六度目の“散弾”。
魔弾の細雨が軍の連中の潜む砦跡を打つ。
砲戦眼鏡の計測によれば距離は122。一息で埋められる距離ではない。
“散弾”を停止。
壁の向こうに微かな声を感じるが、内容までは聞き取れない。
「時間は?」
聞くと、ラスニールはベルトの時計をちろっと確認して、
「あと8分だ」
「はァ、長いんだか短いんだか」
言い終わると同時に七度目の“散弾”を開始。断続的に、飛び出す隙を与えないテンポで攻撃を入れ続ける。
「軍絡みの任務はいつぶりだっけか? あまり積極的に関わりたいお相手じゃないんだが」
「無駄口を叩くな。――所詮辺境警固部の一小隊だ、さして脅威でもない」
「まァそれはそうなんだが。……てか、じゃあ何でお前は来たわけ?」
「相手はおそらく陸軍辺境警固部の第23小隊。だとすれば雑魚の群れの中に、『白鯨』がいるはずだ」
相棒は口角を歪めて笑う。やれやれ、戦闘狂は変態の最右翼だな。
『白鯨』――バトース・ブラヴァツキーか。ご立派な噂しか聞かねぇ男だが、人が良すぎて出世できないというのもよく聞く話だ。
ただの馬鹿ってことならこっちとしても助かるんだが。
“散弾”が途切れた一瞬を狙って、砦跡の陰から一人飛び出してくる。砲戦眼鏡で少し拡大された映像に、夜闇に浮かぶ白い鎧姿が映――隠れた。敵は大剣を地面に叩きつけ、ぶちまけた土砂で“散弾”を防ぐとともに姿を紛らわせる。
やるね。あの剣がご高名な重剣オヴィレっつうわけか。
「来たぜ、ていうかお前のビンゴらしい」
一旦見失ったものの相手をすぐに発見。直進のようで微妙に回り込む動き、高速とは言い難いが決して鈍重ではない。効率的な軍人の足運び。“散弾”で追撃するが、距離があるので追う動きでは弾がばらける。
ラスニールは歪んだ笑いの隙間から息を吐き出して木の陰から飛び出す。
「仕事にモチベーション高いのは結構だが、やりすぎんなよ?」
「わかってるわかっているさ。任務は足止め。足止めなんだ殺してはいけない」
ニタリと笑う相棒。……マジでわかってんのか?
「では往く。お前は他を釘付けにしてろ」
「あいよ」
“散弾”の狙いを再度砦跡の方へ。飛び出した一人目を追う動きは無いようだった。信用しているのやら見捨てているのやら。
「――っと」
砦の方から魔力弾が散発的に飛んでくる。俺は林の間をすり抜けるようにそれを避わす。
一人目の動きに対応した射線でこちらの位置が割れたか。ふぅんそれなり。下っ端とはいえやはり王国軍というところか。
既にラスニールは飛び出した一人目のもとへと疾駆している。
二人が相対で詰めればさした距離ではない。時間はあと6分ちょい。逃げる算段を始めておくか。
魔弾の細雨が軍の連中の潜む砦跡を打つ。
砲戦眼鏡の計測によれば距離は122。一息で埋められる距離ではない。
“散弾”を停止。
壁の向こうに微かな声を感じるが、内容までは聞き取れない。
「時間は?」
聞くと、ラスニールはベルトの時計をちろっと確認して、
「あと8分だ」
「はァ、長いんだか短いんだか」
言い終わると同時に七度目の“散弾”を開始。断続的に、飛び出す隙を与えないテンポで攻撃を入れ続ける。
「軍絡みの任務はいつぶりだっけか? あまり積極的に関わりたいお相手じゃないんだが」
「無駄口を叩くな。――所詮辺境警固部の一小隊だ、さして脅威でもない」
「まァそれはそうなんだが。……てか、じゃあ何でお前は来たわけ?」
「相手はおそらく陸軍辺境警固部の第23小隊。だとすれば雑魚の群れの中に、『白鯨』がいるはずだ」
相棒は口角を歪めて笑う。やれやれ、戦闘狂は変態の最右翼だな。
『白鯨』――バトース・ブラヴァツキーか。ご立派な噂しか聞かねぇ男だが、人が良すぎて出世できないというのもよく聞く話だ。
ただの馬鹿ってことならこっちとしても助かるんだが。
“散弾”が途切れた一瞬を狙って、砦跡の陰から一人飛び出してくる。砲戦眼鏡で少し拡大された映像に、夜闇に浮かぶ白い鎧姿が映――隠れた。敵は大剣を地面に叩きつけ、ぶちまけた土砂で“散弾”を防ぐとともに姿を紛らわせる。
やるね。あの剣がご高名な重剣オヴィレっつうわけか。
「来たぜ、ていうかお前のビンゴらしい」
一旦見失ったものの相手をすぐに発見。直進のようで微妙に回り込む動き、高速とは言い難いが決して鈍重ではない。効率的な軍人の足運び。“散弾”で追撃するが、距離があるので追う動きでは弾がばらける。
ラスニールは歪んだ笑いの隙間から息を吐き出して木の陰から飛び出す。
「仕事にモチベーション高いのは結構だが、やりすぎんなよ?」
「わかってるわかっているさ。任務は足止め。足止めなんだ殺してはいけない」
ニタリと笑う相棒。……マジでわかってんのか?
「では往く。お前は他を釘付けにしてろ」
「あいよ」
“散弾”の狙いを再度砦跡の方へ。飛び出した一人目を追う動きは無いようだった。信用しているのやら見捨てているのやら。
「――っと」
砦の方から魔力弾が散発的に飛んでくる。俺は林の間をすり抜けるようにそれを避わす。
一人目の動きに対応した射線でこちらの位置が割れたか。ふぅんそれなり。下っ端とはいえやはり王国軍というところか。
既にラスニールは飛び出した一人目のもとへと疾駆している。
二人が相対で詰めればさした距離ではない。時間はあと6分ちょい。逃げる算段を始めておくか。