*** フレッドバーン 港最寄りの街 ***
このまま屋内に留まるのが射線を防げそうだが、それでは火竜を仕留めた攻撃で建物ごと潰される。隣接の建物に飛び込んだ勢いのまま屋内を疾走し――
だがあの一撃がない……何故だ?
それだけではない。敵の挙動が時折おかしい。
知覚、分析、照合、思考……試してみる価値はある。普段なら一旦停止だが、
――そのままルーフバルコニーとなった位置へ飛び出る。
そこで次撃が来る。予想は当たりか!? 再度周囲を取り囲む槍の群れ。だがこれはもう三度見た、種は割れて――
と、更に短剣の多重生成。
――なんッッッ!?
相殺無効化障壁デコイ対消滅緊急回避ぜんぶ間に合わん!!
《御館様っ!!》
轟音。
*
銀の積層甲冑に身を包んだ巨体が、雛を守る親鳥のように俺の盾になっていた。
大円盾と柱じみたハルバードを手に屈み込んだ二足の獣騎が、
「御館様、御館様、ああ、お怪我ヲ、なんというこト、ああ、私ガ……」
野太い声で狼狽えていた。
「……落ち、着け……」
瞬間に選んだのは使い魔の召喚だった。屋敷で戦闘準備させていた一騎。
敵の包囲攻撃はあらかた獣騎が防いでくれたが、それでも数条のダガーが腹と手足に突き刺さっている。凡百のパッケージ魔術とは比べ物にならない、俺にとって最も厄介な組み立てだった。
判断時間がない、付与効果を警戒してとにかく全て無効化。刃は砂鉄へざらりと溶ける。
「御館様がここまデ……馬鹿な……」
甲冑中に槍を生やした獣騎が、はたと気付く。
「今出ている”私達”ハ――」
「……”5”だ」
「何故!? それでは到底……!」
「聞け。いいから聞け。今は誰一人引けん。そして俺には今しかない。……それに相手も似たような条件だ」
やっとそれがわかった。それでなお圧されている。だから、
「お前が必要だ」
*
追撃を狙うタイミングで生き残った追尾弾が襲来し、わずかに緋河流の手が遅れた。
「答えろ!お前が敵視しているのはこの国か、それとも僕か?解放軍か!それ次第では火竜を呼んだ行為の正当性が異なると知り、散れ」
ここからは、出し惜しみは無しだ。
残り僅かな魔力を無理矢理蹴り立てて発火させていく。
しゃべると腹に最悪に響くが、もう知らん。やせ我慢だ。いけ。
「……貴方の部下を避難させていった先程の二人、お強かったですね。
あの火竜に手傷を負わせただけで、なかなかの手練だ。
――――さすがは”ネバーランド解放軍”の方々。”自分で名乗った”だけはある」
脳裏で組み上げる。かたちのない何かを疾駆させる。
「『この国か、僕か、解放軍か』。……なんですか、それ。貴方がたが勝手に言っているだけでしょう。”我々”のどこに、貴方がたの内輪の話に配慮する筋合いが?」
精神の相転移。魂の伽藍に熱を放つ何かが満ちていく。
「占領直後から軍備拡張に走らなかったことが奏功し、これまで上手く切り抜けてきた。数ヶ月でこの発展、卓越した手腕だ。賛辞に値する。
が、よくよく見れば……要するに、反社会的勢力の養成地でしょう、ここ。テロリストの尖兵を生むコミュニティが、いつまで”我々”に放置してもらえると思っていたのですか?」
滾る。
「無関係なフレッドバーン民? 無辜の民などこの世界にいやしなければ、……そもそも藪蛇突ついて引き込んだのは、貴方自身だ」
獣騎が俺を母親のように防衛している。
「王とは、代表であり象徴。『あれは私がやっただけでみんなとは関係ありません』、そんな台詞が、王たる者に許されると?」
支配、観測、改竄、励起。
「民を背負わぬ王も。王を背負わぬ民も。この場所にある何もかもが不愉快だ。”我々”が積み上げた全てを愚弄している」
引鉄が上がり、そして。
「味方と、そして敵と。規律と誓約に則り戦うすべての人々との誓いを私は果たす。
――いま。ここで。告げる。
『外なる敵』よ。お前達を排撃する」
発動、『空が落ちる』。
言語による場の改竄。束の間のルールが世界に浸潤してゆく。
槍、ダガー、魔力弾……宙駆ける全てが力をもがれ、墜落する。
翼が無効化されて着地した緋河流へ、
「――突撃(Charge)」
主命のまま、獣騎が吶喊した。
このまま屋内に留まるのが射線を防げそうだが、それでは火竜を仕留めた攻撃で建物ごと潰される。隣接の建物に飛び込んだ勢いのまま屋内を疾走し――
だがあの一撃がない……何故だ?
それだけではない。敵の挙動が時折おかしい。
知覚、分析、照合、思考……試してみる価値はある。普段なら一旦停止だが、
――そのままルーフバルコニーとなった位置へ飛び出る。
そこで次撃が来る。予想は当たりか!? 再度周囲を取り囲む槍の群れ。だがこれはもう三度見た、種は割れて――
と、更に短剣の多重生成。
――なんッッッ!?
相殺無効化障壁デコイ対消滅緊急回避ぜんぶ間に合わん!!
《御館様っ!!》
轟音。
*
銀の積層甲冑に身を包んだ巨体が、雛を守る親鳥のように俺の盾になっていた。
大円盾と柱じみたハルバードを手に屈み込んだ二足の獣騎が、
「御館様、御館様、ああ、お怪我ヲ、なんというこト、ああ、私ガ……」
野太い声で狼狽えていた。
「……落ち、着け……」
瞬間に選んだのは使い魔の召喚だった。屋敷で戦闘準備させていた一騎。
敵の包囲攻撃はあらかた獣騎が防いでくれたが、それでも数条のダガーが腹と手足に突き刺さっている。凡百のパッケージ魔術とは比べ物にならない、俺にとって最も厄介な組み立てだった。
判断時間がない、付与効果を警戒してとにかく全て無効化。刃は砂鉄へざらりと溶ける。
「御館様がここまデ……馬鹿な……」
甲冑中に槍を生やした獣騎が、はたと気付く。
「今出ている”私達”ハ――」
「……”5”だ」
「何故!? それでは到底……!」
「聞け。いいから聞け。今は誰一人引けん。そして俺には今しかない。……それに相手も似たような条件だ」
やっとそれがわかった。それでなお圧されている。だから、
「お前が必要だ」
*
追撃を狙うタイミングで生き残った追尾弾が襲来し、わずかに緋河流の手が遅れた。
「答えろ!お前が敵視しているのはこの国か、それとも僕か?解放軍か!それ次第では火竜を呼んだ行為の正当性が異なると知り、散れ」
ここからは、出し惜しみは無しだ。
残り僅かな魔力を無理矢理蹴り立てて発火させていく。
しゃべると腹に最悪に響くが、もう知らん。やせ我慢だ。いけ。
「……貴方の部下を避難させていった先程の二人、お強かったですね。
あの火竜に手傷を負わせただけで、なかなかの手練だ。
――――さすがは”ネバーランド解放軍”の方々。”自分で名乗った”だけはある」
脳裏で組み上げる。かたちのない何かを疾駆させる。
「『この国か、僕か、解放軍か』。……なんですか、それ。貴方がたが勝手に言っているだけでしょう。”我々”のどこに、貴方がたの内輪の話に配慮する筋合いが?」
精神の相転移。魂の伽藍に熱を放つ何かが満ちていく。
「占領直後から軍備拡張に走らなかったことが奏功し、これまで上手く切り抜けてきた。数ヶ月でこの発展、卓越した手腕だ。賛辞に値する。
が、よくよく見れば……要するに、反社会的勢力の養成地でしょう、ここ。テロリストの尖兵を生むコミュニティが、いつまで”我々”に放置してもらえると思っていたのですか?」
滾る。
「無関係なフレッドバーン民? 無辜の民などこの世界にいやしなければ、……そもそも藪蛇突ついて引き込んだのは、貴方自身だ」
獣騎が俺を母親のように防衛している。
「王とは、代表であり象徴。『あれは私がやっただけでみんなとは関係ありません』、そんな台詞が、王たる者に許されると?」
支配、観測、改竄、励起。
「民を背負わぬ王も。王を背負わぬ民も。この場所にある何もかもが不愉快だ。”我々”が積み上げた全てを愚弄している」
引鉄が上がり、そして。
「味方と、そして敵と。規律と誓約に則り戦うすべての人々との誓いを私は果たす。
――いま。ここで。告げる。
『外なる敵』よ。お前達を排撃する」
発動、『空が落ちる』。
言語による場の改竄。束の間のルールが世界に浸潤してゆく。
槍、ダガー、魔力弾……宙駆ける全てが力をもがれ、墜落する。
翼が無効化されて着地した緋河流へ、
「――突撃(Charge)」
主命のまま、獣騎が吶喊した。