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首領日記。

思い出の味はいつもほろ苦く、そして甘い

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(35)(記録用)

2012年11月26日 02時17分47秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** ナハリ 港町ニハレス・ニハレス城 裏庭 ***


ごん。ごん。ごん。
「うおお! 俺は! 何故! あんな余計な一言を! 余計な! ひとことを! 俺ごときが! うおお!」ごん。
「ちょっ、何やってんのカール!?」
「マリーか。マリー、俺たちの筋とはなんだ、主人に余計な一言を進言することではないはずだ、そうだな?」
「何言ってるかまったくわからないけど、少なくとも裏庭で壁に頭突きすることじゃないわよね……。血出てるわよ。病気? 心のやつ? お暇もらう?」
「しれっと俺を辞めさせようとするのは止めろ」

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(34)(記録用)

2012年11月25日 01時20分57秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** ネウガード国境付近 最前線 ギルヴィッド占拠の砦 ***
(夜 三者会談)


フーは親指で首をかき斬る仕草をし、
「逆に、チャンスでしょう?」
歪に笑った。

カティは、つと表情を消して、
「申し訳ございません、フー様。少々お待ち下さい」
元の声で告げ、目を閉じた。


*


"収穫"。
"収穫"と来たか。

「ふふ……はは」

げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら。


*


やや間があいて、
「――お待たせ致しました。大変失礼致しました」
カティが目を開き、主の声で口を開く。


「そのお話、乗れませんね」


カティは右手を腰に、左手を掲げ、指を立てる。
「一つ目。他正面作戦ではなく、敵とその同盟軍です。彼我の戦力と、何よりネウガードの内情を見るに、いまは我々が圧倒的優勢にある。簒奪されて間もないフレッドバーンは、貴女の仰る通り軍備拡大も後回しとしている。弱軍です。灰色の勢力として動き回られるより、はっきりと敵に回したほうがマシでしょう」

中指が立つ。
「二つ目。貴女の仰る解放軍資金の社会財への変換、事実とすれば、なおさら放置はできません。それはつまり、解放軍の住民に対する融和政策にほかならない。
私が彼らの立場なら、延々と孤立政策と経済的発展を維持し、ときおりネウガードのような溺れる者に藁を差し出すことで外交的な足固めをしていく。途上で征伐の手が入れば、「解放軍はここまで善政を敷いてきたのに」と叫んで逃げる。いずれにしても勢力拡大。めでたしめでたしです」

よしんば果実が実ったとしても、それは。
「あの地に実るのは、穢れた水で育った毒林檎のようなもの。食えたものではありません」
世界の全てを焼き尽くすと宣言した、その鬼の血を啜って生まれ育つ――それでは、フレッドバーンの民が原罪を背負うことになる。謂れ無き穢れを生得した、鬼子の民が誕生する。そのことが根本的に理解されていない。
「だからこそ、出来るだけ自らの手をかけずに、"みんな"の義務にしてしまうべきなのですよ」

だから。

「そのお話、乗れません。……そのままではね」


そして、カティの口から4つの条件が提示された。
1。フレッドバーンとの交渉で提示する材料には、現在『凍鉄の牙』が得るべきとされている利益を一切含めないこと。
2。同盟にせよ密約にせよ、フレッドバーンとの交渉には現在の三国同盟および『凍鉄の牙』とは無関係の位置で望むこと。
3。交渉開始時点からネウガードとの終戦または停戦まで、フレッドバーンに依拠する全勢力は、ネウガードとフレッドバーンの二領域以外の地に足を踏み入れないこと。

最後に、
「四つ目。今後も我々は、フレッドバーンを正規の国家として認めない。
……そのうち住民たちも気付くでしょう。ああして理不尽な暴力を受けても、この『クニ』は公式な場で被害と賠償を主張することさえできないのだ、と」

だったらどうする?
さあ、そろそろ気付け。起きろ。
そして義務を果たすか、さもなくば鉄火場を去るがいい。無辜な民の諸君。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(33)(記録用)

2012年11月25日 01時01分33秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの

*** ナハリ 港町ニハレス・ニハレス城 ***


オレンジの光が視界に入って、一瞬まだ灯台の屋根の上にいるのかと錯覚した。
見ていたのは白い天井だった。朝……いや、夕方か。

身を起こそうとして、身体がだるくて止めた。息を吸い込んで、吐く。痛みは少し残っているが、傷は塞がっているようだ。
ふわ、と軽い何かが動く気配を感じて視線を下げると、夕日を背に、まどろみの残る琥珀色の視線がベッドの脇からこちらを見ていた。

ああ、しまった。
着地時は慌てていて気が付かなかった。
俺は彼女のもとに跳ぶつもりではなかった。跳んではいけなかったのに。

「おはよう、シュアリー様。お身体、どんな感じ?」
今だけは聞きたくなかった声が聞こえる。

嗚呼。
しまった……。


ナハリに彼女がいるということは、ここはニハレス城か。
「……ヘルハンにいてって言ったでしょう。困ったなあ」
ルナリアはばつが悪そうな声で、
「だってえーと……ニハ城の落ち葉がすごいことになってて」
「今そういう状況じゃ――」
「ルナの大事なものは、いまこっちにあるの」
逆光にも関わらず、彼女の金無垢の眼が艶やかによく映えた。

「……今ここは危険だ。分からない君じゃないだろう、頼むからヘルハンに戻ってくれないか」
「ルナにも役目があるの。この戦争は……この世界は、やっぱり変。ヘルハンには情報が必要なの」
いかんこれあれだ。どうやっても陥落させられるパターンだ。
周りにちらっと視線を送るが、求める姿はどこにもない。くそ、キィエの役立たずめ!

「気持ちは理解してあげたい……でも、もうキィエだけでは守り切れない。俺が居てもかえって危険が増す」
「それは、フレバのこと?」
もう、わかってるのか。
「……ルナちゃ。しばらくお別れだ。俺は今ここにいない方がいい」
俺は意を決して身体を起こそうとして、
「いっしょに居なかったら安心なの?」
その言葉に動きが止まった。

ルナリアは不思議そうに首を傾げている。
「シュアリー様、顔か名前だけでも掴まれたら最後だよ。自分の派手な経歴忘れてるでしょ、ちょっと調べたら凍牙のこともヘルハンのことも分かる」
銀青の髪に夕日が透けて、ささめくように流れている。
彼女が立ち上がって、起きかけたまま固まった俺の額を押し戻す。
「8月にヘルハンプールを強襲した凍牙三傑の一人が、今はレオプール伯爵家預かりになってるのは、公国民なら知ってる」
指が流れて、くしゃくしゃと俺の髪を撫でる。
「灯台からここまでは後を追えないように移動したけど、ニハレスにルナが住んでるのもみんな知ってる。調べれば、いつかは行き着くよ」
諭すような口調だった。
俺は。

「……すまない。巻き込むつもりはなかった」
「違う」
彼女の表情は翳りで見えなかった。
「そうじゃない。きっかけがシュアリー様だっただけ」
金の瞳だけが爛々と輝いていた。

「シュアリー様、覚えてない? ルナたちの8月では、フレッドバーンは一度王位を簒奪したんだけど……最後は朝廷に倒された。今ここが、それとは違う『何時か何処か』だとしても」
夕陽の最後の炎が部屋を灼き、
「やっぱり結末は同じだよ。いつ、どうやっては変わっても、ヴォル様が放っておくはずがない。そしたらヘルハンも」

そして。
「――『私』も、やっぱりいつか、同じ場所に来ていた」
"夜"が、来た。


「あなたは言った。『いまの意思も、これから冒すすべても、正しい、認められていいはずだと思うこと……それは何か、間違ってる気がする』」
彼女の瞳が鮮やかな朱金に輝いていく。もう視線を逸らすことができない。

「あなたは正しい。あなたは間違えている。正しいと思う道を進むために、あなたはまた一つ、何かを冒す」
8月の夜の記憶が再燃する。昏い潮に呑み込まれるように、精神が柔らかな指で鷲掴みにされている。

「シュアリー」
月姫の声が俺を呼ぶ。
「わたしの目を見なさい。わたしの声を聴きなさい」

彼女の指が俺の頬に触れて、
「宵闇を歩く者、彷徨う夜の嵐よ。あなたが荒れ野を征くときも、雲が光を閉ざす日も……月(わたし)は、此処にいる」
微かに、血の匂いがした。


*


そのあと侍女の一人が夕食を運んできたが、二人とも食欲がなく、俺は青葉とほぐした鶏肉の粥とスープ、彼女はスープだけを受け取った。

食事のあいだ、ニハレス城のことやキィエのこと、レオ家の使用人たちのこと、他愛もないことを話して、やはり彼女がいつものルナリアに戻っていることを確認した。
自分自身でも、いまだにこの主従関係のことはよくわからない。
食事のあと、また俺は眠りに落ちた。


*


「カール、これをヘルハンに」
銀髪の執事補が恭しく礼をしてルナリアから手紙を受け取り、退出する。
ルナリアは傍らに猫科の姿がないことを確認して溜め息をつき、やがて、物思いに耽るうちにソファの上で寝息を立て始めた。


*


「起きなさい」
硬質の声に呼ばれて、俺の目が覚める。
辺りは夜闇に落ちて、備え付けの壁灯だけが、柔らかな暖色で部屋の中を照らしていた。

「よお、久しぶり」
「半日前に私が言ったわよ、それ」
半目の無表情が俺を見下ろしていた。癖のある黒髪の下で、金の瞳が揺らめいている。
後ろにはソファで寝息を立てるルナリアの姿があった。その上にブランケットが多少雑に掛かっている。

「ヒマすぎて死ぬかと思った。私の出番は一体いつなのかしら」
「俺は来ないことを祈ってるよ」
「甲冑と私の配役は逆だったんじゃない?」
「俺の飼い主様に逃げ足がないと困る。それに、お前は彼女のお気に入りだからな」
はあ、とキィエが溜め息を落とす。
「どいつもこいつも、役立たずばかりね」

言いながら彼女が無造作に放ったものが、俺の胸の上に落ちた。赤い装飾具。これは。
「飽きたからあげるわ」
待て。そもそも俺のだろうが。
「補助輪取るにはまだ早かったのよ。坊や」
キィエが不敵に笑う。
「……それで? この後は?」
「ああ」

腹は決まったよ。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(32)(記録用)

2012年11月22日 00時26分51秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** ナハリ 港町ニハレス・ニハレス城 ***

(レオプール伯爵家侍女 マリー)


ドアの隙間からそっと部屋をのぞくと、あの男の眠るベッドの端で、お嬢様がお休みになられていた。脇にはあのケダモノ。
今更にこみ上げてくる忌々しさを自覚しながら、お風邪を召されないようにと、私はお嬢様のためのブランケットを取りに別室へ向かう。

私たちは普段、ヘルハンプール・レオプール伯爵邸で、その些事一切を任されている。この時期にナハリの地にいるのは、年に四度の大清掃の時期だったから。お嬢様は、伯爵家と縁深いナハリ・ニハレスパーティの居城に、友人として間借りをされている。ニハレス党の瀟洒な御方々は使用人らを置くことを好まず、それならば間借りの礼にと、お嬢様が提案されたのだった。

よりにもよってこの時期に落ちてくるというのが、あの男の悪運なのだろうか。

普段レオプールではシフトによる勤務なのだが、この大清掃の時期に限っては、伯爵邸に屋敷を管理する最低限の人手を配置し、残りはすべてこのニハレスに同道することとなっていた。
この大清掃は、私たち使用人たちの小旅行も兼ねているのだ。職務から解放されるわけではないが、風光明媚の季節に観光地として名高いニハレスに移動することで、私たちの慰労も兼ねようと。お嬢様らしい、細やかな心配りによるもの。

そこに、何故かあの男が、重体となって担ぎ込まれた。
酷い傷だったが、私たち伯爵家のものがたまたまフルメンバーに近い構成で揃っていたことで、一命は取り留め、傷も残らぬ処置となった。
悪運が強すぎる。

その悪運で、あの男はいったい何を起こそうとしているの?

廊下の窓硝子に私の眉間のしわが映っていても、やめられない。
ルナリア様のあの姿を見たとき、私の心臓まで死神につかまれたかと思った。思い返すだけで、いまでも、息が、苦しい。お嬢様のあんな、あんな姿――

「マリー。何をしている」
はっとして顔を上げる。いつの間にか立ち止まってしまっていたらしい。
深い声の主は、私と同じ年頃、長身に銀髪を短く切りそろえた執事補のカールだった。
「油を売っている暇があるなら働け」
「……うるさい。言われなくても」
かぶりを振り、横を通り過ぎようとして、前を塞がれる。
「顔色が悪いようだな。何かあったか」
何か?
「……何かですって? ええありましたよ! カールあんた、あのお嬢様を見て何とも思わないの!?」
「シュアリー様がご心配なのだろう。察するに余りある」
違う、そもそも。
「何なのよ、あの男……! 昔武功を上げた公国軍人だったことくらい私だって知ってるわ! でも――」
一度堰を切った言葉は止まらなかった。
「でも、最後は公務から逃げ出した脱走兵じゃない……。挙句に手配犯にまで成り下がって、いつの間にかヴォルフ様の横に落ち着いて、王位簒奪? それからへルハンを襲撃して、気付いたらいつの間にかお嬢様の近くに……。もうわけがわからないわよ!」
息が上がっていた。

カールは私が落ち着くのを待ってから、
「お前の理解など、伯爵家にとってはどうでも良いことだ。くだらぬ私情を挟んでいる暇があるなら、奉公に努めろ」
切って、捨てる。
分かっている。彼が正しい。頭では分かっている。

「そうね、あんたの言う通りよ。……わかったからもうどいて。ブランケットがいるの。お嬢様に」
目を合わせられない私を、カールが見下ろしていた。
彼はふいに指を鳴らし、
「……シーズ。いるな。お嬢様にブランケットを」
廊下の後方から、侍女が去っていく音。いたのか。そんなことも気付かなかった。
「マリー。少し顔を貸せ。これは命令だ」

*

カールは私を裏庭に連れ出した。お嬢様の好きな、小さな泉のある庭だった。
「……ねえ、こんな場所で何の用? 私忙しいんだけど」

彼の背中を見ていると、不意にカールが脱ぎはじめた。
「ちょっ、やだ、あんた何す――」
「見ろ」
タイを外し、シャツを半ばまで開けてずらして――肩から背にかけて、傷跡があった。
「俺が伯爵家への奉公に就いたのは7年前だ。お前は俺より古株のはずだが、その経緯は知るまい」
彼は私が傷を見たのを確認すると、すぐにそれをしまった。
「戦争で痛めて、使い物にならなくなった。もはや棒も振れぬ俺を、お嬢様に拾って頂いたのだ。俺は公国軍にいた。26のときだ」
タイを締めながら、彼が続ける。
「この身は全てあの方のためにある。……マリー。疑うな。お嬢様が決めたことを疑うな」
全く理屈になっていない……のに、反論もできなかった。

待って。……7年前?
「あんた、あのおと……シュアリー様と同時期に軍にいたの?」
やっと頭が回ってきたか、と彼は呟いて、

「いたとも。いた。俺の所属は、公国軍第二兵団第四歩兵大隊。宮廷魔術師団長カーナ・アスティ・アストラル様の肝入を受け抜擢された若き兵団長、当時弱冠19歳の、あの方の部下だった」

カールがこちらを振り向く。いつもと変わらぬ、鉄面皮。だが。
「はっきり言おう。その時点で既に、あの方の力量は異常だった。就任当初に19のガキがと不平を漏らしていた歴戦の戦士たちが、演習一つ終わる頃には誰ひとり情けない口を聞けなくなっていた。俺もその末席の一人だ。
恥を承知で言えば、傷を受けて戦場を去った時、内心俺は安堵していた。
あんな化け物どもと同じ場所に立てるはずがない、と。

――7年だ。それから。
8月の戴冠の日の前夜、お前はあの巨獣を見たか?
あれは、あの方一人の仕業だったそうだ」


は?


いや、おかしいだろう。ならば何故……
「そうだ。その怪物が、ありえないことにここまで痛めつけられている。
……事態はもはや、我々の矮小な感情など、及びもつかぬ場所に来ている」

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(31)(記録用)

2012年11月21日 03時13分19秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** ネウガード国境付近 最前線 ギルヴィッド占拠の砦 ***

「さて……少年、君の主に繋ぎ給え。私は短剣でフー殿に繋ぐ」
わかりましたと応え、カティが俺に呼びかける。
《ご主人様。始まります》
《ああ、いつもの通りに頼む》
《はい。……お体は、いかがですか?》
《ありがとう。問題ない》

それからギルヴィッドが語った案は、トータスブルグの経済を連合軍側が掌握することで、主導権を握るという策だった。
流石だ。抜け目がない。
トータスブルグとの協力関係は、ルネージュとの同盟に拠るもの。だが、勢力配置を考えればトータスは最前線かつ、同盟国とはいえ他国軍の国内駐留を許すというリスクを抱えているのに、彼らの取り分が見えない。単なる同盟関係だけで縛っておくには、重すぎる配役だ。そのタネがフーの手の中にあるとしても、"彼女ひとりにそれを委ねて良いものか?”
否だ。
我々は、そして俺は表裏の動きで緻密に足元を固めつつ進んできた。穴は、塞がなければ。

彼女の目的を俺は知らない。だが俺は、そして凍牙とデア・ヴァルト、ルネージュ、トータスも、この戦争に勝てば終わり、ではない。国々は歩み続け、世界は続いていく。その中にしか俺の目的の成就もない。
いまここもまた、ひとつの通過点に過ぎない。

「……以上だ。後は砦奪還に正規軍が向かって来るのは、後数日という所だろう。この砦の防衛に関しては、少年に情報を纏めさせてあるので聞いて頂こう。そこそこ使えそうな武将、用兵家、魔道士も手に入ったとはいえ、我々だけで追い返すのは不可能だ。そちらの足並みも揃えて頂こう」

「では、僭越ながら――」
カティに砦の防衛状況を交信でも同時に語らせ、ネウガード東部砦の現状を再度確認する。気になるのは対空防備の薄さと敵のアンデッド対策、そして、
「――この砦を敵側が最初から捨てる気になれば、砦ごと大規模攻撃を受ける可能性があります。我が主によれば、少なくとも一人、それが可能な相手がネウガード側についた、と」

カティの声が、俺のそれに変わる。
「フレッドバーンはネウガードについたと見て、間違いありません」
それからカティが俺の伝えた通りに語る。彼は万全の俺の声を模写している。怪我を悟られないのはありがたかった。

「フレッドバーンへの威力偵察により、フレッドバーン国内での勢力図が判明しました。正規軍、国王鳴雨緋河流の私兵軍、そしてNL解放軍です。
この区分自体は外交上無視してよいのですが、言うまでもなくNL解放軍の存在が大問題。これまでも非正規国家として国際社会で危うい位置にあった彼の国ですが、反体制勢力を国内で半公認状態で潜伏させている現状は、国際社会に対する重大な違背です」
俺も、そしてGさんも、退けぬ一線を、有るべき誓いを、代えの利かぬ矜持を抱えてあの戦場にいたのだ。
あの失意と切望の燃える丘に。

「『テロリスト排除に関する国際条約類』への重大な違反、また『呪竜召喚含む禁呪の使用制限に関する国際条約類』『捕虜の扱いに関する国際条約』『犯罪者の扱いと引渡しに関する国際条約』etc.の批准における疑義から、フレッドバーンを外交上の対等な交渉相手と見るべきかという問題がまず存在します」
見るべきではないという結論が、既に内心では固まっている。
反体制を内に抱えた国家など、既存国家に認められるはずもない。

「これまでは旗振り役がおらず、半黙認状態だったこの問題ですが、フレッドバーンがネウガード側についたこと――つまり国際社会の表舞台に登場したことで、もはや無視できない問題となりました。ここで態度表明を行わなければ、翻って我々、攻撃側連合各国の脛に傷がつくことになる」
そう、正当性。
我々が今後も動き続けていくためには、それがなければ。

「――結論。
連合国の連名で、フレッドバーンに対する国際査察団受け入れの要求と、同時に各国への賛同を求めるべきです。査察の受け入れまで、我々はフレッドバーンの国際社会における権利主張を"これまで通り"認めるべきではない」


『この先』を見ていく上で、もはや避けられない問題だと、俺はフーに問う。
ここが、分岐点だ。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(30)(記録用)

2012年11月21日 00時23分12秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** ネウガード国境付近 最前線 ギルヴィッド占拠の砦 ***

「こんばんは。この砦で捕虜の方のお世話を任されております、カティと申します。何かご用向きがございましたら、どうぞ僕にお申し付け下さい」
地下牢に捕らえられ、縛り上げられた黎輝の檻の前で、少年が微笑する。

「貴方もまた、素晴らしい戦士とのこと。お会いできて光栄です」

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(29)(記録用)

2012年11月17日 20時11分34秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
ギリギリの転移で跳んだ先は、キャロットオレンジの屋根の上だった。
上手く着地が出来ず、強かに身を打ち付けてしまう。屋根の斜面を2度ほど転がり、止まる。オレンジの上に赤が重ね塗りされていた。
ここは。

「あら、久しぶりね。棒にでも当たった?」
このクソ愛しい声を俺は一人しか知らない。上手く跳べたか。良かった。
上半身をわずかに起こし首を向けると、艶やかな黒毛の虎が優雅に寝そべっている。
「ああ、ちょっと太いのにな。ツバ付けとけば治るから気にすんな。……俺の飼い主様は?」
「すぐそこにいるわ。寒いから上着を取りに行った」
「そうか」
起こした上半身を再び落として、オレンジの屋根に大の字になる。空しか見えなかった。
北風が寒い。確かにこれは上着が要るな。ヘルハンでこれは、例年よりも早く冬が来ているのかもしれない。

冷やりとする風を、痛みをこらえつつ肺に吸い込んで、
「ああ、ヘルハンの……シュラクの風はやっぱり良いな。潮の匂いがして、落ち着く」
「残念ね。ここ、ナハリよ」
「………………あァ!??」
全部吐いてひとしきりむせたあと、そのまま俺は意識を失った。


*** ナハリ 港町ニハレス・灯台 ***

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(28)(記録用)

2012年11月17日 16時40分05秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** フレッドバーン 港最寄りの街 ***

獣騎――『ララ』の現界が終わった。眼下で甲冑が光に溶けてゆく。あそこまでやられると、修復には少し時間がかかる。が、あの子は十分な働きをしてくれた。少し休ませてあげてよいだろう。
使い魔の現界に使用していたスロットが空くが、魔力切れの近い現状であまり意味は無い。

接近する緋河流の姿がバルコニーのへりに隠れて、やがて見えなくなる。普段であれば迷わず『風読み』起動のタイミングだが、魔力の消耗を避けて踏み止まる。飛び道具はない。接近手段は階段か、壁の登攀。どちらでも迎え討てる。耳を澄ませ、その時を待つ。

滴立っていた想像の水面が収まっていく。
異界の浅瀬、煉獄のほとり。


近代魔術の基礎とは、己の主観に形を与えることから始まる。客観と主観の置換、または相転移。全ての超越は「俺の思考こそ現実である」という″わがまま″を押し通すことに始まり、そこに尽きる。
精神の象景は様々なものに喩えられる。像、カンバス、水中、炎。俺の中で最も頻出するイメージは庭だった。土を起こし、盛り固め、草木を植え、水を流し、石を添え、あるいは風雨に曝すままに置き……そして気まぐれに猫が訪れる。塀の中での仮想宇宙の構築。現象世界のエンジニアリング。

″起こりうることは全て発生する″。
但し、″庭師の技量に従って″。


転移、そして内なるものを現界させる第二召喚。
客観的現実をそっと捻じり、世界を詐術をはたらく繊細な技において、唯一と言ってよい核心があった。

愛である。


*


緋い眼をした死神の鎌が突き刺さり、分解。
内蔵物が俺の視界に踊り、飛べなくなって、ぬめるようにきらきらと落ちる。
俺は見る暇さえ惜しく、欲しかったそれを掴む。

召喚されたのはケースごとの『ドラグナッハ』――そして″雷″と″炎″。

左脇にまとめて抱え込みながら″炎″を起動。エンチャント魔術の対象は右腕、腰上の高さのバルコニーの壁に寸止めの拳打を放つ。″魔術は発射と着弾の直前に、『周囲の″壁″を焼き払う』″。緋河流の接近サイド、建物西の壁が蒸発する。
構造上の耐久性能を自重が超え、建物が、足場を失い再度落下する緋河流に崩壊しながら倒れ込んでゆく。
緋河流に俺の影が一度重なり、わずかにズレる。相手からは逆光の位置を俺は落ちていた。建物の縁を下向きに蹴り、逆さまの世界で組み上げた銃口を右手一本で死神に突き付けながら、最後の一手、雷珠に全魔力を叩き込む――!

「あばよ殺人鬼。次は、分かり合えたら良いな」

撃鉄、発火、薬室に力が満ちて解放、そして電磁加速。
同時に転移が発動する。


薄れゆく視界の中、全てが緋河流に落ち――
結果は、見ることが出来なかった。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(27)(記録用)

2012年11月15日 03時09分50秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** ネウガード 首都ガーディヴ エリア??? ***


俺の名前はアグナ・ハルトゥーシャ。
ハルトゥーシャとは家族の名前ではなく、薬莢という意味だ。アグナは火。
単純に使い捨ての火器ということだろう。付けた側にとって、俺たちはそういう存在だったということだ。

生まれた国の名前はわからない。砂漠の多いところだった。
気が付くと、銃と弾を握っていた。魔術の素養があれば違う道だったのだろう。
俺が所属していた集団は、魔術の素養のない兵のために銃を自家製造していた。これが粗悪な代物で、撃って殺すよりも暴発して死ぬ数の方が多かった。兄もそれで目をやられ、使えなくなったので砂漠に捨てられた。その後は知らない。

初めて銃を撃ったのは俺が8つのときだった。そこまでは数えていて、人を撃つようになってからは、数えるのを辞めた。撃った数の方を覚えるようになった。
銃はフェアだった。引鉄の重さは誰に対しても同じ。命の重さは、1.7kg。

56まで数えたところで、俺は死んだ。
彼は俺のいた部隊にたまたま標的にされ、流れのまま俺たちを皆殺しにした。弾を全部ナイフ一本で逸らされて、一人また一人と斬り殺され、俺だけが残った。
57は自分かと覚悟して、こめかみに銃を突きつけながら呟いた。
「なんだよ。ズルいな。撃たれたら死ねよ」
1.7kg。ばーん。銀髪と紅い瞳の彼が、俺をずっと見ていた。


「おはよう」
起きると、やはり彼が俺を見ていた。なるほど、死神だったのか。
この雲のような感触のベッドも、窓から見えるありえない水だらけの景色も、俺の身体がどこも痛まないのも、きっとここが――
「……ここは、天国か? それとも地獄?」
「強いて言うなら、煉獄かな。お嬢さん」
それよりまずは、と彼は前置きして、
「君の名前は?」


*


俺が狙撃手になることを選んでから、主は俺を、彼の国の軍隊に入れた。
主は軍内で権勢を振るっており、精鋭揃いの狙撃兵科に俺を、選択の翌日にはねじ込んでいた。

魔術狙撃全盛の中、素養のない俺は入隊の経緯もあって浮いていた……らしい。気が付かなかった。
そういえば狙撃兵科は二人組が基本なのに俺だけ一人組だった。教官が余った一人と組んでいたので人数の問題ではなかったはずだ。あとで気が付いた。

それでも主の手前、俺を無碍にも出来なかったのだろう。
学ぶことは学ばせてもらった。


*


今日の、32だった。

『射撃のあとはすぐに移動するな。観察させず、観察せよ』。
その日のはじめてだけはどうしても守れないが、あとはちゃんと守っている。照準器から覗く景色の中で、竜から降り立った中性的な……男か? こちらへと走り出す。

背筋に何かがぞわりと走る。
見つかった。


あとはもう時間の問題だろう。
周囲は敵だらけ、自分には逃げ切る術がない。
倒されるまでにできるだけ、主に情報を持ち帰ろう。

《ボス》
彼を頭の中で呼ぶ。
《ボスの言った通りになった。予定通りでいいのだな?》
わずかに間があって、
《ああ、回収は任せろ。"あの言葉"、ちゃんと覚えてるな?》
《無論だ》

『ドラグナッハ』を解体し、トランクケースに収める。ワンピースの前を払い、唇にかかっていた髪を払って、階段を降りる。
陽光が温かい。この地では、陽の光は優しさに感じるのだなと思った。
ふわっと気配を感じて振り向く。

薄暗い階段の手摺の上に、猫の目が爛々と輝いていた。
俺をじっと見るようで見ていない瞳に、挨拶を返す。
「にゃー」
これが相手の"目"か。なるほど。

『狙撃手の天敵は索敵魔術。いかにこれをくぐるかが、君たちの生存率を上げる』
くぐるための魔術は身につかなかった。俺には魔術の素養がないのだから仕方がない。狙撃の腕そのものは良くても、俺は落第生だった。
せめてということで、主は俺に変装用の女性らしい服を買ってくれるのだろう。今日また一つダメにしてしまうが、仕方がない。


そして、主の命の通り、表通りへ走ることにした。
俺の仕事は、あと一つ。

【戦争RP】何時か何処かの戦の炎(26)(記録用)

2012年11月15日 00時44分48秒 | KOCSNS・【戦争RP】何時か何処かの
*** フレッドバーン 港最寄りの街 ***

圧し返す、か……。
まったく以て承服しかねるが、それでも目の前で起こっていることが現実だった。『空が落ちる』はやはり相手に対する決め札だった。だがそれでも押し切れない。

短剣の傷から血が止まらない。血溜まりについた膝が生温くて吐きそうだ。ただの傷であれば錬成で塞ぐこともできるが、魔力も体力も失われた今の状態では、大血管のそれを騙せるまで精度が上がらない。
そして、もうこれ以上魔力を浪費できない。飛び道具を封殺した今は『風読み』も停止している。
残り……、多分二手。効率化を極めてもそこまでだ。

あと二手。
あと二手!
回転しろ頭脳。覚醒しろ思考。血が足りないのは今だけ忘れとけ。いつだって満ち足りたことなんかないだろうが!


俺に、何が出来る?



《ボス》
アグナだった。
《ボスの言った通りになった。予定通りでいいのだな?》

……いい。超いい。
俺は馬鹿だな。こんな良い子を働かせておいてすっかり忘れていた。

《ああ、回収は任せろ。"あの言葉"、ちゃんと覚えてるな?》
《無論だ》


*


拳打の応酬が続いている。
俺は腹を押さえながら、眼下の男に叫ぶ。
「覚悟がないのが大間違いだ! 自らが! 自らの子らが! どんな場所にいるかを理解すらせず……、知りませんでしたで許されるか!」

一手目、開始。叫びながら、その痛みに歯を食いしばりながら脳裏でその名を呼ぶ。遠いが、呼べる。必ず呼ぶ。
「この『村』はもう引き返せん。"我々"に――『世界』に認めさせる前に牙を剥いてしまった。お前がそうした!
……名乗れだと? 野の獣に名乗るものなど、持ちあわせにない」

拳打の応酬の末、轟音を立てて獣騎がついに倒れた。表向き鎧に大きな破損はないが、内部の肉体は散々に掻き回されてしまっている。完全な戦闘不能だった。強制的にクロスレンジにして浸透勁とか反則だろ。規制しろ。