生きてるんだもの

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岩清水豚の話(中編2)

2011年01月14日 | 徒然
ちょっと3回では無理そうなので、中編2です。

 せっかく豚が健康に育つようになったというのに、この頃、肉質で大きな問題が発生していました。正確には肉質は良くなってるのだけれど市場では評価されない状況です。日本では豚肉は上物、中物、並物、等外というランク付けをします。これは味や肉質とは少し違って、1頭の豚からどれだけ肉が取れるかで決定します。
 そう、肺炎等にかかりにくい豚ばかり選抜していたために、脂がとても厚くなってしまい市場では並物、等外という扱いにしかならず、販売価格が全くダメになってしまったのです。当時はそれがすべてで味が良かろうがなんだろうが脂の厚い豚ではダメな風潮でした。その時点ではとらちゃんはもともとこういう市場の風潮を見越して生産性や市場での等級重視の経営を目指してましたので、私とは意見が全く食い違ってしまってましたが正しい方向を目指していたのです。ただ、私にはそれは耐えられませんでした。自分で食べてウマくないものを販売できない気持ちだったのです。私のこの我が侭がこの後もさらに大きな経営危機を招いていく引き金となります。

 そんな危ない流れの中でも私は能天気に肉質の追及を行っていました。等級ではなく、味、脂、においなど肉の本質の部分です。この頃の岩清水豚は世間一般の豚肉としてはかなり満足の行くものとなっていましたが、知名度は全く無く通販も行っていませんでした。
 私は雨さえ降らなければ毎日のように市場から持ち帰った自農場の豚肉で焼肉をして食べていました。好きこそものの上手なれという言葉がありますが、本当に好きだったのです。
 特にバラの焼肉が好きで焼き加減等の調理の具合にもこだわっていました。
焼肉を食べた後はそれをフィードバックして脂の白さを追求してみたり、においを無くす、食感、日持ちなど以前Mさんに学んだ肉の良し悪しを考えながら、さらに自分の好みに合うように飼育方法や飼料構成を細かく変化させながら組み上げていきました。今では動物性飼料を全く使いませんが、その頃には料理店が使う牛脂を豚の餌に配合していた頃もあります。今思えばあれだけは続けても良かったかも思う唯一のものですね。脂身にずどーんと腰が入るっていうか。
 
 そんなこんなで誰に食べてもらっても恥ずかしくない味になりましたが相変わらず市場では安値で取引される状況が続いてました。市場での等級が低いのだから高く買ってもらえる訳がありません。でも豚肉の等級は低くても自分で食べて本当に満足できる肉になっていました。以前買ってくれなくなったという市場の仲買さんがまた買ってくださるようになったという噂も聞こえてきました。しかし、農場の経営状況は悪化の一途をたどっていたのです。

 経営悪化を突き進む農場内ではまた別の変化が起こっていました。薬品の感受性を調べるテストで薬品に耐性をもつ菌がいなくなってしまったのです。薬品を使わないから耐性をもつ菌群が持たない大多数派の菌群に駆逐されてしまったようでした。さらにワクチンだろうが抗生物質の大量投与をしようが消えない「マイコプラズマ」という病気があるのですが、これがきれいさっぱり居なくなっていたのです。早めに病気に罹らそうとしているのにその病気自体が消えていく、、。いつの間にか豚を解剖しても肺や呼吸器に病変が見つからない事が多くなりました。それまでやってきた事に劇的に変化した手法というのは一度もありませんでしたが、その見た目とはうらはらに農場の見えない部分が劇的に変化を遂げている事を手ごたえとして感じました。

 おなじ頃数年前から親交のあった友人、Uさんから通販をしてみたらというお誘いがありました。Uさんは私の育てた豚を本当に美味しいといってくれた友人です。友人というか私は先生ぐらいに思ってるのですが彼のほうが年下だし今でも御付き合いさせていただいてるので遠慮気味に友人と書きます。 これが多分1996年だと思います。当時はまだネットの人口が少なかったのでどれほど売れるかは全くわかりませんでしたが、とにかく「紀州岩清水豚」という名前で通販をはじめました。肉への自信がすんなりと「紀州」の2文字を私に入れさせました。当時ネットで検索してみると生肉の販売は全国でウチだけという状況でした。松阪の松本畜産さんのご協力も頂いて、この年販売ページを開きましたが注文はありませんでした。初めてのご注文は1997年になってからです。最初に売れた肉は3kg。1頭で50kgぐらい肉が取れますので、残りはあまってしまいます。
 とりあえず海に漕ぎ出したが回りは嵐。心の糧と言えば、その頃どこかの公演で聞いたこの言葉、、

「良いものならば3年は埋もれない。埋もれたなら元々ダメだったのだ」

ダメならアイデンティティ全否定ですか、、そらキツイ・・


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