髪を切った。
「バッサリいってくれ。」
「そんなに短くするんですか?暑いからですか?」
「それもある。ただ、若い頃の自分を取り戻したいんだ。
オジサンの最後の悪あがきさ。」
「若さと短さは関係あるんですか?
いつものツーブロックの方が若いけど。」
「自分的にって話さ。私は若くてバリバリ働いていた頃、
ずっと短かったのよ。あの頃の自分を取り戻したいのさ。
ボクシングも一生懸命やって、
仕事も愚痴ることなく取り組んでいた。
あの頃の俺に。」
走った。
どうしても飛ばしてガス欠を起こすから、
ゆっくり走っている人をペーサーにした。
遅い。遅過ぎる。歩くペースだぞ。
疲れたから歩きたいんだけど。
もっと速く走りたい。
ガス欠寸前だ。
空を見上げた。
雲行きがあやしい。
「こりゃ雨降るな。」
その刹那。
雷鳴とともにとてつもない雨が降ってきた。
一気にペースを上げた。
もうびしょ濡れだ。
紅音さん並みだ。つまりほたる並みだ。
雨宿りをした。
雨に濡れて困っている女性がいるといいな。
そうしたらタオルを渡してあげよう。
女性はこう言うだろう。
「洗濯して返すので連絡先教えて下さい。」
「いらないよ。また会えるさ。」
私は笑顔でそう言って、雨の中に消えていく。
女性は叫ぶだろう。
「次はいつ会えますか?せめてお名前だけでも。」
私は振り向くことなく手を挙げて
「はじまりはいつも雨だよ。」
そんな女性はいるはずもなく、
時間が惜しいので、雨の中を走り去った。
もう靴の中も水たまりができている。
こりゃ怒られるな。
おわり