UR都市機構が提訴した耐震強度不足の建物除却(取り壊し)に係る明渡し請求訴訟において、東京地方裁判所立川支部はこのほどUR側の全面勝訴の判決を言い渡した。
URの主張が、借地借家法で定められている「家主側が賃借人に退去を求める際の正当な事由」にあたるかが争点となっていたが、その主張を認め、「正当事由=今週のことば」の認定について新たな判断基準を加えた。
08年3月から住民に対する事情説明を開始し、2年後の10年3月を退去期限に定めた。その間、URは移転住居のあっせんや引っ越し費用などを負担し、入居204世帯のうち197世帯については移転が完了。しかし、残り7世帯はUR側に補強工事による耐震化を求め、退去期限後も入居を続けていたことから、URが11年1月21日に東京地裁立川支部へ提訴した。
判決の中で三村晶子裁判長は、「どのような方法で耐震改修を行うべきかは、基本的に建物の所有者である賃貸人が決定すべき事項である」とし、「その判断過程に著しい誤びゅう(誤り)や裁量の逸脱がなく、賃借人に対する相応の代償措置が取られている限りは、賃貸人の判断が尊重されてしかるべき」とした。
今回の判決には、裁判所が「仮執行宣言」を付けたことも特徴だ。これは、裁判が確定していなくても、原告に被告の財産権を強制執行(差押え)できる権利を認めるもの。今回のケースでいえば、入居中の被告が控訴などして裁判が継続した場合でも、原告のURは入居者を法に基づき強制的に退去させることが可能だ。上級審で判決が覆った場合には仮執行宣言は取り消され、被告に再入居が認められることになる。なお、被告が一定額の財産を供託すれば仮執行宣言の効力を停止させることはできるが、経済的な負担が生じるため実行しにくいといった側面もある。
入居者がいる建物の明渡し訴訟において、仮執行宣言付きの判決が出るのは異例のことだ。仮にその後の裁判の結果によって再入居が認められたとしても、その間の物理的な生活の場が移っていることになるため、被告側は裁判を継続していく意義を改めて見出す必要性が出てくるからだ。 更に今回の判決は、建物明渡しまでの違約金として、月額家賃の1.5倍の金員をURへ支払うよう被告側に命じるなど厳しい内容となった。
今回の判決では、今後の耐震性の確保が必要とされる建物の耐震改修を検討するにあたって、賃貸人のみが過分な負担を強いられる場合には賃借人に十分配慮することで建物明渡しが認められるという、重要な指摘がなされた。所有者が耐震強度不足による賃貸マンションの建て替えなどを行う際に、参考になるのではないか」とコメントしている。