々な文化程度の、それぞれの風習がある城壁に囲まれた国々が点在する世界。
この巻では、地方新聞に週間連載された10話と書き下ろし8話が掲載されています。
行き倒れになった年老いた旅人とキノの会話、「旅人達の話」、
ジャングルのただ中で石造りの住居が立ち並ぶ素晴らしい国をたずねる「自然破壊の国」、
国民がみな腕時計をしているのに、時間を訪ねると不思議そうにされる「時計の国」、
最近は隣国からも誰も訪ねていない国を訪ねたキノ達が、奇妙な法律で阻まれる「左利きの国」、
廃墟に成り果てた国の城壁側で、キノ達が他国の調査団に会い、廃墟になった国の内戦のきっかけを教えてもらう「割れた国」
などが、載っています。
とくに、さすらいの覆面料理人と間違われたキノが、デタラメ料理を披露する「料理の国」のキノの得意げな様子と国民のあわてぶり、
「鉄道の国」の思わぬ真相と、それを知った後の国民達の行動が面白かったです。
「神のいない国」の狙撃の描写や顛末は残虐なのに乾いていて、キノの旅らしいお話で読み応えがありました。
ひねりを効かせてある寓話の短編集。
特にこの巻は新聞連載のお話の丁寧さが読んでいて楽しく、書き下ろしの遊びの多い筋運びも面白かったです。
また、カバーも凝っていて大笑いさせてもらいました。
キノの旅 (17) the Beautiful World
時雨沢恵一 (著), 黒星紅白 (イラスト)

以下個人的な感想です。
重要な部分が分かってしまう記述がありますので、未読の方はご注意ください。
読んだときは、いつもどおりの「キノの旅」だったなと思ったんですが、感想を書いていたら「ずいぶん面白かった」と感じ始めました。
時雨沢先生がツイッターでつぶやいてたことが短編になっていたり、イラストのために書かれたお話があったりサービスも多くて楽しかったです。
カバーがリバーシブルになっていて、「キノの旅」の長文タイトルが載っていて大笑いです。
背表紙まできちんと書かれていて著者近影や紹介も別になっている豪華装丁です。
これは「借りて読むより、買って手にとって楽しむ本に仕上がっている」と思いました。
ただ長文タイトルの「若者キノの生涯」って腑に落ちないんです。
キノ若者のまま生涯終えるのかしら?「若きウェルテル」みたいに?
今までキノは、11歳から10代半ばの記述がほとんど、「人を喰った話」でだけ10代後半と書かれています。
それだと「生涯」は範囲広すぎですよね。
これから生涯を書くのかな?
いや本当に若者で生涯終えるのか??
と、つらつら考えたんですが……多分笑いを取るためのタイトルでしょうからサラッとながします。
口絵
「ファッションの国」
主要産業が服飾の輸出の国で、カタログモデルがたりないため旅人達に服飾カタログのモデルを依頼していると言うお話。
博物館にそのカタログはあるので、知っている人も居るかもしれませんよ。
となっていて、挿絵はキノやシズ、師匠がモデルとして掲載されたページです。
若い師匠はなんとウェディングドレス。弟子は白い三つ揃い。
(弟子はサクソフォンを持っているのですがベルトがないのでどうやってもっているのか謎。台があるのかな)
シズは黒いベストにリボンタイ、ティーはメイドさんの服、陸は眼鏡に蝶ネクタイ(3人は使用人の扮装?)
キノはチェックの両つばの鳥打帽、釣りベルトに半ズボンですが、パイプがそばに置いてあるので「シャーロックホームズ」風をねらった組み合わせのようです。エルメスはヒゲにモノクルと思われますので怪盗ルパンを模しているのかな。
陸とエルメスは服飾と関係ない顔面の仮装です。
きれいな絵なので何回見てもあきません。
弟子もシズも、本当美男子ですね。黒星さんの描く男性は清潔で凛々しくて素敵です。
この短い文章は、黒星さんのイラストのための文じゃないかな。(10月13日追記)
口絵
「遊んでいる国」
近い山脈と古風な建物、色とりどりのパラグライダーが飛んでいる風景。
師匠と弟子がやってきて、あれは何かと訪ねます。
山岳地帯の緊急搬送用に最近わが国で発明されたパラグライダーです。
でも、みんなパラグライダー飛行で遊ぶのが面白くて、遊んでばかりになって困っています。
という発明の目的と、結果が違うというオチ。
きれいな風景のイラストで、これもイラストのためのお話かな?と思ったのですが、「楽園の話」の伏線になっているしゃれた構成です。(10月14日追記)
第一話
「旅人達の話」
行き倒れの年老いた旅人に、キノが「故国は難病を克服し平和でした」と話して安心させます。
実際は生きている人がいなかったのですが。
新聞連載の一話目 「キノの旅」がどんなお話か紹介もかねていると思うと、なるほど良く出来ているなと唸りました。
第二話
「自然破壊の国」
キノ達はジャングルのただ中で石造りの住居が立ち並ぶ素晴らしい国をたずねますが、国民の間では「自然回帰」の機運が高まり、人口のものは全て悪として破壊が始まるのでした。
第三話
「時計の国」
国民がつけている腕時計の示すものはその人が生きてきた時間。
時間に追われない生活をしているのんびりした国の風習を書いた話。
第四話
「左利きの国」
関係のないものをあたかも関係のあるように結び付けて重大な間違いを犯してしまっている国のお話。
実際ありそうな例で背筋がゾワゾワします。
第五話
「割れた国」
お菓子の好みが戦争まで発展して滅びた国のお話。
オチのお菓子の会社の宣伝マンの話がまたブラックです。
時雨沢先生がツイッターでされた質問に「どちらも特に好きじゃないです」と答えていたのを思い出し、あれがきっかけなのかな?とか思ったりしました。
第六話
「貧乏旅行の国」
面白かったです。声を出して笑いました。ある意味作者とキノの会話みたいです。
第七話
「楽園の話」
師匠が川に流されたどり着いた場所には、同様に流されてきた人たちの暮らす楽園があった。
と言うお話。
読んでいて色々なことが反転していって、とても面白かったです。
個人的に、ビジョルドの「無限の境界」(全裸で捕虜にされている閉所で、救出者が大人数を束ねていく様子を描いています。ハッピーエンド) と、佐藤 友哉 の「デンデラ」(姥捨てにあった老婆が村を作っている。デッドエンド)みたいな、
「閉所での心理的攻防」の「おどろおどろしいお話」かな?と予測したのですが、全く違っていました。
導入部で私が予想した筋とは全く違いますし、語り部が「師匠」かと思えばまたちがって。脱出不能の地と思われましたがみんな出ることが出来ました。登場人物はいいひとばかりで、ほのぼのした終わりです。
いい意味での裏切りがたくさんで面白かったです。 この本の中で一番ワクワクして読みました。
最低限の衣服をつけた女性達の集団……ある意味楽園ですよね、確かに。うん。
第八話
「恋愛禁止の国」
29日前まで鎖国していた国にキノ達はやってきます。
その国で輸出に適したもの、輸入に適したものを調べて欲しいとキノは商人から依頼を受けていました。
入ってみると国は平和、住人達は淡白な反応でした。
キノが公園で昼寝をしていると、12歳くらいの少女がキノに興味を示し「かっこいい」「ドキドキした」と好意を吐露しますが、親が気絶させたうえでつれ去っていきます。
残されたキノ達はおどろきますが、次の日「責任者」が説明にやってきます、この国は恋愛という野蛮な行為を禁止しているのだと。
恋愛感情を消す薬を発明し国民は皆、服用しているということ。
キノはその「製造方法を書いた本と薬」をもらって出国します。
薬を飲んでいれば、恋愛はしないでいつも冷静でいられるそうです。
「それを誰かに売るの?」とエルメスに聞かれ、キノの答えは書かれずにお話は終わります。
人間の欲の中でも食欲とならんで一番原始的な「性欲」を消す薬を発明した国。
なければないで、困らない感情なんでしょうが、
絵本のクライマックスが「食べること」であるように、大人が読む物語のクライマックスは「恋愛」が多い事実を思うと、やっぱり気の毒な国です。
「旅人に恋する12歳の女の子」は「大人の国」の×××××ちゃんと重なるので、キノは複雑な気分だったのかもしれません。
リリアとトレイズでも、メグとセロンでも、「寝ている相手の顔に見とれる場面」が出てきていました。
(アリソンは怒ってましたが)時雨沢先生は恋人の寝顔が好きなんですね。
少女が見とれたキノの寝顔、よっぽどきれいだったんでしょうね。
持って出た薬、キノはエルメスになんと答えたんでしょう?
私は、「性犯罪者に投与するのに使える」すごく『いい薬だな』と思いました。大発明です。
第九話
「料理の国」
さすらいの覆面料理人と間違われたキノが、デタラメ料理を披露し、その国の名物になるまで。
キノは料理が下手らしいのですが、どうやら食べれるものを作ったらしいですね。
第十話
「広告の国」
宣伝ってこういうものだよね。「寄付の国」の文章は読む気がしなかったのですが、この文章は面白かったです。
キノがウソの広告に抵抗していますので。
広告に出ているタレントさんがその商品に実際に感激しているかどうかは、広告見ている自分達はわからないですから錯覚を利用して売る。
そういうものだといわれればそのとおり、でも実際あからさまだといやだなって思います。
広告会社の人も、国の観光担当が全てを記録しているとは思わずにぶっちゃけているところが面白いです。
第十一話
「鉄道の国」
キノが汽車に乗る描写って初めてですよね。(レールはでてきたことはありましたが)
でも、汽車自体を珍しがる様子もなく乗り込んでいます。
「迷惑な国」や「船の国」みたいな動く国 で、
「道の国」みたいな恨みが根源の国でした。
でもご先祖様の思惑は捨てて自分達で将来を決定するハッピーエンドです。
第十二話
「旅の終わり」
新聞連載の最終話。事件も起こらず、キノとエルメスの淡々とした会話でしめくくられます。
「キノの旅」らしい、お話です。
第十三話
「神のいない国」
エルメスを取り戻すために、キノが宗教団体と対決するお話。
現実の事件を髣髴とさせる設定にちょっと背筋が寒くなりました。
教祖のジーンは12歳の姿のまま成長しない病気で、いま93歳。
彼が知りたかった真理を得る事ができたのかな?と考えました。
人間、本当のことが知りたいより、希望が見える未来を描きたいものだから、エルメスのご神託はある意味救いになったのかもしれませんね。
キノはキノらしい行動を取っていて、読んでいて面白かったです。
最低限の衣服、ここでも出てきました。17巻はめずらしく肌色率高いです。(色っぽくはないですが)
「渡す国 a.b.」
最初に後半bが終わりに前半aが記されるお話。
シズ一行が出国時に、フォトから写真をもらって出て行きます。b
シズ達がフォトが住む国に来て、移民申請が適いそうになった時期、暮らしている村に大問題がおき、シズは難役を引き受けます。ティーの記憶力とバギーによって問題を解決するのですが、そのおかげでシズ達は国を追放されるのでした。a
シズを喜んで迎え入れる村。シズは農作業を手伝いながらうち解けてなじんでいます。でも、のっぴきならない問題で村の人たちはシズを頼らざる得なくなって、移民を放棄させるハメになるのでした。
「たかられた話」と違って、悪意ない人々との交流の結果なので、後味が良いお話。
シズは本当に人が良いです。
今回はバギーが大活躍、刀は今年も抜かれませんでしたね。
イラストもお話も良くて大満足でした。
新聞連載は、筋が丁寧で説明もわかりやすくて完成度が高いです。
書き下ろし文は、キノやシズの個性が際立つ毒のある面白いお話で楽しいです。
(10月19日 全文アップ)
時雨沢恵一 (著), 黒星紅白 (イラスト)
『大人の国』出身の若者キノの生涯と不思議で驚きに満ちた旅についての記述, 2013/10/12 ☆☆☆☆☆
キノとしゃべる二輪車エルメスが旅をして色々な国を訪ねる物語の17冊目です。
色々な文化程度の、それぞれの風習がある城壁に囲まれた国々が点在する世界。
この巻では、地方新聞に週間連載された10話と書き下ろし8話が掲載されています。
行き倒れになった年老いた旅人とキノの会話、「旅人達の話」、
ジャングルのただ中で石造りの住居が立ち並ぶ素晴らしい国をたずねる「自然破壊の国」、
国民がみな腕時計をしているのに、時間を訪ねると不思議そうにされる「時計の国」、
最近は隣国からも誰も訪ねていない国を訪ねたキノ達が、奇妙な法律で阻まれる「左利きの国」、
廃墟に成り果てた国の城壁側で、キノ達が他国の調査団に会い、廃墟になった国の内戦のきっかけを教えてもらう「割れた国」
などが、載っています。
とくに、さすらいの覆面料理人と間違われたキノが、デタラメ料理を披露する「料理の国」のキノの得意げな様子と国民のあわてぶり、
「鉄道の国」の思わぬ真相と、それを知った後の国民達の行動が面白かったです。
「神のいない国」の狙撃の描写や顛末は残虐なのに乾いていて、キノの旅らしいお話で読み応えがありました。
ひねりを効かせてある寓話の短編集。
特にこの巻は新聞連載のお話の丁寧さが読んでいて楽しく、書き下ろしの遊びの多い筋運びも面白かったです。
また、カバーも凝っていて大笑いさせてもらいました。
キノの旅 (17) the Beautiful World
時雨沢恵一 (著), 黒星紅白 (イラスト)
以下個人的な感想です。
重要な部分が分かってしまう記述がありますので、未読の方はご注意ください。
読んだときは、いつもどおりの「キノの旅」だったなと思ったんですが、感想を書いていたら「ずいぶん面白かった」と感じ始めました。
時雨沢先生がツイッターでつぶやいてたことが短編になっていたり、イラストのために書かれたお話があったりサービスも多くて楽しかったです。
カバーがリバーシブルになっていて、「キノの旅」の長文タイトルが載っていて大笑いです。
背表紙まできちんと書かれていて著者近影や紹介も別になっている豪華装丁です。
これは「借りて読むより、買って手にとって楽しむ本に仕上がっている」と思いました。
ただ長文タイトルの「若者キノの生涯」って腑に落ちないんです。
キノ若者のまま生涯終えるのかしら?「若きウェルテル」みたいに?
今までキノは、11歳から10代半ばの記述がほとんど、「人を喰った話」でだけ10代後半と書かれています。
それだと「生涯」は範囲広すぎですよね。
これから生涯を書くのかな?
いや本当に若者で生涯終えるのか??
と、つらつら考えたんですが……多分笑いを取るためのタイトルでしょうからサラッとながします。
口絵
「ファッションの国」
主要産業が服飾の輸出の国で、カタログモデルがたりないため旅人達に服飾カタログのモデルを依頼していると言うお話。
博物館にそのカタログはあるので、知っている人も居るかもしれませんよ。
となっていて、挿絵はキノやシズ、師匠がモデルとして掲載されたページです。
若い師匠はなんとウェディングドレス。弟子は白い三つ揃い。
(弟子はサクソフォンを持っているのですがベルトがないのでどうやってもっているのか謎。台があるのかな)
シズは黒いベストにリボンタイ、ティーはメイドさんの服、陸は眼鏡に蝶ネクタイ(3人は使用人の扮装?)
キノはチェックの両つばの鳥打帽、釣りベルトに半ズボンですが、パイプがそばに置いてあるので「シャーロックホームズ」風をねらった組み合わせのようです。エルメスはヒゲにモノクルと思われますので怪盗ルパンを模しているのかな。
陸とエルメスは服飾と関係ない顔面の仮装です。
きれいな絵なので何回見てもあきません。
弟子もシズも、本当美男子ですね。黒星さんの描く男性は清潔で凛々しくて素敵です。
この短い文章は、黒星さんのイラストのための文じゃないかな。(10月13日追記)
口絵
「遊んでいる国」
近い山脈と古風な建物、色とりどりのパラグライダーが飛んでいる風景。
師匠と弟子がやってきて、あれは何かと訪ねます。
山岳地帯の緊急搬送用に最近わが国で発明されたパラグライダーです。
でも、みんなパラグライダー飛行で遊ぶのが面白くて、遊んでばかりになって困っています。
という発明の目的と、結果が違うというオチ。
きれいな風景のイラストで、これもイラストのためのお話かな?と思ったのですが、「楽園の話」の伏線になっているしゃれた構成です。(10月14日追記)
第一話
「旅人達の話」
行き倒れの年老いた旅人に、キノが「故国は難病を克服し平和でした」と話して安心させます。
実際は生きている人がいなかったのですが。
新聞連載の一話目 「キノの旅」がどんなお話か紹介もかねていると思うと、なるほど良く出来ているなと唸りました。
第二話
「自然破壊の国」
キノ達はジャングルのただ中で石造りの住居が立ち並ぶ素晴らしい国をたずねますが、国民の間では「自然回帰」の機運が高まり、人口のものは全て悪として破壊が始まるのでした。
第三話
「時計の国」
国民がつけている腕時計の示すものはその人が生きてきた時間。
時間に追われない生活をしているのんびりした国の風習を書いた話。
第四話
「左利きの国」
関係のないものをあたかも関係のあるように結び付けて重大な間違いを犯してしまっている国のお話。
実際ありそうな例で背筋がゾワゾワします。
第五話
「割れた国」
お菓子の好みが戦争まで発展して滅びた国のお話。
オチのお菓子の会社の宣伝マンの話がまたブラックです。
時雨沢先生がツイッターでされた質問に「どちらも特に好きじゃないです」と答えていたのを思い出し、あれがきっかけなのかな?とか思ったりしました。
第六話
「貧乏旅行の国」
面白かったです。声を出して笑いました。ある意味作者とキノの会話みたいです。
第七話
「楽園の話」
師匠が川に流されたどり着いた場所には、同様に流されてきた人たちの暮らす楽園があった。
と言うお話。
読んでいて色々なことが反転していって、とても面白かったです。
個人的に、ビジョルドの「無限の境界」(全裸で捕虜にされている閉所で、救出者が大人数を束ねていく様子を描いています。ハッピーエンド) と、佐藤 友哉 の「デンデラ」(姥捨てにあった老婆が村を作っている。デッドエンド)みたいな、
「閉所での心理的攻防」の「おどろおどろしいお話」かな?と予測したのですが、全く違っていました。
導入部で私が予想した筋とは全く違いますし、語り部が「師匠」かと思えばまたちがって。脱出不能の地と思われましたがみんな出ることが出来ました。登場人物はいいひとばかりで、ほのぼのした終わりです。
いい意味での裏切りがたくさんで面白かったです。 この本の中で一番ワクワクして読みました。
最低限の衣服をつけた女性達の集団……ある意味楽園ですよね、確かに。うん。
第八話
「恋愛禁止の国」
29日前まで鎖国していた国にキノ達はやってきます。
その国で輸出に適したもの、輸入に適したものを調べて欲しいとキノは商人から依頼を受けていました。
入ってみると国は平和、住人達は淡白な反応でした。
キノが公園で昼寝をしていると、12歳くらいの少女がキノに興味を示し「かっこいい」「ドキドキした」と好意を吐露しますが、親が気絶させたうえでつれ去っていきます。
残されたキノ達はおどろきますが、次の日「責任者」が説明にやってきます、この国は恋愛という野蛮な行為を禁止しているのだと。
恋愛感情を消す薬を発明し国民は皆、服用しているということ。
キノはその「製造方法を書いた本と薬」をもらって出国します。
薬を飲んでいれば、恋愛はしないでいつも冷静でいられるそうです。
「それを誰かに売るの?」とエルメスに聞かれ、キノの答えは書かれずにお話は終わります。
人間の欲の中でも食欲とならんで一番原始的な「性欲」を消す薬を発明した国。
なければないで、困らない感情なんでしょうが、
絵本のクライマックスが「食べること」であるように、大人が読む物語のクライマックスは「恋愛」が多い事実を思うと、やっぱり気の毒な国です。
「旅人に恋する12歳の女の子」は「大人の国」の×××××ちゃんと重なるので、キノは複雑な気分だったのかもしれません。
リリアとトレイズでも、メグとセロンでも、「寝ている相手の顔に見とれる場面」が出てきていました。
(アリソンは怒ってましたが)時雨沢先生は恋人の寝顔が好きなんですね。
少女が見とれたキノの寝顔、よっぽどきれいだったんでしょうね。
持って出た薬、キノはエルメスになんと答えたんでしょう?
私は、「性犯罪者に投与するのに使える」すごく『いい薬だな』と思いました。大発明です。
第九話
「料理の国」
さすらいの覆面料理人と間違われたキノが、デタラメ料理を披露し、その国の名物になるまで。
キノは料理が下手らしいのですが、どうやら食べれるものを作ったらしいですね。
第十話
「広告の国」
宣伝ってこういうものだよね。「寄付の国」の文章は読む気がしなかったのですが、この文章は面白かったです。
キノがウソの広告に抵抗していますので。
広告に出ているタレントさんがその商品に実際に感激しているかどうかは、広告見ている自分達はわからないですから錯覚を利用して売る。
そういうものだといわれればそのとおり、でも実際あからさまだといやだなって思います。
広告会社の人も、国の観光担当が全てを記録しているとは思わずにぶっちゃけているところが面白いです。
第十一話
「鉄道の国」
キノが汽車に乗る描写って初めてですよね。(レールはでてきたことはありましたが)
でも、汽車自体を珍しがる様子もなく乗り込んでいます。
「迷惑な国」や「船の国」みたいな動く国 で、
「道の国」みたいな恨みが根源の国でした。
でもご先祖様の思惑は捨てて自分達で将来を決定するハッピーエンドです。
第十二話
「旅の終わり」
新聞連載の最終話。事件も起こらず、キノとエルメスの淡々とした会話でしめくくられます。
「キノの旅」らしい、お話です。
第十三話
「神のいない国」
エルメスを取り戻すために、キノが宗教団体と対決するお話。
現実の事件を髣髴とさせる設定にちょっと背筋が寒くなりました。
教祖のジーンは12歳の姿のまま成長しない病気で、いま93歳。
彼が知りたかった真理を得る事ができたのかな?と考えました。
人間、本当のことが知りたいより、希望が見える未来を描きたいものだから、エルメスのご神託はある意味救いになったのかもしれませんね。
キノはキノらしい行動を取っていて、読んでいて面白かったです。
最低限の衣服、ここでも出てきました。17巻はめずらしく肌色率高いです。(色っぽくはないですが)
「渡す国 a.b.」
最初に後半bが終わりに前半aが記されるお話。
シズ一行が出国時に、フォトから写真をもらって出て行きます。b
シズ達がフォトが住む国に来て、移民申請が適いそうになった時期、暮らしている村に大問題がおき、シズは難役を引き受けます。ティーの記憶力とバギーによって問題を解決するのですが、そのおかげでシズ達は国を追放されるのでした。a
シズを喜んで迎え入れる村。シズは農作業を手伝いながらうち解けてなじんでいます。でも、のっぴきならない問題で村の人たちはシズを頼らざる得なくなって、移民を放棄させるハメになるのでした。
「たかられた話」と違って、悪意ない人々との交流の結果なので、後味が良いお話。
シズは本当に人が良いです。
今回はバギーが大活躍、刀は今年も抜かれませんでしたね。
イラストもお話も良くて大満足でした。
新聞連載は、筋が丁寧で説明もわかりやすくて完成度が高いです。
書き下ろし文は、キノやシズの個性が際立つ毒のある面白いお話で楽しいです。
(10月19日 全文アップ)
いつもありがとうございます
少しずつ更新していきますので、時々見に来ていただければ幸いです。