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岩清水豚の話(中編)

2011年01月14日 | 徒然
さてと、、先日の話の続きを書きますね。

 目標とするべき事は見えてきたのですが、具体的に何をどうやればよいか、とにかく前に進もうと言う事で試しに抗生物質を注射するなどの作業を全部止めてみました。 それまでもコスト的な意味合で抗生物質無しで飼育できないか検討した事はありましたが、完全に無しにすると豚達に病気が増え、発育が著しく悪くなり、ひどい場合には死んでしまったりします。 調子を崩した豚は隔離する等して看病で対応していましたが、それだけでは思うようにいかず、このままでは経営に大きなダメージがあると思われました。しかし、ここで何か掴まないと死んじゃった豚たちも無駄死にです。死んでしまった豚はすべて解剖して何が原因だったのか、最後にはどういう状況だったのかを調べていきました。
 アメリカで就職していた私が獣医さんに豚の事を習っていた頃も豚が死亡する度に解剖を行っていました。その頃からのトータルで解剖した豚の数が1千頭を超えるなぁと思った頃には病気の豚を見た瞬間に助かる、助からない、あと何時間保つ、あと何時間で手遅れと言うのが感覚的にわかる様になりました。

 そんな中、最初に考えた対策は確かに全体でいうと悪くなりますが、全く病気にならない豚も中にはいると言うことです。病気にならない豚の特徴を調べていくと胸幅があり骨が太くがっしりとした体格、少し脂の厚くなる遺伝形質を持っている場合が多いことがわかってきました。とりあえずその形質を多く持つ豚を当時の農場にいた豚の中から選抜していきます。これは最低でも5年はかかる気の長い作業ですので一足飛びには行かないのですが、避けて通ることの出来ないテーマでもありますので根気よく選抜淘汰を行っていきました。同時に種豚も何頭か購入し将来的にも豚を導入せずに生産できるような環境を作っていきました。

 次に、昭和の中期には薬品を使った飼育など無かった筈なのに御年寄りに聞いてみると大きな伝染病以外では病気に困ったという話は案外少なかったという事です。そこで当時の豚の飼い方を再考してみる事にしました。当時は豚の品種改良も進んでいなかった事から仔数が少なかった為、1豚房で飼育される頭数自体が少なかった、つまり群の単位が小さかったのが原因だろうと思っていましたので、群の単位数を小さくしてみたり、土の上で飼ってみたりといろいろやってみたのですが、その時はそれ程劇的な変化は得られませんでした。ただ、もともと社長のとらちゃんが一部の豚を放牧して育てていたのですが、放牧した豚はどんな形質の豚でも足腰が鍛えられ、強い父母豚となったので種豚は放牧して育てるのがうちの一つのスタイルになりました。
 
 薬品を使わずに病気の無い環境を作る為にどうしたらいいだろうと私がいろいろやっていると、とらちゃんが乳酸菌を持ってきました。とらちゃんは元々発酵菌の事とかに詳しいのです。詳しいと言っても種類や生態に詳しい訳ではありませんが、経験として積み上げたこうすればこうなる的な部分があります。継続した努力はちょっと苦手なとらちゃんですが、良いものへの嗅覚というか物事の本質を見抜く勝負強さが彼の持ち味なのです。単純に乳酸菌でいいのか、それともなにか別のファクターも必要なのかを検証するのは私の役目なのですが、こちらもすぐには劇的な変化はありませんでした。それでも何がよいかわからない状況だったので、使用法を少しづつ変えながら継続して行きました。

 その後はなかなか目に見えるような進歩も無く、豚舎の中に3トンの納豆菌を撒いてみたりとか私も行き当たりばったりな事を続けていました。そんなある日とらちゃんが病気に追いつかれないようにするにはやっぱり薬をやらないと、、、というひょんな言葉に閃いたのです。病気はいつかはかかるもので出荷する前にその病気にかからないように薬品を投与するのなら、最初からかかっていれば?それも健康に害がでないように小さい頃に少しだけ、、薬品を使わないようにし始めてから2年ほど経ち、豚の改良が少しづつ進みだした頃で病気にかかっても耐えられる素地はある。仔豚房の壁を取り去り、生後ある一定の時期にかるく感染させて免疫をつける。現在ならワクチンがこれにあたりますが、当時はそういう豚の病気へのワクチンはありませんでした。果たしてこれは、、。
 結果はついに出ました。どの時期に感染させるかで少し迷いましたが母豚からの移行抗体による免疫が下がり、自分で免疫を作り始める時期、飼料を自分で摂取できる時期などを鑑みればそれほど多い選択肢ではありませんでした。これによりいくつかの病原菌を押さえ込む事に成功した後は一つ一つ順番に問題点を解決していきました。そうすることで初めの頃に行った少数群飼いも大きく効果を表し始めたのでした。

「現実に魔法は無し。一歩一歩努力を積み重ねるのみ」


~中篇~終


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