佐藤さえ の 本棚

読んだ本の感想を書いています。

キノの旅XXI the Beautiful World

2017-12-17 22:04:55 | 小説
キノの旅XXI the Beautiful World

時雨沢 恵一 (著), 黒星 紅白 (イラスト)



あなたはあなた?☆☆☆☆☆ 2017年10月12日

 キノとしゃべる二輪車エルメスが旅をして色々な国を訪ねる物語の21冊目です。
 色々な文化程度の、それぞれの風習がある城壁に囲まれた国々が点在する世界。
 
 この巻は、
 おおきな30メートルもある人物像がたくさんそびえる「巨人の国」とその像が立っている意外な理由
 個人でラジオ番組を作成して放送することが流行っていて国民が夢中になっている「有名になれる国」の様子
 きれいな人ばかりが住んでいる「美男美女の国」に移民をするための「厳しい」条件
などが、載っています。 
 なかでも、
 義務教育はあるけれど、学校に通わずに勉強をするシステムが完備された「Nの国」で、キノが勉強をしながらも他者との距離の取り方がぶれない様子や、
「読書が許されない国」のショートショートなのに起承転結がはっきりしていて小気味よいオチ、が読んで楽しかったです。
 また、ディンプルキーを国民全員が大切に持っていて、国の真ん中にある石碑についている鍵穴を日に一回まわしている「鍵の国」の「理由はわからないけれど伝統だから続ける」
国民ののんびりした様子と石碑に掘られた碑文が伝える驚愕の真相との落差が面白いです。

 旅の寓話の短編集。
 どのお話も面白かったです。
  現在(2017年10月)「キノの旅」の2回目の新作アニメーションが放映されていて、とてもうれしいです。

キノの旅XXI the Beautiful World

時雨沢 恵一 (著), 黒星 紅白 (イラスト)



以下、個人的な感想です。
物語の重要な部分が分かる記述がありますので、ごらんになっていない方はご注意ください。

昨日、本屋を2軒回ってやっとで買ってきました。
職場の昼休みに盛岡の大通り「さわや書店」さんに行ったら「電撃文庫の棚がない」とのことでがっかり、「ジュンク堂」さんまで足を延ばしました。
でも、がんばって購入した甲斐がありました。
表紙のイラストがきれいで、うれしかったほかに、家でひらいたら中扉のキノと月のイラストも目次の口絵のティーもきれいで、眺めてうっとりしました。
黒星さんのイラストは、本当に素敵ですね。

数日かけて、少しづつ感想を載せていこうと思っていますので、よろしくお願いします。

口絵 巨人の国 Skyscrapers

「進撃の巨人」とかのパロディかな?と思ったのですが、全然関係ありませんでした。
 宗教上の理由で国の法律ができて、その法律をまもるために意外な風景になった国の顛末。
 
 間口の長さで税金が決まるので、細長い家が立ち並ぶ京都の街並みみたいな感じですよね。
 初めは荒唐無稽なような気がしたのに、読み終わると「なんかそんな場所、どこかにありそう」と思わされました。
 短いのにとても面白かったです。

 
1話 有名になれる国 On the Wave

 「実況中継」をみんなが楽しめるシステムを作ったら、道徳的に下劣な人がのさばっちゃって、はちゃめちゃなことが起きている国 
 意図せぬ場所でマイクやカメラを向けられたらどうしたらいいかわからないですよね。一種の暴力だなと思います。

 意見を発信する側の道徳観や倫理観が低いのって、みていても、取材されても困りものですよね。

 これで思い出したのがISISに対するイスイスちゃん。(←成功した例なんでしょうけど)他国はある程度お金や教養がある人が利用しているインターネットサイトを、日本では小中学生も親しんでいるので、(教養が低くても)世界にどんどん作品を発信してしまって「クソコラまつり」。世界の人々にびっくりされるみたいな……はたから見ていると面白かったですが。

 今まで発信する側にあるていどフィルターがあったのに、それがなくなるとちょっと困るぞということで最後の落ちもきれいでした。
 
 相手に興味を示さないで、実況による反応がもっと気になる様子など、描写も秀逸でした。


2話 美男美女の国 Tastes Differ

 行ってみたいな、その国 というのが第一の感想。
 美男美女ばかりなら、とおりのカフェに陣取って、ずっと人々をながめて楽しみたいです。
 行ってモテモテになっちゃったら複雑だな、というのが次の感想。(どうやら顔が超個性的じゃないとモテない国らしいです)
 

 シズもティーも顔が整いすぎて「魅力的じゃない」ので移民はできません、というラスト
 シズは最後まで自分がこの国の人々に匹敵するくらいの美男子だとは気が付かなかったみたいです。

 「なかみをみてほしいもんな」
 というティーの言葉も面白いです。
 ティーも中身を見てるのか、すごいな。


 
3話 Nの国 N
 
「カドカワ 通信制「N高校」開校」
というのがモデルかな?と思われる通信制の学校が普通の国。
 キノが冬季滞在中は、義務教育機関だから就学を強要され、それにしたがいます。
 結構楽しそうに通信教育を受け、学習仲間たちとも通信で交流しています。
 でも、「みんなで実施に会いましょう」という企画が立ち上がるころ、キノは旅に出てしまいます。

 読んでいると通信制の学習がとっても良いものだなと思います。
 
 自分がやるとなったら……絶対さぼっちゃうな。無理だ。

(H29.10.16 追記)

 
4話 読書が許されない国 Read or Lie

 人々が寸暇を惜しんで本を読んでいる国の秘密
 禁止するとやってみたくなる そうですよねー。
 しかもやってみると面白いから中毒性もある。

 よくわかります。
 短いけど楽しい短編です。

 ラストの部分 電撃文庫マガジンではたしか「読者ランキングとレビュー」となっていた気がしたけど
 文庫版では「読破ランキングの発表と読書感想文の掲載」
 になってました。
 いや?私の勘違いかな。電撃文庫マガジン、読み込んだ後切り取ってスクラップしたりしたので、手元にないの残念。
 どなたかご存知でしたら教えて!

(H29.10.17 追記)
 
5話 満員電車が走っている国 No Pain, No Gain

 刑罰で満員電車を運行している国

  23年前汽車で通勤してたけど、ぎゅうぎゅうづめという目にはあわなかったので、満員電車がどういうものなのか私は知らないです。
 「刑罰になるくらいだとしたら、よほど苦痛なんだろう。
 でも毎朝たくさんの人が乗っていると考えると、そこまでつらいものなのか。
 なぜ満員の時刻を避けないのか。(早起きのほうが満員電車より苦痛なのかな)」
 と読んでいて思考があっちにいってしまいました。
 
(H29.10.18 追記)
 

6話 消えた国 What's Happened?

 この21巻でいちばん気に入ったのがこのお話でした。
 川を大量の束髪が流れてくる場面がとても怖くて面白かったです。

 でも、この短編、まあ現実的なお話で、あの国がモデルだよね……。
 
 自分たちの住む世界が、自分が把握している通りの仕組みなのかとか。
 自由とか、幸せとか、読んだ後、考えさせられます。

 今はネットのおかげで「日本は住みやすくていい国だな」としみじみ感じます。
 外国行ったことがないので、昔は外のことがよくわからなかったです。
 「どこかにもっと自由で幸せな国」があるのかもと考えたりしたものでした。
 
 木材をぼろぼろにして流した理由はなんだろう?そこは私は理解できなかったです。

(H29.10.20 追記)

7話 完璧な国 On Demand

 科学技術の進んだ国に入国したキノ達、AIが育てた新人類が発表されるというので見学にいきます。
 賢そうに成長した少年少女たちの登場に親や国の人々は大感激成功を喜びます。
 でもエルメスはAIが返答記したスクリーンの隅こっそりと小さな文字で表示していた「重要な注意書き」を見逃さなかったのでした。

 うわー、そりゃあ、あの要求にこたえるにはこうするしかないよね。
 でもこれ、「子ども」じゃないよ。
 脳はAIの指令通り動くから、AIの繰人形ってこと。
 「子ども」の意志を無視すれば、他の人たちはみんな幸せだからある意味いいのか?!
 「子ども」は意志の発露のしようがないから「意志」があっても見ているだけなのか?
 それとも、チップのせいで独自の意志も飛んじゃっているのか?
 「大人の国」もこういう手術だったのか?
 この分だとみんなAIの繰人形になって行くんだろうけど、今の大人たちが亡くなって新人類だけになったら、「幸福の追求」はAIのために行われていくのか。
 新人類だけになったら「子どもはいらない」ということになって、最後の子がいなくなったら人類いなくなるかも。
 いろいろ考えちゃいました。

 人工知能って、人間が幸福になるために作られたと思うのだけど、これは本末転倒。
 でも、なんかこういうこと発生しかねない。
 
(H29.10.28 追記)
 
8話 鍵の国 the Key of Tomorrow  

 師匠が旅をしていた頃、国の真ん中にある石碑の鍵穴に、国民が持つディンプルキーを一日一回入れて廻す、大切な伝統がある国。
 数十年後キノが訪れた時にはもう鍵を大事にして身に着けることや、鍵穴に差し込んで廻す習慣は廃れかけていました。
 石碑にある国民も読めないな謎の文字をエルメスに読んでもらえば、その謎の伝統の起源がわかるのではないかと考えたキノがエルメスに石碑を見せるのですが、エルメスの答えは「無理!」

 問題の重要さを考えれば、国民に教えたほうが良いと思うのだけれど、キノとエルメスはそうは考えないんだ……と驚きました。
 10回世界が滅ぶなら、止めなくて いいや ってことなんだろうけど。
 いや、明日も生きたいから伝統続けてほしいなあ。

9話 女の国 Equalizer

 レジーという若い女性と、アルトという青年が恋人同士で 「女尊男卑 」の国から10日間ほどの国外旅行に出かけますが……。
 
 アルトにとっては、①「虐げられた生活からの解放」と「恋人を殺す」、②「元の国に戻って虐げられる」と「恋人と暮らす」の二つを比べて①を選んじゃった。と考えると気の毒です。
 そして殺されちゃったので自業自得。

 レジーはちゃんと③「虐げられた生活からの解放(長い旅に出る)」と④「恋人との生活」を提案したのに、アルトはレジーに銃を向けてしまうんですよね。
 (殺そうとした自分をゆるそうとする恋人ってのもたしかに怖い。)

 トラックに、奴隷の女性を3人乗せて旅する商人たち。
 キノがひどいめにあった「人を喰った話」や、フォトの「雲の前で」と同じ舞台設定。
 実際、そういう時代があっただに、怖い設定です。

 奴隷達の師匠になったレジーは、トラックの運転ができるようになった彼女らを見送った後、「黄色い車が壊れて走れなくなるまで」を期限にした長い長い旅に出発します。
 ちょっと物悲しいけどハッピーエンドでした。
 師匠は国をでたときの髪型ショートカットだったんですね。
  (H29.10.29 追記)
 
 今、「男子高校生でライトノベル作家を…」を読み返しています。すごく面白い本なので何回も読んでいます。
 で、(殺そうとした自分をゆるそうとする恋人ってのもたしかに怖い。)と自分が書いたことと、上記小説のヒロインが主人公の心の持ちようにおびえているのが重なって、このレジーのお話を思い返してみました。
 レジーは両手にパースエイダーを持って応戦した後、片手のパースエイダーを手放しているので、一丁は手にしたままアルトに話しかけています。
 銃声のあとアルトは「男たちの死体」のうちの一体になっています。
 アルトが自殺したという説もあるみたいですが、たぶんレジーが撃ったんでしょう。
 (アルトが自殺しようとしてもレジーのほうが早く対処して自殺をとめるんじゃないかな、キノがティーにやったみたいに。
レジーのアルトへの提案内容を考えても反省している恋人には死んでほしくないでしょうから)

 自分を殺そうとした人を返り討ちにして旅に出る。
 よく考えたらキノのパターンと同じなんですね。

 キノも大人の国を出た後はしばらく師匠のところで修業をしていて、長い旅には出ていません。
 「恩人キノの母親」を返り討ちにしたあと、旅への強い願望がでてきています。

 今回のレジーは相手が恋人だったので、「親の子殺し、子の親殺し」のキノのパターンとは違うのですが
「大好きで信頼していた人に殺されそうになる」
 という衝撃的な体験では共通していて、相手を返り討ちにすることで乗り越えています。
 あまつさえ「ゆるそう」としています。
 自分を殺そうとするのに相手を受け入れようとするところは、「男子高校生でライトノベル作家を…」の主人公と同じなんですよね。
「男子高校生でライトノベル作家を…」の主人公は相手をゆるして、(大好きな母親やヒロイン)一緒に過ごす時間を設けることができます。(部屋にカギを掛け「母さん怖い」という気持ちを押し殺しての同居生活ではあります。)

 レジーはゆるしたのに再度殺されそうになって返り討ちにして……長い長い旅に出ます。
 レジーがさばさばした様子なのはお話だからなのか。 本当に気分がさっぱりしちゃったのか。どちらかわかりませんが。

 本来は、「キノの返り討ち」や「レジーの返り討ち」が正しいし現実的。
 「シズのティーへのさそい」や「レジーのアルトへのさそい」や「ライトノベル作家の相手への許し」は殺そうとしている相手を、それくらい好きだってことなんでしょうが……普通じゃないですよね。

 そういえば、「信頼していた人に殺されそうになる」は「メグとセロン」でも薄めのパターンがありましたね。「学校の先生が自分たちを殺そうとする」というのが。これはただ返り討ちパターンでした。
 あー、「メグとセロン」でも婚約者に殺されそうになっても「愛してるから許している」イケメンさんがいましたね。黒星さんのイラストがすごく素敵で「もったいないなーこんなハンサムな婚約者を嫌がるなんて」とブリジット先輩をうらやましく思いましたよ。(なぜ刺すの?! あなたが抵抗しなくちゃならないのは親でしょう!って驚いた)

 男性陣のゆるしはある程度成功しているのに、レジーの許しはアルトの殺意をとめられなかったですね。そういう意味ではレジー残念なのかな?
 でも……無理無理、自分を殺そうとした相手といっしょにいても「この人は自分を殺そうとした人だ」と常に思い出すだろうからいっしょにはいられないよね、レジーアルトがゆるされていっしょにいなくてすんでよかったと思います。

 だからレジーがアルトをあっさり返り討ちにして、さばさばした様子で旅に出たのが、安心感があってそれでこのお話をハッピーエンドととらえたんだな私。

 いろいろな小説で「大好きで信頼していた人に殺されそうになる」は読むけど、「それでも相手がまだ大好きで許そうとする」のは時雨沢さんの特徴的なパターンかもしれないですね。
(H29.12.2 追記)


10話  毎日死ぬ国 Are You You?
 
 夜寝ることを、死と定義する国の超短編。

 完璧な国みたいにICチップが頭に入ったら、毎日その人の記憶をアンインストールして「死んで」、朝にインストールして「新しく誕生する」というのが正しかったりして。
 その人が昨日のその人と本当に同じ? ちょっと考え出すとあやふやになる、存在。
 でもエルメスとキノみたいに、笑い飛ばしていいよね。そんな大した問題じゃないし。

 
見える真実・a・b She is Still There・a・b

 フォトが心霊写真を作ってあげるお話。

 生きる気力をなくした老人のために「死んだ妻が幽霊になって待っている自宅の写真」を見せて生きる気力をとりもどさせるお話です。
 フォトらしいほのぼのしたお話でした。

 21巻も面白かったです。
 
 (H29.10.29 追記)
 
表紙がきれいで、トレースしました。 イラストも毎回素敵で堪能させてもらっています。
 


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