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吹く風ネット

酔っ払いブギ15

2006年2月16日
 春の転勤で、今の勤務地を離れることになる。
 その前に一度書いておきたい人物がいる。それは、この日記をつけ始めた頃に頻繁に登場していた、酔っ払いのおいちゃんである。

 一昨年の12月29日を最後に、おいちゃんはこの日記に登場してない。
 まあ、その日の日記を読めばわかることだが、その前日においちゃんはゴミ収集所に火を付けて逮捕されている。だから今は刑務所にいるのかというと、そうではないらしい。
 それから1、2ヶ月して、おいちゃんはひょっこりと店に現れたとのことだった。珍しくシラフで、色つやのいい肌をしていたという。だが、現れたのはそれ一回だけだった。
 その後、街中を自転車に乗って大声を張り上げながら駆け抜けて行ったとか、川べりで大の字になって寝ていたとかいう何人かの目撃談を聞いたのだが、店には現れていない。

 ということで、ぼくはおいちゃんのことを忘れかけていた。

 ところが、おいちゃんの記憶というのは、そう易々と消えるものではない。
 今年の正月に起きた、下関駅の火事のニュースを見た時のこと。ぼくは反射的に一昨年の火事のことを思い出し、
「もしかして、火を付けたのはあのおいちゃんじゃないか?」
 と思ったのだった。だが、犯人の名前はおいちゃんの名前ではなかった。さすがのおいちゃんも、そこまで行動範囲は広くないということだ。

 さて、それからしばらくして、あるパートさんからおいちゃんの最新情報を聞いた。
 その情報とは、「おいちゃんが死んだ」だった。
「えっ、死んだと?」
「うん、そうらしいよ」
「この冬は寒かったけ、凍死でもしたんかねえ?」
「さあ?」
 それを聞いて、ぼくは「これでこの町は平和になる」と安堵感を覚えると同時に、一抹の寂しさを感じたものだ。

 ところが、今日また新たな情報が入った。
 おいちゃんが自転車に乗って、大声出して走っていたというものだった。まさか、幽霊が自転車に乗って走っていたわけではないだろう。
 いったいどっちが本当のことなんだろうか?

 この店に移ってきてから、最初は酔っ払いのおいちゃんに、最後はそのおいちゃんの影に、振り回されたことになる。
「結局あのおいちゃんが、この町の思い出になるのか…」
 そう思うと、複雑な気持ちになる。


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