
「ラスト・エンペラー」
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:ジョン・ローン他
1987年作品
<あらすじ>
1950年、第二次世界大戦終結による満州国の崩壊と国共内戦の終結により、共産主義国である中華人民共和国の一都市となったハルピン駅の構内。5年間にわたるソビエト連邦での抑留を解かれ、中華人民共和国に送還された「戦犯」達がごった返す中で、列から外れた1人の男が洗面所で自殺を試みる。
男は異変に気が付いた監視人の手により危うく一命を取り留めるものの、薄れ行く意識の中で幼い日々の頃を思い出していた。この男こそ清朝最後の皇帝にして満州国の皇帝、「ラスト・エンペラー」と呼ばれた愛新覚羅溥儀その人であった。
イタリア・イギリス・中国による合作映画で、純粋な中国映画ではなく、巨匠・ベルナルド・ベルトルッチ監督によって、紫禁城が初めて映画化されたとして話題になった作品でもある。
私が前回この映画を観たのは、1998年。初めて旅行する北京の参考資料として鑑賞。
映画では壮大な宮殿で暮らすラストエンペラー・溥儀の浮世離れした生活が、ベルトルッチらしい豊かな色彩で描かれ、期待値高めで訪れた紫禁城の実物にとてもがっかりしたことを覚えている。
紫禁城にあったかつての宝物は、国民党が台湾に持ち去り、今残っているのはがらんどうの建物だけ。
私が行った12月の北京は、底冷えのする、色彩の欠けた灰色だった。
それから10年。
数え切れないほど足を運んだ紫禁城。
スケールと歴史を感じる以外、あまり面白みを感じることができないので、仕事でどうしても行かなければならない以外は、「ラスト・エンペラーの映画のほうがずっといいよ」と言って案内を拒否し続けている私が、久々に見返したこの作品。
24年前の作品なんですね。
中国を知らない外人だったら面白いと思うのかもしれないけど、はっきり言って変な三流映画にしか見えない。
まず、登場人物が英語って。
中華系外人による清朝コスプレ寸劇かと思いましたよ、最初。
台詞の不自然さ、周囲の(特に妻)ストレート過ぎるものの言い方、開放的過ぎる性描写、風俗慣習の変な解釈、溥儀の異常なほどの外国かぶれ等、史実とか政治的な思想とか、そういうのはあまり頓着しない(興味ない)ので、歴史的に正しいとかどうかを論じるのは専門家に任せるとしても、あまりにもリアリティがなさすぎる。
ほんと突っ込みどころ満載ですよ!
出だし10分くらいで、再生残り時間をチェックしてしまいましたね。
唯一本物だと思ったのは、北京の空気感。
紫禁城の朱色の壁の向こう側の空気、黄色の甍に抜けた青空、夏の太陽、それらが見事に画面に映し出されています。
太陽の光に反射する、北京の埃の粒子も見えてしまうかと思うくらいに。
さすが光の魔術師ヴィットリオ・ストラーロ!
今日は外は氷点下、全ての色彩が灰色のフィルターがかってみえる冬ですが、画面に映る柳の木を揺らす木洩れ日が心に沁み入ります。
季節はめぐるとわかっているのに、なぜ夏の光はこんなにも胸をかきむしるのか。
最近立て続けにベルトルッチの「シェルタリング・スカイ」(1990)「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972!)を観た。
私がどうしてもベルトルッチが好きになれないのは、音楽の使い方が好きじゃないから。
坂本龍一の音楽は単品としては文句はないが、ただでさえ色彩が濃厚で、インパクトある構図の画面に、音量大きめでドラマチックな音楽はどうしてもうっとうしい。
チベットを題材にした「リトル・ブッタ」はたぶん見返さないと思う。
今日の毒舌度:☆☆
☆ベルトリッチの作品では、「シャンドライの恋」(Besieged/1999)が一番好きです。
身を引くことも、ひとつの愛のかたちなんだってことを初めて教えてくれた映画。