ハナミズキ便り

日常の何気ない思いや出来事を自由気ままにつづります。

ひとよ茸らんぷ - 我が根は森の奥深くにあり -

2020年08月16日 | 美術館・博物館巡り

北八ヶ岳ロープウェイにほど近い蓼科の宿の朝は

霧がたちこめていた。

ひんやりとした早朝の散歩に出ると

林でキビタキの声が聞こえる。

そして道ばたに朝露のニワナナカマドが目覚めていた。

朝霧に包まれたキバナノヤマノオダマキが

ひとつだけ静かに咲いていました。

花言葉は「遠くで見守っています。」

昨日のリベンジにもう一度車山へと思っていたが

今日も霧ヶ峰・車山高原の天候が優れないので

もう一つの楽しみにしていた

諏訪湖畔の美術館へ行くことにした。

《北澤美術館》

ここは、

19世紀末の「アール・ヌーヴォー」期の

エミール・ガレ(1846〜1904)や

20世紀初頭の「アール・デコ」期の

ルネ・ラリック(1860〜1945)を始めとする

著名な工芸家のガラス工芸品を所蔵展示する美術館。

 

展示室で最初に目に留まるのが

エミール・ガレ晩年の最高傑作

 

《ひとよ茸らんぷ》/ 1904年頃制作

ひとよ茸はその名のとおり

生まれてたった一夜で

開いた傘の縁の部分から融けだして

黒い雫が滴るように地に落ちて

翌朝には消えてなくなる...

 

ガレはこのキノコを

一瞬咲き誇る命の儚さと美しさ

消滅と再生を繰り返す

偉大な自然の摂理の象徴とみなしていた。

 

「我が根は森の奥深くにあり」

 

自己の存在が自然の根幹に繋がることを示す

この言葉は彼の座右の銘。

フランスのロレーヌ地方ナンシーの

彼の工場の扉に掲げられていた。

 

《ひとよ茸文花瓶》/ 1900 - 1904 年制作

植物が芽を出し、花を咲かせ

実を結んでは、やがて枯れて行く。

大地に戻り、また翌年、新しい命が生まれる。

自然にとり、死は決して終わりではなく

新しい生命の誕生の前提であると云う

こうした命の循環に対する世界観が

彼の作品から伝わって来る。

 

脚付杯《フランスの薔薇》/ 1901年制作

青緑色の金属酸化物を流し入れた透明地の

ピンクを重ねたクリスタル被せガラスに

野ばら「ロサ・ガリカ(フランスの薔薇を意味する)」を

アプリカッションで装飾している。

 

そして、もう一人の巨匠

ルネ・ラリックは

20世紀初頭のモダンなスタイル

「アール・デコ」のガラス工芸を誕生させた

フランスを代表するガラス工芸家。

 

テーブル・センターピース《三羽の孔雀》/ 1920年制作

三羽の孔雀の絵柄を

2cm足らずの透明ガラスにプレス成型した作品

光が孔雀を立体的に浮かび上がらせる。

 

花瓶《バッカスの巫女》/ 1927年制作

反射光と透過光で宝石のオパールのように

色の変わる乳白色のガラスに

バッカスの巫女をデザインした作品。

光の変化で巫女たちは美しく躍動する。

 

宿に戻り庭に目をやると

木の根元を覆う苔の間から

小さなキノコたちが顔を出していた。

ヒナノヒガサとシロコナカブリでしょうか(?)


《ヒナノヒガサ》/《シロコナカブリ》

今までは可愛いとか不思議とか

そのような目で目の前のものを見ていたが

ひとよ茸らんぷの作品でガレのこだわりを知った後だけに

「我が根は森の奥深くにあり」と

茸たちが語りかけてくるようで戸惑いを覚えた。

【記】ガレ作品の記事については「北澤美術館コレクション選集」を一部参考にさせて頂きました。