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首領日記。

思い出の味はいつもほろ苦く、そして甘い

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(25)(記録用)

2012年11月14日 23時05分51秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** フレッドバーン 港最寄りの街 ***

このまま屋内に留まるのが射線を防げそうだが、それでは火竜を仕留めた攻撃で建物ごと潰される。隣接の建物に飛び込んだ勢いのまま屋内を疾走し――

だがあの一撃がない……何故だ? 
それだけではない。敵の挙動が時折おかしい。
知覚、分析、照合、思考……試してみる価値はある。普段なら一旦停止だが、

――そのままルーフバルコニーとなった位置へ飛び出る。
そこで次撃が来る。予想は当たりか!? 再度周囲を取り囲む槍の群れ。だがこれはもう三度見た、種は割れて――

と、更に短剣の多重生成。

――なんッッッ!?
相殺無効化障壁デコイ対消滅緊急回避ぜんぶ間に合わん!!
《御館様っ!!》


轟音。


*


銀の積層甲冑に身を包んだ巨体が、雛を守る親鳥のように俺の盾になっていた。
大円盾と柱じみたハルバードを手に屈み込んだ二足の獣騎が、
「御館様、御館様、ああ、お怪我ヲ、なんというこト、ああ、私ガ……」
野太い声で狼狽えていた。

「……落ち、着け……」
瞬間に選んだのは使い魔の召喚だった。屋敷で戦闘準備させていた一騎。
敵の包囲攻撃はあらかた獣騎が防いでくれたが、それでも数条のダガーが腹と手足に突き刺さっている。凡百のパッケージ魔術とは比べ物にならない、俺にとって最も厄介な組み立てだった。
判断時間がない、付与効果を警戒してとにかく全て無効化。刃は砂鉄へざらりと溶ける。

「御館様がここまデ……馬鹿な……」
甲冑中に槍を生やした獣騎が、はたと気付く。
「今出ている”私達”ハ――」
「……”5”だ」
「何故!? それでは到底……!」
「聞け。いいから聞け。今は誰一人引けん。そして俺には今しかない。……それに相手も似たような条件だ」
やっとそれがわかった。それでなお圧されている。だから、
「お前が必要だ」


*


追撃を狙うタイミングで生き残った追尾弾が襲来し、わずかに緋河流の手が遅れた。
「答えろ!お前が敵視しているのはこの国か、それとも僕か?解放軍か!それ次第では火竜を呼んだ行為の正当性が異なると知り、散れ」

ここからは、出し惜しみは無しだ。
残り僅かな魔力を無理矢理蹴り立てて発火させていく。
しゃべると腹に最悪に響くが、もう知らん。やせ我慢だ。いけ。

「……貴方の部下を避難させていった先程の二人、お強かったですね。
あの火竜に手傷を負わせただけで、なかなかの手練だ。
――――さすがは”ネバーランド解放軍”の方々。”自分で名乗った”だけはある」
脳裏で組み上げる。かたちのない何かを疾駆させる。

「『この国か、僕か、解放軍か』。……なんですか、それ。貴方がたが勝手に言っているだけでしょう。”我々”のどこに、貴方がたの内輪の話に配慮する筋合いが?」
精神の相転移。魂の伽藍に熱を放つ何かが満ちていく。

「占領直後から軍備拡張に走らなかったことが奏功し、これまで上手く切り抜けてきた。数ヶ月でこの発展、卓越した手腕だ。賛辞に値する。
が、よくよく見れば……要するに、反社会的勢力の養成地でしょう、ここ。テロリストの尖兵を生むコミュニティが、いつまで”我々”に放置してもらえると思っていたのですか?」
滾る。

「無関係なフレッドバーン民? 無辜の民などこの世界にいやしなければ、……そもそも藪蛇突ついて引き込んだのは、貴方自身だ」
獣騎が俺を母親のように防衛している。

「王とは、代表であり象徴。『あれは私がやっただけでみんなとは関係ありません』、そんな台詞が、王たる者に許されると?」
支配、観測、改竄、励起。

「民を背負わぬ王も。王を背負わぬ民も。この場所にある何もかもが不愉快だ。”我々”が積み上げた全てを愚弄している」
引鉄が上がり、そして。

「味方と、そして敵と。規律と誓約に則り戦うすべての人々との誓いを私は果たす。
――いま。ここで。告げる。
『外なる敵』よ。お前達を排撃する」


発動、『空が落ちる』。

言語による場の改竄。束の間のルールが世界に浸潤してゆく。
槍、ダガー、魔力弾……宙駆ける全てが力をもがれ、墜落する。


翼が無効化されて着地した緋河流へ、
「――突撃(Charge)」
主命のまま、獣騎が吶喊した。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(24)(記録用)

2012年11月11日 01時46分16秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
緋河流の超速突撃(やはり迅い!)と時間差、無数の槍が虚空から現れ射出。

が、そちらは。
一度見たおかげで予測できた。瞬殺された火竜も結果的に一応の働きをしてくれたわけだ。
「姿成せ、雷槍」
紫電じみた魔力を纏う鋼槍群が俺の背後に錬成され射出、緋河流の槍と相打って砕け散る。強化した脚力で雷槍と同時に後方に跳び、その間隙からアイアンメイデンを脱出。緋河流の追撃を、逆に槍を壁にして遅延させ距離を取る。

と同時。

迫る緋河流の周囲を、雷槍の群れが全方位から取り囲み、逃げ場一つ残さず強襲した。
空間操作と錬成、成りは異なるが計らずのミラーマッチだった。当然敵も超えてくる。
尖塔頂上近くから跳躍したため宙に踊り出た俺に、更に追撃の槍射。翼のない俺には回避不可、さっきのように省コストで防ぎきることもできない、ので。

錬成『転変』。手元の鋼槍を再錬成して高速伸長、尖塔に突き立てた反動で初射を躱し、
「『正義を謳う』?」
続いてぐにゃりと鋼線化。塔の周りを位置エネルギーからのワイヤーアクションで旋回しつつ、
「思考の前提に差異がありすぎて、どうにも話が通じないですね……!」
『風読み』で緋河流の位置と状態を把握しつつ牽制の追尾型魔弾を放射状に放っていく。1,5,13,29,61――、計125の白弾が各々に尾を引いて征く。意図的に手抜きして威力と追尾性ランダム。
「『宣戦布告』? 自分たちはルールに従う気がないくせに――」
鋼線を手放して跳躍、隣接する建物の開口部に飛び込みながら、
「――都合の良いとこだけ対等扱い求めるなよ……!」


火竜はあくまで警告だった。だからこそ、逃げる時間を与えるようわざわざ脚の遅い種を街の外れに喚んだのだが――

塔の周りを旋回しつつ、俺は腰後ろの召喚剣を空に突き立て切り裂いていた。
呼び水の刀身が切開した紅い唇から、ぼとぼとと悪意の泡が零れ落ちていく。

――良いだろう。正当性とはまったく別のレベルで、認める。
強者だ。賛辞すべき相手だ。
だとすれば、相応しいモノをくれてやる。


泡卵が、孵る。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(23)(記録用)

2012年11月10日 23時12分21秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** フレッドバーン 港最寄りの街 ***

街の人々が火竜に気付いた時点から、『風読み』が辺り一帯をカバーしている。
現出する声、行動、容姿、装備、関係性のすべてを、拡張された触覚が拾っていた。

あれはなかなかの強者だったはずだが。
脳内でひとりごつ。
あの障壁を突破できる兵もなかなかだが、その時点では、真名の通り火竜には驕りがあった。ようやく本気を出すかと思った矢先にこれだ。
連撃と集中打は確かに魔術障壁に対する有効打。現場で避難誘導をしていた女性の情報から一手で詰めてきた。
それ以上に脅威なのは速度の方だが。

誰だ、と確認するまでもないようだ。
あれが。

火竜が倒れ伏し、『絶命』して光へと昇華し、消えてゆく。
街にはただ炎と、爪痕だけが残った。


尖塔の頂点近く、俺の横方に男が降り立つ。
「観光ですか?」
視線を向けると、身長はほぼ俺と同じ。小柄な黒髪黒眼。外見年齢もほとんど同じ。
「‘こんな時に来てしまって災難ですね’“しかも逃げずに見ていたものだから疑われてしまう様な事になって”」
街を焼く炎熱に煽られているはずが、周囲の空気が急に冷めてゆく。
これは困った状況になった……。

さて、思考――しらばっくれてみようか?
否だろう。
「ああそうそう、ようこそフレッドバーンへ」
いまの俺は密航者だ。万が一この場で口八丁やり過ごせても、そこで手詰まる。
致し方なし。

「ここからしばらく見せてもらいました。本当に指揮系統も統一されていない、寄り合い所帯なのですね。この『村』は」
尖塔に吹く上昇気流に前髪が揺れる。
「こっそりと這入り込んだことについては、申し訳ない。現地住民の方々をいたずらに刺激することになってしまいましたね」
欄干に腕を預けたまま、眼下の惨事に流し目をくれながら俺は告げる。

さて。
遠回しのメッセージを残して帰るつもりだったが、こうなったからには――ストレートに行こう。

「この世界の″正式なメンバー″の一人として、警告します」
左腕のリングが予兆に熱を帯びる。リングに飲み込まれた凶星のような宝珠たちが、我先にと眠りから覚醒していく。
「ネウガードから手を引き、仲良くこの島に帰りなさい。″この社会の誰でもない″人間は、人間ではない。貴方達はいずれも、自らそれを望んだはずだ。今ある社会の外で生きたいと。″我々″と袂を分かつと。

であれば、貫きたまえよ。

″我々″が黙認している意味を思いながら、終生、せめて当たり障りのない関係の維持に努めるべきだ。
社会の外にあって人に仇なすのであれば、その姿がなんであれ、私たちは害獣として扱うよりほかない」
高速錬成。右手に鋼の槍が収まる。
左手が前髪をざわりと掻き上げて、唇が嗤いに歪む。

「分別というものがあるだろう。
――ネウガードも堕ちたものだよ、まったく」


単騎戦では相手が格上。
さて、どうするかね。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(22)(記録用)

2012年11月10日 13時19分44秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** フレッドバーン 港最寄りの街 ***

尖塔の上から、それを見ていた。

正午を告げる鐘が、鐘楼の尖塔と同じだけ傾いて留め金に擦れつつ、低く鈍い歪音を響かせている。

ひとしきり哀しく鳴き終わったあと、傾荷重に耐えきれなくなった吊り金具が折れて、鐘が大音声を上げながら鐘楼の側壁を転がりおちた。

勢いのまま鐘は街路を転がり、泉を抱えた広場の脇路地に落ちて、ようやく止まる。
熟れ落ちた柘榴のようだった。

水面が大きく揺れる泉と、人のいない広場と、鐘の落ちた乾いた路地にまで黒い影が差して、わずかに辺りを包む炎に煽られたあと、全てを尾が踏み潰した。


咆哮。


薄曇りの空の下、巨体が街に影を落としていた。

口腔に肌寒さと生温さの入り混じった空気を丸呑みして、身を撓ませ、人々が逃げ惑う街に火焔を撒き散らす。

申し訳程度にまで退化した翼を揺らしながら、肥満体の火竜が街を包む炎を睥睨している。
身じろぎする度に、四つの脚が街を更地に変えていった。

喚ばれた理由を火竜は知らない。
ただ街の外れに現界せしめられ、『汝の威容を見せつけ、脅かせ』と契約を受けた。
それで十分だろう。

*

尖塔から街を見下ろし、火竜を見ながら思考する。
ネウガードのアグナからの話と、上陸してから得た情報、そしてわずかに感知できた往復分の転移魔術の残滓。
結論は確信的だった。

ネウガード側もここに来て手を打ち始めている。
少しでも、天秤をこちらに傾けさせてもらおう。

召喚前にカティ経由で、協力者であるフーには俺の行動を伝えた。
フーの返答は、黙認。

――思えば、俺はここで間違えたのか。



突如にして災厄級の火竜に侵攻を受け、街の多くは火竜が街に辿り着く前に避難した。
魔術の心得があるものたちが討伐を試みたが、彼らでさえ目視できるほどの強烈な魔術障壁と堅固な鱗に弾かれ、用を為さない。

肥満体の竜は足が遅く、被害者は幸運とさえ言える数に収まりそうだった。
これで良い。


君たちに恨みはない。
哀れだとさえ思う。
だが――

そう都合の良いことばかりで、生きても行けないだろう。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(21)(記録用)

2012年11月08日 01時02分05秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** ネウガード 首都ガーディヴ エリア??? ***



この子に眼を買ってくれたとき、ボスは二つだと言っていた。

だが、俺は一つしかないと思う。

*

曇り、所々に晴れ間あり。
風は南東に微弱、または無風。
湿度は48パーセント。
良好だ。

トランクケースのロックを外し、120°まで開く。中には銃床部と機関部を含む本体との二つに分解された″ドラグナッハ″。それから照準器が一つ、10発装填式の弾倉が予備もいれて三つ、機関部に装着する宝珠が二つ。弾丸が、通常弾250、儀礼弾16。

内容物を確認してから、愛機の組み立てに入る。
本体の後ろに銃床を結合し、固定。
照準器を機関部上部のスライドレールに滑り込ませ、予めつけておいた印に位置を合わせて、銃身を上下から挟み込むように固定。
宝珠ユニット二つを順に取り出し、機関部の右側に固定。隠蔽のためつや消しされたユニットで覆われているが、黄と赤の宝珠の胎動が内部から伝わってくる。

二脚を展開することも出来るが、壁際のちょうど良い位置に銃眼代わりの穴が空いているのでそちらを用いる。この空き部屋に踏み入った最初にブーツの爪先で軽く蹴ってみて、強度も確認した。問題ない。

スカートの邪魔な部分をたくし上げてから、銃を抱え込むようにうつ伏せの射撃姿勢をとる。照準器のバネ仕掛けのレンズカバーを解放。照準器と一体化された頬当てに頬を擦り合わせ、右眼で覗き込む。まだ不鮮明。

「起きろ」

律動。照準器の闇と靄が晴れ、四ブロック先の軒先に吊るされたカナリアの籠が映る。彼女は目を閉じて昼寝をしている。
ゆっくりと銃口を傾けていくと、サイトの倍率が、ユニットを撫でる俺の指先に応えて変遷してゆく。

二つの宝珠のうち、照準器の起動と駆動、弾丸の電磁加速とスタン効果の付与を司るのがいま撫でているユニット内の方。
もう一つは、引鉄を引く度に弾丸に条件発動魔術のエンチャントを施す。魔術は発射と着弾の直前に、『周囲の″壁″を焼き払う』効果を発動する。空気の壁を焼滅させて発射を無音化し、敵を守る障壁を灼き崩す。
だが、当面後者には出番がないだろう。

拡大された視界を街路に彷徨わせていると、見つけた。
軍服から所属を確認。

明け方に命じられた戦闘準備を終えて、主から次に告げられたのは昼過ぎだった。
《ネウガードの正規兵を撃って移動、を繰り返せ。殺したり殺さなかったりで良い。逃走と観察を第一に、逐一報告。撹乱しろ》

30代中盤の歩兵だった。
帯剣。魔術的防護の様子はない。
軍服の下にしなやかな筋肉が伺える。身長176cm、体重68kgといったところ。左眉に古傷。刃物ではなく、殴打された際に開いたような跡だ。
彼を見つめるだけ、視界に映る全ての動きが緩やかになっていく。緊張感がわずかににじむ横顔が、欠伸の形に移り、伸びの姿勢へ。時間が少しずつ細切れにされてゆく。徐々に薄く、薄く。

左手。頬。右腕。そして寄り添うように身体。
身を寄り添えているうちにドラグナッハと俺の境界が消えてゆく。体温が溶けて、呼吸が自然と止む。鼓動、血流、時間の流れが、そして感覚が消えて、サイトの中に、世界のすべてが静かに集まる。
標的との距離が、するりと無に落ちていく。


ボスは二つと言っていた。
でも、俺にはどちらも同じ。いつも同じ。
標的の種類は関係ない。
引鉄を引くとき、そこにはひとつの感覚しかない。

この子たちと俺がそうしているように、名も知らない歩兵の彼とも。
そう――



刹那に、世界の全てが溶ける。



気付くと引き金が落ちている。
温かな弾丸が、彼我を隔てる何もかもを笑い飛ばす。
彼のこめかみにキスをして、さよなら。


*


結果は見ることができなかった。

言葉にできない充足感と喪失感に一度に襲われて、気付くと、頬当てに一筋の熱があった。
拭いながら、

「その日のはじめては、どうしても泣いちゃうね」

恥ずかしさを笑ってごまかすように、銃(かれら)に呟く。
出番のなかった″炎″の方が、俺の頬を乾かしてくれた。


*


それは、フレッドバーンの面々がネウガードに到着した、翌日のことだった。
正体不明の狙撃手により、ネウガード領内市街区にいた同国正規兵12名が膝を撃たれて重傷、7名が頭部を貫かれて即死した。
犯行は13時過ぎ頃から現在までの一時間強の間に行われ、全て一撃だった。

被害はなおも続いている。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(20)(記録用)

2012年11月04日 00時03分26秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 幕間 思い出のどこかで ***


 この世界における狙撃とは。
 大別すれば、二つの目的しかない。


”ボス”の言葉に彼女が聞き返す。
「二つ?」
「ああ、二つきりだ」

漂着品を探して訪れたエイクスの市で、彼女は主からはぐれないよう、その裾を掴んで進んでいた。
ごった返す人々の隙間をするすると抜けていく主。彼女はその後を違わずに追っているつもりなのだが、身体や左手に抱える長物を何度もぶつけてしまう。
人混みは苦手だった。

主は彼女を気にしつつも、
「慣れろ慣れろハハ。みんなここに来たいんだからしょうがない!」
笑いながら速度を上げてさえゆく。かと思うとはたと立ち止まり、急転回してまた速度を上げる。

前を向いたまま周囲の動きを総体でつかみ、自分の進行方向をはっきりアピールしながら進むという、人混みに慣れた人間なら無意識に行なっている歩行なのだが、人混みが予測不能な障害にしか見えない彼女には、その感覚がわからない。
「こ、こはこの国の王都かどこかか? こんなに人がいると、は……」
「アグナ、これは普通の市場だ。この程度の規模なら世界に1000は下らん」
「千……!?」
驚いた拍子にまた若い男にぶつかり、転びかけて、主に手を掴まれた。
ぐいと引かれて、それから人垣の谷間が流転するように走り去っていった。その間、不思議と人にぶつかりはしなかった。

またぐいと左に引かれて、ようやく人垣ではない世界が視界に現れた。5月の陽光が通りと店の庇の下を二つの領域にくっきりと分断していて、暗順応するのに少しかかった。
世界儀や望遠鏡、羅針盤のようなものを扱う、古物商の店だった。木と金物とわずかに香油の香りのする店の奥で、猫人の老主人がパイプから紫煙を燻らせていた。

「あった」
主が奥側の棚の下段に手を突っ込み、ごそごそと動かして、それを引きずりだした。
つや消しされた、黒いいびつな双眼鏡のようなそれを店主に見せて主が尋ねる。
「ちょっと機材が合うかどうか試していいですか?」
店主が流し目を一瞬だけよこし、紫煙をゆっくり吐き出してから、鷹揚に頷く。
「アグナ。持ってきてみて」
彼女が駆け寄って、抱えていた長物の包みを解く。
店主の片眉がピクリと反応して、広げていた新聞の上に紫煙と呟きを吐き出す。
「遠当てか」

包みの中から姿を現したのは、全長1.3m弱、ビリヤードグリーンの基底部と鉄黒色の機関部が組み合わさった、いわゆる狙撃銃だった。
「異界から漂着したらしいものを手に入れて、清掃して少し手を入れて、この状態にするのに2ヶ月かかりました」
「気持ちの込もった品というわけだ。だが、お嬢ちゃんへの誕生日プレゼントにはいささか物騒じゃないかね」
「一理ありますね。もっとも本人は……」
振り返ると、すでに彼女は手早く照準器を付け終え、
「見違えたぞドラグナッハ。こうあるべくして生まれたような、勇壮たる姿だ」
名前まで付けた銃に頬ずりをしていた。
「……ご覧の通りのようで」
「嫌な世の中になったものだな」
店主の老猫人は、吐き出すように新聞を閉じた。
「言い忘れたが、そのブツは壊れていて使えんようだ。覗いても何も映らん」
「いいですよ、形と構造さえわかれば、直し様はありますから。いくらですか?」

その後も店をいくつか回ったが、結局その日の彼らの収穫は壊れた照準器だけだった。
だが、彼女はその成果に上機嫌な様子で、主と喫茶店で休憩している間も、そのどこか浮世離れした表情に満足を浮かべていた。
彼女は果肉が入った果実のジュースが好きで、主はそれを選んで買い与えていた。

「そういえば、ボス。2つとは何と何だ?」
アグナは来たときの話の続きを求めていた。
「ああ、それか。一つは要人の暗殺。ナイフや魔法でやるよりその後逃げやすく足がつきにくい」
主はカスタードプディングにスプーンを差し入れながら答える。
「もう一つは強者への奇襲。戦闘状態に入る前なら、実力差があっても音速の弾丸で倒せる可能性がある」
「銃の戦闘用途という話だな。そういえば前にも聞いた気がする」
「そうだよ」

主は上品な所作で口元を拭い、
「ただ、その可能性というのも高くはないのが実情だ。高い察知、直観または反応スキルが相手にあればダメ。強力な魔術障壁を常時展開する相手にもダメ。身体的防御力の高い相手にもダメ。再生能力の高い相手や攻撃の無効化が出来る相手にもダメ」
「ダメばかりではないか」
「ばかりなのだな。怪物の跋扈する戦場では、魔術的支援のない兵器には雑魚散らしかテンポアドバンテージを取るくらいの意味しかない」
それでも十分だがな、という呟きは彼女の耳には入っていないようで、蜜柑の果肉をフォークでつつきながら、渋い表情を浮かべている。
「……だから、もうちっと色々つけてあげないとな。お前の相棒に」
少女の褐色の顔が花開き、
「いいぞボス! 何をつけるんだボス!? 障壁破壊砲がいいな! それから一発目でもし相手が生き残っても全身マヒさせれば次弾で倒せる! そういうのつけようボス!」
「いや、それは無理だろ……」


*


後日。
ついた。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(19)(記録用)

2012年11月03日 12時22分08秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** フレッドバーン南部 港 ***

鬼面との交渉が終わり、フレッドバーンに上陸できたのは、翌朝、暁頃のことだった。
砦での人質の引き渡し、そしてカムリアでの会談が終了し、この戦争の全てがネウガード東端へと、その最初の切っ先を向けていた。

フレッドバーンに上陸するのは、6月に非公式なルートで入って以来、数ヶ月しか経っていないはずだが、

……これは、確かに″ぜんふちがう″な……。

夜気も去り切らぬ時刻ではあったが、既に目覚めを済ませた港街の景色は、俺の眉根を動かすに十分なものだった。
極北の島国は、全く別の国になっていた。資源に乏しく、人が暮らしゆくにはあまりに厳しく、お世辞にも繁栄という言葉と縁ありとは言えなかったあの凍島が、今やその言葉の片鱗を鮮やかに示し始めていた。

ネバーランド解放軍。
非国家の国家。
盟約外の領域。
その深雪を纏う土の上に、開花のための陽射しを夢見る経済と、芽吹くときを待つ文化と、頬を温かな色に染めて働く人々が息づいていた。

世界を眼差す意思たちが混線した隙間で。
こんなものが、ここまでの域に至るまで、誰の目にも止まらずにいたというのか。





駄目だろう、これは。





*

腰の後ろから儀式用の短剣を引き抜きつつ、俺は港を抜けて、中心街へと歩を進めていく。

ネウガード周辺の斥候役と、サンライオの屋敷を預ける留守役、使い魔を二体同時に呼ぶ。
返答。
《現在地はネウガード・ガーディヴエリア13、安宿の3階。ーー用件を、ボス》
《おはようございます、御館様。昨夜は冷えましたが、御変わりございませんか》

《《戦闘予定が入った。準備してくれ》》

即座に返答と詳細確認が二通ずつ。
それぞれに指示を出しながら、再度必要な情報の確認を始める。


選択肢は、二つある。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(18)(記録用)

2012年10月31日 01時10分18秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** ネウガード国境付近 最前線の砦 ***


静かな夜が、また帰ってきた。

エルフィンティアは捕虜たちを引き連れて砦を去った。
Gの命令で地雷を設置する屍兵たちの蠢く音と、ビッグの部屋からときおり聞こえる、怪しげな叫び声は依然として響いていたが、それでも、カティはその夜の静けさを沁みこむように感じていた。嵐の前の静けさというものなのだろうかと、そんなことを思った。

人質の身代金交渉も終わったいま、砦の中ではすべき仕事も多くなかった。
今ここにいるのは、己の力のみで地に立つ者たち、使用人や侍従などとは縁遠い、法の外の住人たちばかりだ。
彼の主も限りなくそれに近い人種ではあるが、主には、彼ら使い魔たちのために、自身で出来ることを敢えて任せている節があった。


手持ち無沙汰のあいだ、彼は砦の窓からじっと、屍兵たちがわらわらと働く様を眺めていた。
焦点は彼らではなく、網膜に焼き付いた将星たちに合わせられている。

ギルヴィッド。ビッグ。ファウスト。エルフィンティア。そしてヘルメスの騎士たち。
砦周りで目にしただけでも、これだけ。
そして、それ以前にまみえた数えきれない英雄とそれ以外の人々。

彼らに自らが心惹かれるのは、自身の性質ゆえだろうかと彼は自問する。
演じるための役として、再現するための駒として?
どこか、違うような気がする。


《カティ、いるか》
頭の中に直接響く主の声に、思考は闇に紛れていった。
《おります。ご主人様》
《フーの小剣を通じて打ち合わせた通り、じきにカムリアでの三国会談に入る。地下室は空いたか?》
《はい。予定通り人質は解放され、エルフィンティア様に率いられて帰投しました》
《よろしい。三代目への変身は行けるな?》
《はい。最近拝見したばかりです。問題ありません》
《会談がどうなるかは正直読めんが、お前の能力は完璧だ。何があっても落ち度は俺にある。気負わなくていい。――楽しめ》



そして、一人きりの地下室で、彼の舞台が幕を開けた。
文字通りの役者不足を仮面の内に潜ませたまま、カムリアとの三国会談がはじまったのだった。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(17)(記録用)

2012年10月30日 23時23分16秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 護森兵団デアヴァルト 参謀室内 (思考は海賊船内のシュアリー)***

「あー、ハーティーさんハーティーさん、黙って見てないで何か言ってくれても良いじゃない。
 彼は人畜無害な小市民だー、とかさー。顔見知りが大変な事になっちゃうよ?」

大変なことになっても構わない、むしろ、不確定要素は潰しておきたいが……と、俺が考えていたところで、

「いいだろう、特赦も報酬も望む地位もやろう」
水月姫が、彼の運命を決めた。
「特赦に加え、フー殿の護衛を受けるなら中に入れてやる」

フーがその提案を受け入れるかどうかはともかく、こちらとしては厄介な展開となってしまった。ここでフーの動きを妙に縛られたり、情報の漏れ穴が出来てしまうのは、よろしくない。
煽動した多国籍勢力、砦のヴァニティア組、そして首謀者の動きをもし第三勢力に売られることになったら。

始末すべきだ、と頭の底冷えする部分が断言する。
だが。


『私の友人であってもなくても、ここはデアヴァルト様の治める地ですから。そこで失礼を働いた以上、私は口出しできません。ごめんなさい』

申し訳なさそうに、”ハーティー”は告げた。
ひとまず、このあたりだろう。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(16)(記録用)

2012年10月29日 03時30分08秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** 護森兵団デアヴァルト 参謀室内 ***

「ハーティー殿、先程の部下の失言私の方から謝罪させていただきます
どうかお忘れ下さいませ」


*




*** 公海上 海賊船内***

失言……部下?
《カティ、間違いはないのか? 青い髪の方が自らを上司だと?》
《はい、ご主人様。先程からのやりとりでも、デアヴァルトの代表は青い髪の水月姫という女性で間違いありません。リュキアールと呼ばれているダークエルフの女性は、その部下です》
なんだそれは。
俺の、誤解……?
いや、そんなはずはない。そんなものを間違えるか! 馬鹿馬鹿しい!
”デアヴァルトの主はリュキアール・シ=ヴィトでしかありえない”。

手段の間接性がもどかしい。せめてこの目で見ることさえ出来ていれば。
ただでさえ慎重を期さねばならなかった同盟交渉にこんな状況で臨んだのが間違いだった?

……フーに、ハメられた?

感情を黒い疑念が包み込もうとする――が抑える。
自らを何か得体のしれない流れに翻弄される弱者だと措定しても、辿り着けるものなどない。この世界に理不尽などあった試しはない。全ては。そう全ては。
フーに俺を嵌めて何の利益があるだろうか?
ない。
接触したのは俺の方からだからだ。よしんばそれがあれども、それは後から俎上にたまたま登ったような、副次的な話を超えないと見るのが妥当だ。
材料が足りない。
思考のための手掛かり、飛翔のための足掛かりが。
何かないのか、何か、見落とし、思い違い、ここまでの会話に眠ったままのヒント、欠け落ちている情報、記憶の欠落、何か、何か、何か何か何か何か何か何か何か何か、この世界を一筆で塗り替える何か……!



赤熱する脳に、
《坊や、アンタのご主人様が、もう一つって》
雪解けよりも冷たい声が響き、




《伝えるわよ。――”ぜんぶちがう”》




俺に天使を連れてきた。



矢のような一言に射抜かれるように理解を導かれ、
俺はその結論が可笑しくて、笑い声を堪えることが出来なかった。

《おいキィエ俺の飼い主様にすぐ伝えろ。『嗚呼月の姫君よ。貴女はやはり素晴らしい』》
《……頭湧いてんの? やだ、うつさないでよ》

なるほどな。
なるほどな。
わかったわかったとてもよくわかった。

じゃあ俺の”ハーティー”も、「本物」である必要などなかったわけだ。


*



*** 護森兵団デアヴァルト 参謀室内 ***


そして。

『傀儡』が狂狂(くるくる)と楽しそうに語るあいだも。
参謀本部を盗み見るような間抜けが死にかけるあいだも。

”ハーティー”は幻映のなかで、穏やかにそれを見ていた。