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首領日記。

思い出の味はいつもほろ苦く、そして甘い

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(63)(記録用)

2014年11月16日 23時45分22秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 砦戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 vsセイリオス ***
(シュアリー)


ビアンカの身体がこちらに倒れ込むのを左腕で抱える。
異界への扉が閉じたことで俺は右腕の支えを失ったが、もう落下はしない。召喚剣を納刀し、眉根を寄せて奥歯を噛みしめるセイリオスと向き合う。
彼からの追撃はなかった。

「―チッ」
血の付いた剣を一振りし、
「予想以上に冷てぇ野郎だな。まさか、その気のねぇ部下を無理やり盾にするたぁよ。」

ごほ、と腕の中のビアンカが血咳を吐く。『風読み』――分析魔術――錬成。彼女の刀傷をハンダごてのように塞ぐ。保つだろう。
「私という役割の上には凍牙兵千名、そしてその背後にいる者たちの命が乗っている。当然の価値判断だ。彼女も承知の上でここに立っている」
気絶しかけているビアンカには応えられない。深刻なダメージに青白い肌が震えていた。

「…そうかい。あん時の顔は、とてもじゃねぇが承知っつー表情にゃ見えなかったがな?」

ふ、と俺の口から声が漏れる。
「刃を執るということは、力の――不条理の世界を覚悟するということだ。個々の不条理についての納得は、往々にして、後追いでその覚悟へと辻褄合わせしていくものさ。
明日の朝、目覚めた彼女に私が『もう一度』と尋ねる。彼女はノーと答えるかな? 貴殿はどう思う?」

セイリオスの眼が見定めるように細まる。
「……さァな。此処は戦場だ、テメェ自身の意思で"覚悟"してんなら、誰だろうと斬るところだが」
「そうだな、あのまま貴殿に振り抜かれていれば、私も傷を負っていただろう。あの瞬間の彼女に"たまたま"覚悟の準備がなく、"運良く"それで貴殿に刃を緩めてもらえたというわけだ」

「―俺がそれで剣を緩める事を計算に入れたっつーワケか」
俺は、ニィ、と口の端を釣り上げる。
「そうだ。貴殿は期待にそぐわぬ男だった。彼女が死ななくて良かったよ。嬉しい限りだ」
「…つくづく、嫌な頭のキレ方する野郎だな」

「敵だろう? 斬れば良かった相手のはずだ。なぜ止める」
言いながら前に俺は右手を掲げる。錬成――槍掃射。
「その気がねぇ奴まで斬るほど、生憎飢えてはいねぇんだよ」
避けながらセイリオスの表情が変わる。
気付いたか。
「ご明察だ。『狂乱座天』中の私は無制限に錬成魔術をキャストできる」

セイリオスから牽制で返された風波も、眼前に張った大円盾に阻まれる。
「その気はないさ――みんな案外、そんなものだよ」
重力に引かれて盾が落ちる。
「だから私は勝たなければいけない」

俺は右手をセイリオスに突き立てるように掲げたまま、
「貴殿は武の高みを目指す者だと言ったな。大陸を越えてまで求めるその気概に偽りはなかろう。……だが、何故目指す?」
傍らに抱いたビアンカを左に提げた。そして、
「強さとは、何だ?」
手を離した。
ビアンカが落下していく。


「テメェ…!」
セイリオスが、苦虫をかみつぶしたような顔で怒声を吐いた。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(62)(記録用)

2013年08月27日 14時05分37秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 砦戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 vsセイリオス ***
(シュアリー)


セイリオスによる斬撃は召喚したビアンカを肉の壁として防いだが、斬撃の余波で詠唱器を打ち落とされ、『開門』を阻止されてしまった。生まれかけていた指先が気勢を削がれたようにあちら側へ還っていき、虹色の傷が消えてゆく。
荒廃贇の召喚には失敗したか。

だが。
「――宴のときよ、来たれ」

起動、『宴織りなす狂乱座天』。
世界の改竄。俺を軛として、ここに交わる認識地平のほんの一部を、自我で上書きしていく。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(61)(記録用)

2013年08月27日 14時05分15秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 砦戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 vsセイリオス ***
(ビアンカ)


「風神拳、……爆旋一揆ィッ!」
放ち続けたブレスは再び弾かれ、球状の大風波が周囲を襲う。距離を――優先すべきは護衛――回避――不可。最善手が即時に見出だせず、そして初撃のダメージがまだ残るために反応が遅れ、バラジェごと弾き飛ばされる。殲滅力、すなわちDPS、攻撃範囲、最大打撃力、そして機動力を優先した私の愛機は、哀しいかなその軽さゆえに障壁ごと大きく吹き飛ばされる結果となった。
衝撃と加速度に筋肉が縮み身が竦む。暗い夜空の腹の中で錐揉み、乱回転し、視界の端に赤い光がチラつき、微かな吐き気。それでもバラジェは私を背に負いながら風の壁をいなし、熱に耐え、再び空を掴んで、威勢を取り戻すように羽ばたき、

「■■■■ーーーー!!」

猛り吼えた。
ああ、わかっている。

かぶりを振りながら正気を手繰り寄せる。視界の動揺が収まるのも待ち切れず、元いた方向に視線を走らせる。

閣下は?
捜す。
火花を上げながら落下していくフォーマルハウトの姿が見えた。

閣下は?
捜す。
時間がやけに長く感じる。

ぬめる夜の底に、冷たい声が聴こえた。

「星と海鳴り、剣と血潮。結び鎖される伽藍と光。
意識炉の中で胚胎する軀天。
七度花開く永劫蓮華」
「貴様を謳え。貴様を告げよ。
月の牙城へ誘う黒金。いささめなる夢と呼び水。
人夜に瞬く祝祭と流転」

詠歌に意識が引き寄せられる。
いた――不意に肌が粟立ち、

「「我は総べる者なり」」

枝分かれした詠唱が交差し、また分かれてゆく。
私は間抜けのように棒立ちになっていた。

「奈落のバシュタルド、苦界の貴公子よ。
貴様の名に生と鬱し世の祝福を」
「寿ぎ、祭り、結い上げよ。
那由多に祈れよ隷と縁」

軋み捩れ狂う二陣の魔力が虚空に縒り上げられてゆく。

視界の中、逆稲妻のごとく闇夜を奔る影。敵将セイリオス。
止める気だ。
――止めるべきなのでは?

「私の右手が青嵐を食む。うつろう水面が砂塵に満ちる」
「炎を写して火で刻め。
さんざめく血を盃に。箏爪と歓喜の灰燼を空に」

津波の圧力で硝子細工に螺鈿を嵌め込むような極微の技芸。
私には想像もつかないが、あれは……特に前者は。

「穢れし芥と灰と水。蠢く祈りの昏き海」
「捩れた光が空ろに満ちる。私の剣が扉を別つ」

空に突き立てた剣が禍々しい虹色の傷を拡げている。
瘴気満ちる異界から、怖気が迸るような何かが指先を伸ばし、私たちの世界に這入り込もうとしている。
あの方は、"喚んではいけないものを喚ぼうとしているのでは?"

「来たれ。落ちよ。沸き上がれ」
「誓え。祈れ。夢に見よ」

開かれた特異点の向こう側から異形の視線が注がれ、目が合う。私は自分が何者かも忘れ、生来の強気も矜恃もそんなものは初めからなかったように舌を乾かせて、ただこの場から居なくなりたい、そのためならあの無能な神に跪き祈っても良いとさえ思い始め、

――そこまでだった。
非道の御業が成る寸前、逆雷が届く。

「やらせるかぁああああ!」

振りかぶり、刃が落ちるのをただ遠くに見て、私は初陣を生き残った兵のように安堵し、



セイリオスの刃が、私を袈裟に斬るのを見ることになった。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(60)(記録用)

2013年06月23日 23時44分25秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 砦戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 戦艦・剣星へ進撃中 ***
(アグナ)


既に組み上げ終わっていた銃を手に、少女が風に身をさらす。防寒装備にはまだ身体が慣れないが、動きづらいほどではなかった。
竜の背から眼下に視線を向ける。乱舞する火炎に黒い兵たちが削られていた。中には少女の見憶えのある姿もあった。

火球が矢へと枝分かれし、少女の乗る竜にも襲いかかる。竜種の強烈な魔法障壁が防ぐ。障壁の表面を炎が舐めていく。
『指揮官級またはエース級の守護と高速移送を担う』。魔装竜の第一理念を忠実に満たす、第一世代の老竜の姿がそこにあった。だが辰砂の竜は半ば夢見心地で、敵竜の攻勢に良くも悪くも頓着する様子がない。
同様に、こちら以上の厚さで敵竜も防御障壁を展開していた。当初は威容に圧されていた凍牙兵たちも、今は正気を取り戻し、数にものを言わせた反撃に移っている――が、有効打に至らない。
このまま損傷を介せず全力で竜に対抗すれば、倒せる可能性もなくはない。だが戦艦を含めたダメージレースにおける敗北は明らかだった。
端的に言えば、手詰まりである。

少女は狙撃銃をストラップで身体にくくりつけ、老竜の背の岩礁のような鱗につかまりながら眼下を観察し――、

「!」

竜の背に、彼を見つけた。


*


あいつ……あいつが乗ってる……!

≪ボス! 敵の竜の騎乗者が見える!≫
≪アグナ? おい、何で出てる?≫
≪こちらは敵竜の攻勢で崩れ掛けている、あちらの頭を押さえないとダメだボス!≫
二秒。
≪……良いだろう。交戦許可。儀礼弾もだ。出し惜しみするな≫
≪了解(ヤー)!!≫


お前だけは許さない。
あれは、俺の、俺が!
「行くぞ、お前たち……!」


*


応える二つの宝珠。
ユニットカバーを灼き切り、魔石が発光しながらアグナの周りを浮遊、そして少女のつむじの左右に収まり、後頭部から前へと張り出す二本の角となる。
赤の宝珠が変異した右角は炎を司る『灼鳴(シャクナ)』。燃えざる炎。阻めるものを灼滅する烈火の棘。
黄の宝珠が変異した左角は雷を司る『黙星(ユビトー)』。静かなる雷。抱擁する智天使の指先。
『雷』が静電気による磁界を発生――儀礼弾10発が装填された弾倉が防寒着の下からアグナの手に飛び込む――装着。老竜の背に張り出した鱗に右のかかとを預けて膝撃ち姿勢――二脚が銃床の先から展開――固定。
ボルトアクション。術式がびっしりと刻まれた魔術金属の弾丸が薬室に挿しいれられる。
照準器解放――既に『雷』による自動補正が開始している。彼我ともに飛翔中、高空ゆえの強風と火炎による空気濃度の揺らぎ、そして魔法障壁。不可能とも思える場の構成要素を思考が追い、『雷』が追従し調整していく。本来であれば居るはずのない角度の先に、

(……見えた)

中性的な、瞳の焦点のぼやけた顔が映っていた。
そして、彼女の自我に、世界のすべてが溶けていく。


*


前触れもなく発射された弾丸は、音速を軽々と超え、空を裂いて侵攻――『炎』によって発射時と飛翔時の音波をすべて焼き払った静かな敵意が、竜と乗り手の多重魔法障壁にそれぞれ手のひらにも満たない大きさの穴を灼き貫き――そして、竜の鱗をかすめて斜めに抜けた。
狙撃――初弾失敗。

「……くそっ」
華奢な身体に魔族のような角を生やした少女が涙で頬を濡らしていた。障壁が多重ゆえにそれぞれの入射角を計算する必要があったが、想定よりズレがあった。分かっていても、まだ次弾が撃てない。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(59)(記録用)

2013年06月14日 00時50分21秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 砦戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 vsセイリオス ***
(ビアンカ)


「チィッ!」
数倍返しで跳ね返された風炎のブレスを魔法障壁と高速機動とで対応……が、この距離でも回避しきれずバラジェが削られる。この子の機動性をまず維持しなければ。即座に私は回復魔法を発動。敵はこちらを足止めした間に司令代理へ。一足でフォーマルハウトの懐に飛び込んでいる。四方からの真空波と同時、

「……ではなく、文字通り体現する者だ―ッ!」
雷電を纏う手刀の一撃。

機竜は咄嗟に首を上げて回避――否。機首を上げ、翼の下から魔力弾を至近乱射しつつ、首下から胸部にかけて大きく破断されながら更に上昇、その場での後方宙返りに転じる。
弧を描いて囲んできていた風刃は既に消失していた。宙に捩られた魔力の痕がわずかに残っている。操作系の風属性魔術での相殺。指令代理だ。無詠唱の上に発動が滑らかすぎて、私ですら目視での後追いになってしまう。
宙返りから続く鋼鉄の尾、蛇腹の楔形剣が逆斬りにセイリオスを強襲。セイリオスが伸長した尾刃を剣で受け火花が奔る。

下からの長い斬撃が続く――と見せて上。 錬成された数条の紫電纏う投槍が斜め上から宙を走る。上下からの挟撃にセイリオスが対応していく。
投槍の射出位置には閣下が、いない。あの人は飛べないはずだ。

斬撃する尾の終端に、
「ううるるるああああ!!」
左手一本で掴まる姿があった。魔槍を懐溜めに抱えて真下からの突撃。

そして交錯。

その勢いのまま上空へ放擲される司令代理。交錯時の衝撃で錐揉みになりながら、上空から指示が飛ぶ。
「続けろお前等!」
「……燃やせバラジェ!」
応答の代わりに双頭竜に叫ぶ。
旋回しながらの風炎ブレス。風側が無効化されたことは百も承知、だが続けろと。私は従うだけ。
フォーマルハウトも損傷を介せず、翼のダガーを射出しながらセイリオスへ突撃。

「「奇蹟は訪れない」」
二重の詠唱が降り注ぐ。
上空には司令代理が虚空に突き立てた召喚剣に掴まり静止している。

「零れゆく一掬の銀河。捻れゆく永遠の世界塔。
雨降る此方に異界の薔薇を。我がまほろばに幽界(かくりょ)の百合を」
「苦痛をもたらすものだけが胎動する。
花弁だけが疫と災嵐の向こうに笑う。
滾る天鈴が海嘯の底でなお語る」

そして枝分かれるメロディ。
司令代理の傍を鈍く輝く金属球が衛星軌道で飛翔している。球の表面が三日月に裂け、男と同じ声で唄っていた。
召喚剣がじわじわと空に傷を開きながら下がってゆく。

「星と海鳴り、剣と血潮……」
「貴様を謳え。貴様を告げよ……」
猛攻の空の上で、更に詠唱が続く。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(58)(記録用)

2013年05月28日 02時12分38秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 砦戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 戦艦・剣星へ進撃中 ***
(臨時指揮官イスルギ)


司令代理と二騎の魔装竜が敵武将を抑えている間に目標ペルセウスに接敵、速やかに撃沈、という行動計画は、更なる防衛者の出現を前に砕けて消えた。
武将級がこうも立て続けに……!

急速上昇した敵竜はこちらの前方で停止しホバリング、竜種特有の畏怖効果をぶつけてくる。
「しまっ……」
位階の低い兵から一斉に恐慌が襲う。これでは連携が……!

「■■■■■■――――!!!」
立て続けに咆哮。敵竜の赤い口腔ががばと開き、超大火球が視界を塗り潰す。





これはだめだ



痺れとも放心ともつかない何かに心臓を鷲掴みにされ、かけて、頭上から落ちる低音にかろうじて我に返った。

「……じゃないッ! 全隊ぼうgy」
『回避だバカ!』
火球が眼前で分裂し流星のように降り注ぐ。通信機越しの司令代理の声に後続の隊はかろうじて反応、回避行動に移るが先頭の私の隊は間に合わない、ただでさえさっきので損傷率が高い彼らは避けきれない、なら!
「斬るッ!」

迫る三条の火矢。
魔力を鋒に集中し抜刀。居合。


被弾しながらも振り抜き――、
燃えさかる視界の向こうに、次弾が形成されていくのが見えた。
「……くそっ」


*


【戦況報告】
凍牙先遣隊・対艦部隊(総数 597)

戦闘不能 28(死者含む。スカラベ等により順次離脱)
重傷 29(臨時指揮官含む。回復可能な一部を残し順次離脱)
軽傷 多数
首領による戦巫女加護効果 残96

継戦可能数 530/597(継戦限界目安 350/597)

※臨時指揮官イスルギ、被弾により右腕炭化、右半身に1~2度の火傷
※現在戦闘継続中

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(57)(記録用)

2013年05月28日 01時51分31秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 砦戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 戦艦・剣星へ進撃中 ***
(魔装竜シャルラッハロート)



今夜も月はねむつてゐるね
雲の色だけ少し紅い

明日目が覚める前に
吾れの翼が空を掴む
嗚呼目が覚める前に
吾れの翼が空を掴む

風が心地よくて雪の音をもう忘れてしまつた
吾れらが暖かく暗いほとりに
何が在つたかもう忘れてしまつた

眷属よ汝れ輩らも嬉しかろう
狩りの習いに息抑えども
身を打つ血鼓は已みはせぬ

吾れの抱える巣籠に
枝を咥えた千鳥仔が匍う
汝れも夜空が恋しかろう

愛しき同胞多かれ
吾れらが空を盈たそう
寂しき空を盈たそう


*


老いた赤竜の背に括りつけられた積荷、その籠蓋に突如凄まじい負荷がかかり、金属の甲高い音を慣らして弾け飛んだ。乗り手たる主が去り、悠然と部隊より更に高空を泳いでいた辰砂の竜をいくらかの兵たちが見上げたが、蓋が落ちただけと気付き、それ以上反応する者はいなかった。
何より、ほとんどの者は、対峙する最強種の威風にそれどころではなかったのだ。

半ば開放され、風にバタつく荷籠から、居るはずのない小柄な人影が眉を上げた表情を覗かせていた。
「おお……ほんとに飛んでたんだな、ボス」
その呟きにも、誰も気付くものはいなかった。


*


月がねむつてゐるせいか
迷い子たちの鳴声がよく聞こえる夜だ
ミョミョとまた子猫が鳴いてゐる
何処に往くのと鳴いてゐる

(シャル、戦艦に向かってる?)


此処だ
吾れは此処にゐる
山茶花の香りを付けて空を渡る
同胞輩らと陽を追いかけて夜を往く
今宵は月が居なくても
声が届けば寂しくはなかろう


*


闇夜を翔ぶ黒い兵士たちの頂上で、竜が穏やかに唸り啼いた。
迫り来る幾百の火矢の雨に兵たちが慄く中で、場違いなほど長く鎮かな声が闇の底に響く。
老いた竜のまどろむような嘶きが、かろうじて兵たちを恐慌から救い上げた。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(56)(記録用)

2013年05月28日 01時46分24秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 砦戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 vsセイリオス ***


「アンタ達の強さを見せてもらおうじゃねぇか。――俺ァ、俺より強ぇヤツに会いにきた」
雄図を吐き上げ、更に男の魔力が解放されてゆく。

強い奴、か。
「そうか、それは生憎だったな。悪いがうちの一番手はもう片方の会場に行かせてしまったよ。ここにいるのは見た通りのひ弱な指揮官と」
俺は肩をすくめる。
「そのお守りを押し付けられた、気の毒な連中さ」

オールドランダーだと?
アース失陥はもっと派手に祝うべきだったな。まさかこんなにも早く異大陸者に出会えるとは。
「セイリオス……なるほど、二つ名通りの『天狼』か。異界の宙に輝くという全天二十一がひとつ、『光り輝くもの』。変わらずの星が、武究に焦がれて天つ川を渡りきか。
佳い。気骨を感じる。なァ『北落師門』」

足元の機竜は通信機越しに返答する。
『こちらフォーマルハウト。名前などただの記号に過ぎん。下らん話は早々に切り上げて先に向かうべきだ司令代理』
あららツレないね。実を表す良い名なのに。
「閣下に無礼な口を利くな機械トカゲ。礼儀を詰めるにはドタマの容量が足りないのか?」
『こちらフォーマルハウト。話しかけるな腐れサド女。あいにく脳のネジは余っていない。気の毒だが分けて欲しけりゃ他をあたれ』
「おおっと凄い、白衣連中の玩具にしては豊富な仕込みだな。次のセリフは尻のボタンか?」
「はいはい、喧嘩するよりか弱い私を守ってねーキミたち。それに――」

俺は手を叩いて仕切りつつ、左上腕のホルダーに収まる通信機に叫ぶ。
「回避だバカ!」
『風読み』の先で、先行させた部隊が新手の猛攻を受けている。シャルラが威圧を中和しなければ総崩れだった。相手は純血竜種……!

「――確かに、あまりのんびりもしてられんなこれは。それでは諸君、そして求道の異邦人よ。ともにダンスマカブルと洒落こもう」

「「イェッサー!!」」
応答と同時。
二騎の魔装竜による、風炎二条の大ブレスと魔力弾の掃射が対峙する男を襲う。
同時に俺は無詠唱で追尾の魔弾を放擲。数十の魔力の矢が上昇し反転、白い尾を引きセイリオスへ垂直突撃する。

小手調べなど必要なしの、初手からの多角弾幕。
戦争は火力だ。手数で押し切れるのであれば、奇策は必要ない。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(55)(記録用)

2013年05月25日 01時12分07秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 開戦 夜半 ネウ砦から西北西上空 ***


パッケージノーヴェンバー、イスルギの部隊を先頭とし、対艦部隊は敵戦艦へと向けて進軍開始。
つかの間の猶予が破られるまでに、距離は1kmを切っていた。接触まで残り数百mと迫ったところで、一つの影が行く手を遮るように浮上する。男の影は両の手をこちらに掲げ――「回避!」――、三発の巨大な竜巻を放射。

部隊はそれぞれ戦闘単位たるパッケージごとに散開。三つのうねりを飛び越え、くぐり、躱していく。
が、
(こりゃ陽動)

威力が先刻から放射されていた男の魔力と釣り合わない。
竜巻の撃ち終わりと同時に男が急加速、掲げられた掌の先に、

“我こそは盟約者 我が名こそは斬風王”

直径約30m、緑に輝く魔法陣が顕現する。
魔法陣を目視分析。風使い、戦型不明、先の布石――

“我が呼び声に応え、来たれ―――”

「次弾来る! 防御陣形!」
豪風に体勢を崩しつつも、応えて各部隊が密集し防御術者が障壁展開。武将クラスを相手に一般兵級が避けるか守るかでいちいち判断していては話にならん。掻き回されて何もできずに落ちる。
同時に俺は後ろ腰の召喚剣を抜剣。

“―――風の王ッ!”

男の背後に光のシルエットが浮かび、瞬時にエネルギー化して複合魔法陣に溶け込む。そして光の奔流が、夜を薙ぎ払う。


「おいで」
閃く虹色の横一文字。空が割れる。


*


凄まじい光と風が吹き荒び、自軍に直撃。轟音と激流に、白く輝く視界の中でいくつものシルエットが吹き飛ばされてゆく。そしてゆっくりと、光が耳鳴りと共に収まり、やがて消える。

自軍の前方、無数の身体が飛ぶ力を失い、あるいは既に絶命して落下。落ちながら次々に光へと昇華していく。選択したのは魔獣の群れの召喚――肉の壁。判断は正解だった。数にして100近いタフな種族が、一撃で全滅していた。それだけでは足りず、平均四重の多重障壁を各所で射貫、更にハーティーの魔術による祝福効果までを弾き飛ばし、
「こちらイスルギ! 報告します! 戦闘不能数名、重軽傷20名超! 今のは――」
この有り様か。
「こちらシュアリー。戦闘続行。イスルギ、お前臨時指揮官。部隊率いて戦艦殴れ。私のシャルラも貸してやる。全隊、近接敵兵を牽制しつつ即上昇移動はいGO」
私ですか!? とか聞こえるが無視。
やっこさんは時間稼ぎに出てきてるのが見え見えだ。だが無視もできない戦力、ならば。

長射程の兵たちが牽制攻撃を始めた音を背景に、
「オルドレッドとフォーマルハウトは私に付け。武将狩りだどうぞ」
告げながら辰砂の魔装竜から飛び降りる。
「「イェッサー!」」
二騎の魔装竜が老竜シャルラッハロートの脇を抜け前進。フォーマが鋼鉄の尾で俺を拾って行く。

≪アグナ、少し離れる。まだ大人しくしてろ≫
≪了解(ヤー)≫
ホントにわかってんだろうーな……。

伸長させた尾をフォーマが引き戻す勢いで俺も飛び、その背に着地。斜め頭上へ行く部隊の尻を見つつ、牽制の雨に対し回避運動を取る敵に叫ぶ。
「今の一撃、名の有る将とお見受けした!」
彼と視線が合う。
「私は凍鉄の牙、総軍司令代理シュアリーだ」
敢えて明かす。これで敵も部隊を追えなくなるはずだ。
「お相手しよう。……名乗るが良い」

一対一ではないが、な。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(54)(記録用)

2013年05月19日 14時00分41秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 降伏勧告後~開戦 夜半 ネウ=トタ国境線ネウガード側上空 ***


刻限の3分がいよいよと迫った、そのときだった。
敵戦艦の砲口が煌めき、螺旋に絡み合った魔力砲撃が発射。空を切り裂き貫いて、眼下、視界の左側に座する砦の北側外壁を巻き込みながら、"杭"を吹き飛ばした。
それが返答だな。

「はっは、上等だ……!!」

俺は通信機を引っ掴み、猛る兵達に叫ぶ。
「こちらシュアリー。見たな諸君! 素敵な返答だ! それではお待ちかね、血みどろの大戦争の幕を開けよう! 作戦は変更なし、事前説明通りヤヌス麾下400の翼兵隊は砦へ、私と残り600は敵艦ペルセウスへ向かう! 一世一代の晴れ舞台だ、派手に行こう!

……凍鉄の牙・先遣隊、進撃」

応えるように、千の鬨の声が大音声となって響き渡る。
そして大隊が二隊に分離し、即座に陣形を整えてそれぞれ加速。こちらの眼前では、敵戦艦のシルエットが見る見る巨大化しはじめる。
視界の下で、敵部隊が第二射とこちらの動きに反応して動き出すのも感知した。
さて。