岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

08 とれいん

2024年05月12日 20時00分20秒 | 新宿コンチェルト/とれいん

 

01 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

とれいん執筆期間2004年12月12日~2004年2月5日352枚今日の仕事を済ませ、帰り支度を済ませる。家に帰って飯を喰い風呂に入れば、あとは寝るだけだ。川越と新宿を毎日の...

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02 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

01とれいん-岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)とれいん執筆期間2004年12月12日~2004年2月5日352枚今日の仕事を済ませ、帰り支度を済ませる。家に帰って飯を喰い風...

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03 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

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04 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

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05 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

01とれいん-岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)とれいん執筆期間2004年12月12日~2004年2月5日352枚今日の仕事を済ませ、帰り支度を済ませる。家に帰って飯を喰い風...

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06 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

01とれいん-岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)とれいん執筆期間2004年12月12日~2004年2月5日352枚今日の仕事を済ませ、帰り支度を済ませる。家に帰って飯を喰い風...

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07 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

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 最終駅本川越に小江戸号は到着し、ゆっくりと私は電車を降りる。改札横の駅員待機室に向かい、中に入ると一人の駅員がいた。

「駅長の村西さんいます?」

 何かの作業をしてた駅員は私が声を掛けると怪訝そうな表情でこちらを見る。すみませんも何も言わず、失礼な言い方をしているのは百も承知だ。簡単に言えば、ワザとつっ掛かり喧嘩を売っているのだ。

「何の用ですか?」

「そんな事はどうでもいいから、村西さん呼んで下さい。」

 口調は丁寧だが、おまえなんぞどうでもいいという舐めた話し方をした。窓口の駅員の顔が歪む。

「ですから用件を伝えて頂かないと…。」

「いいかい?こっちはおたくの西武新宿の件で感情的になってんだ。俺が呼べって大人しく言ってんのに、そんな訳分かんねー態度で口利いてるとどうなってもしらねーぞ。」

「……。」

 私の口撃に駅員は黙ってしまった。まだ何か言ってやらないと気が済まない。その時、さおりからメールが届いた。

「分かりました。龍が西武鉄道全部巻き込む事にしたって言うのはよっぽどの事だと思うよ。龍がそう思うなら応援するね。明日龍が仕事終わったら食事でも行かない?細かい話も色々聞きたいし。でもあまり無理はしないでね。」

 メールを見て、怒るタイミングがずれた。駅員はどうしていいのか分からないような困った表情をしている。

「すみません、どうか致しましたか?」

 ドアが開いて、別の駅員が私たちの元にやってきた。見た感じまだ若い。私とそう年齢は変わらないぐらいだ。

「俺は村西駅長はいますかって聞いてるだけです。」

 若い駅員に言いながら、さりげなく名札をチェックする。助役、小谷野と書いてあった。助役と言えば、私が西武新宿線で知る限り、福島さんに朝比奈さんの二名。その二名と比較すると、この若さで助役という役職を与えられてるという事に驚きを覚える。小谷野は冷静に、しかし口調は優しそうな柔らかい感じで、私に話し掛けてきた。

「本日、村西はお休みでこちらにはいません。さしつかえなければ、私がお話をお聞き致しますが。」

 私は携帯を取り出してから返事を返す。頭の中で素早く作戦を組み立てる。まずはどう切り出すか…。

「小谷野さん…、で、よろしいんですね?」

「はい。」

「分かりました。以前、村西さんには直接話した事はあるんですが、小江戸号のトラブルの件はご存知ですか?」

「ええ、ある程度は聞いています。」

「あれから結構な時間が経っているのにもかかわらず、何も話が進んでないんですよ。西武新宿の峰駅長。今日、彼に会ったんでさっきこちらに帰る前に話をしてきたんです。」

「はい。」

「まず、これを見てもらえますか?」

 そう言いながら、先程の峰との会話の携帯で撮った映像を見せた。

「周囲の雑音がうるさくて聞き取り辛いですけど、どう見ても峰駅長の態度が反省しているようには見えないですよね?」

「はぁ…。」

「もし、これがハッキリ聞こえなくて分からないと言うなら、音声だけスッパ抜いてCDで聞けるように作ってきましょうか?」

「いえ、ちゃんと聞こえています。お客様に大変失礼な真似をして、本当に申し訳ありませんでした。」

「今まで村西さん始めとして、西武の間壁さんや福島さん。色々な人の顔を立てようとして黙っていましたけど、この件の本人がこんなじゃもうしょうがないですよね?」

「と、とりあえず中でお話しませんか?お時間の方、大丈夫ですか?」

「ちょっと待って下さい。」

 ワザと手帳を取り出して、予定をチェックするフリをした。嫌なやり方だったが、今までと同じ形で応対していては何も先に進まない。

「分かりました。行きましょう。」

「どうぞこちらへ。」

 小谷野はドアを開けて、私を中に招いた。以前、村西駅長と話をした部屋に通される。

「どうぞお掛け下さい。」

「失礼します。」

 ソファに腰掛けひと息ついてから、相手を見据える。どう転んでも私に有利な状況。これをどう生かせるか。すべては自分次第だった。プライベート用の名刺を取り出して、小谷野に手渡す。

「私、神威と申します。これはプライベート用の名刺です。」

「あ、申し訳ないです。」

「ハッキリ自分の言い分を言いますね。」

「はい。」

「話を大事にしたくなかったけど、こうなったらとことん戦おうと思っています。」

 シーンとした何とも言えない空気が部屋を覆い被さる。

「本当に申し訳なかったです。」

 小谷野が最初に口を開いてきた。

「そんな、小谷野さんが謝らないで下さい。俺は別に西武新宿自体を攻撃したい訳じゃない。駅長の峰を個人攻撃したいだけなんです。」

「個人攻撃ですか?」

「ええ、簡単に言えば、提訴するだけです。峰個人を…。」

「ちょっと待って下さい。お気持ちは分かりますが…。」

「自分の言ってる事が小谷野さんを始めとして、他の人たちにも迷惑掛けているのは重々承知です。でも峰本人があんな態度じゃ何の意味もないんですよ。」

「ええ、お客様のおっしゃるとおりです。お気持ちも大変分かります。ただ西武側も提訴すると言われるのは困ります。」

「俺だって小谷野さんに頭下げさせて、心苦しいですよ。でもこの状況では何も変わらないじゃないですか?」

「ええ。」

「難しい事なんて俺は言ってないんですよ。ただ、峰自身が事を大きくしたんだから、ちゃんと素直に謝ってくれって言ってるだけなんです。」

「分かりました。ごもっともな意見です。神威様には大変失礼な真似をしてしまったので、西武新宿の組織、総意で駅長の峰に対し説得させます。そしてキチンとした形で謝罪させます。」

 十日から今まで…、座席を巡る小さなトラブルからここまで大きくなった。しかし、それもようやく終わりそうな感じがした。

「分かりました。小谷野さんの言葉、信じます。」

 そう言って少しだけ微笑んだ。小谷野も私を見て笑顔を見せる。

「何で俺がこうも極端な行動をしてるか分かりますか?」

「いえ…。」

「村西さんや間壁さんには言ってありますけど、実はこの件をもとに小説を書いているんですよ。」

「小説ですか?」

「ええ、たた西武鉄道を中傷するような内容で書いている訳じゃありません。読んだ人がみんな、良かったと思えるようなものを書きたいんです。だから自分からこう面白くなるように行動したんです。出来る限り事実に近く書きたいじゃないですか。それで小谷野さん…。」

「はい?」

「小谷野さんは小説の中での名前、何がいいですか?」

「え…。自分もですか?」

「ええ、村西さんも間壁さんもみんな、名前は当然いじって登場してますよ。」

「はぁ…。」

「ま、こっちで適当に名前、考えときますよ。小説出来たら持ってきますね。」

「はい、楽しみにしてます。」

「それとですね。」

「はい?」

「トラブルの原因になったあの女。あれだけは許せないんで、今度見つけたら、西武新宿総動員で捕まえてもらいますよ。俺がけじめつけさせますから。」

「いや、あの…。お気持ちは分かりますが、それだけは勘弁してもらえないですか?」

「確かに会社的にはそんな事、出来ないですよね。小谷野さんがそう言うなら分かりました。素直に顔を立てますよ。」

「すみません。」

「でもこれで小谷野さんには貸しが出来ましたね?」

「え?」

「冗談ですよ。まだこれからも西武新宿は利用させてもらうんですから、お互い仲良くやっていきましょう。」

「ありがとうございます。」

「小説が完成したらちゃんと持ってきますよ。読んで本当に面白いって感じてくれたら、西武鉄道で是非応援して下さい。」

「分かりました。上の執行部にも話は伝えておきます。」

 助役の小谷野。自分とそう年も変わらないだろうけど、礼儀正しく応対も良い駅員だ。話をしただけで人間性が滲み出ている。この件で知り合えて良かったと思う。まだ決着がついてないとはいえ、久しぶりにすっきり出来た。

 

 駅を出ると、十二時五分前だった。そういえばさおりにメール返してなかったな。早速返事を送ってやらないと…。

「もう寝ちゃったかな?今まで本川越の駅に寄っていて、助役の小谷野と例の件で話してました。返事遅くなってごめんな。明日、多分だけど西武新宿の件が決着つきそうなんだ。だからそのあとでなら食事行けるけどどうする?」

 小説「とれいん」を早く完成させたい。自分の中で変な使命感みたいものが大きくなっているのを感じる。今の私に何が出来るんだろう。とりあえずあの子の為に生き様は変えたくなかった。今は明日あたりで西武の件を終わらせて、小説を出来る限り早く完成させよう。ひょんな事からベストセラーにまで発展したら面白い。

 

 十二月二十八日 火曜日

 

 携帯の着信音が聞こえ、目が覚める。誰からだろう。画面を見ると西武新宿からだった。

「もしもし。」

「もしもし、朝早くにすみません。西武新宿駅長の間壁です。」

「え、間壁さんですか?お久しぶりです。」

 時計を見ると、朝の八時半だった。何かあったのだろうか。ひょっとして昨日、本川越駅の助役、小谷野との話がもう伝わっていたのだろうか。

「どうかしたんですか?」

「ええ、うちの峰が神威さんに是非謝罪したいと言うので、神威さんのお時間の都合をお聞きしたいと思いまして。」

 心の中にあった何かのつかえが、間壁さんのひと言で溶けていくのが分かる。

「今日も仕事なんで、えーと…、そうですねー。夜の十時頃には西武新宿の駅に行けると思います。」

「いえ、峰が神威さんの自宅に直接行って謝罪したいと申してますので。」

「大丈夫ですよ。そこまで気を遣って頂かなくても…。仕事でどっちにみち、新宿には行きますから。帰りにでも寄りますよ。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「いえ、こちらこそ…。間壁さん、すみませんでした。」

「神威さん…。」

「はい?」

 ちょっとした沈黙が流れる。真壁さんは何かを言い辛そうにしているみたいだ。

「どうしたんですか、間壁さん…。」

「み、峰は…、峰は私たちの仲間なんです。許してあげて下さい…。」

 間壁さんの熱い感情の籠もった言葉が私の胸に突き刺さる。思わずグッときてしまった。

「ありがとうございます。もちろんです。あんなちっぽけな事で大袈裟にでかくして、皆さんにご迷惑を掛けて、こちらこそすみませんでした。」

「とんでもないですよ。失礼な真似をしたのはこちらなんですから。」

「間壁さん、本当にありがとうございました。さっきの間壁さんの言葉…、グッときましたよ。」

「ありがとうございます。」

「何、言ってんですか。十時頃に行きますから。わざわざすみませんでした。」

「よろしく御願いします。」

 電話を切ってから煙草に火を点け一服する。仲間か…、それはそうだ。峰も間壁さんや村西さんにしてみれば仲間なのだ。大事に思い、心配するのは当たり前だ。色々あったが笑顔ですぐに解決出来るよう話し合いに臨もう。

 携帯を見直すと、メールが一件届いていた。さおりからだった。

「おはよう。龍が納得のいくように解決するのなら良かったね。西武新宿の件が昨日でいい方向に進んだんでしょ?そのあとで食事行こうって、私の事を気に掛けてくれる余裕があるぐらいだもんね。仕事終わって、西武の件が解決したら連絡ちょうだいね。」

 さおりとも些細な事から喧嘩になり、子供までおろさせて散々嫌な思いをさせてしまった。こんな私によく今でもついてきてくれるものだ。感謝してもしきれない。様々な思いを込めてメールを打った。

「おはよー。たかだか座席を巡るトラブルから色々な事が今まであったな。本当におまえには辛い思いさせて悪かったと反省している。これからもよろしくな。とりあえず今日、仕事が終わってから西武新宿駅に寄って、駅長の峰と話し合う事になった。向こうが今朝俺に謝罪したいと連絡あったんだ。みんなが笑顔でいられるような解決を俺は望んでる。だから今日で西武の件はハッピーエンドにする。そのあとで、一緒にうまいものでも喰おう。あの子もこれで少しは喜んでくれるかな…。勝手な言い分だけどな。俺はあの子の事をずっと想って背負っていくよ。」

 

 送信すると、すぐにパソコンの前に座る。昨日も帰ってから「とれいん」の続きを書いた。今のこの現状をすぐ文字で表現したくて堪らなかった。すらすら進む文章。出来る限り、現在の状況に追いつきたかった。出勤するギリギリの時間まで、私は小説を書く事に没頭した。初めて執筆するこの作品に自分の魂を込めたい。読んでいてリアルに頭の中で映像化されるような、そんな作品を作りたい。昨日の駐車禁止の事とかも書いてやろう。

 自分の中で歯止めが利かなくなっている。出来れば仕事も休んで、小説を書く事に集中したかった。私が生きてきた事の証。格闘技では中途半端なままだ。今でもリングに上がりたいという悔いが残っている。せめてこの「とれいん」だけは、満足に悔いの残らぬよう完成させたい。この世に神威龍一という男が生きていたという爪跡を残しておきたい衝動に駆られる。キーボードを打つ指に全身系を集中させて文字を打ち込んでいく。

 

 気がつけば、もう電車に乗らないといけない時間まで小説を書いていた。ここまで熱中したなんて、レスラーを目指してガンガンとトレーニングしてた時以来だ。あの時は体力的にだが、今は精神的に疲れを感じる。でも、その疲れさえも妙に心地良かった。今日で西武新宿の件も決着がつく。そう思うと疲れも吹き飛んでいく。

 着替えを終えて、外に出ると白い雪がしんしんと降っていた。今年の初雪…。まるで私を応援してくれているかのようだった。今まで雪が降って、こうまで感動出来た事があっただろうか。次の日には溶けて道路もベチャベチャになるので、雪が降るとウザイという感覚しかなかった。 だが、その雪さえも今の私を祝福してくれるように感じる。明らかに良い意味での追い風が吹いている。心の中でそれを確信した。

 一歩一歩、雪を噛み締めるようにゆっくり歩く。珍しく辺り一体は一面の銀世界だった。

「今日で終わりにしてやるぞ。」

 私は本川越駅までの道程を歩きながら、そっと呟いてみた。

 

 落ち着かない気分で時間が経つのを願った。仕事が終われば、帰りに西武新宿駅に寄る事になっている。もう数分すれば夜の十時になるところだった。

「龍さん、どうしたんですか?そわそわして。」

「以前、電車の件でトラブルがあったって話した事あったろ?」

「ええ。」

「今日、仕事終わってから駅に寄るんだ。」

「何か仕掛けるんですか?」

「違うよ。今日、雪が降ったけど、こっちの件は雪解けだ。」

「向こうから頭下げて来たんですか?」

「うーん、まあ結構、力技使ったけどな。」

「何したんですか?」

 携帯を取り出して、先日の峰との会話を撮った映像を田中に見せる。

「すごい言い合いですね。」

「ああ、俺がうまい具合に隠し撮りしたからな。これ持って、他の駅員を脅したんだ。」

「過激ですねー、やる事が…。」

「まーな。でもやってる事はエグイけど、俺の主張は正当なもんだ。別に間違っちゃいない。あまりにも何の反応もないから、強引に行動しただけだよ。」

「しょうがないですよね、その状況じゃ。あ、そういえば、この間、浄化作戦の事を話してたじゃないですか?」

「ああ、それで?」

「龍さんの知り合いで執行猶予になった人たちって、今はどうしてるんです?」

「うーん、普通に働いている奴もいれば、どこに行ったのか分からない奴もいる。どっちにしても歌舞伎町も寂しくなったもんだよ。」

「何で歌舞伎町ばっかり、やり玉にあげるんですかね?」

「前も言ったように国民に格好つける為のパフォーマンスだろ。テレビで見てるだけの奴らには、歌舞伎町は怖い街だって認識があるだろ?」

「はい。自分の友達なんかもボラれるから怖いって、みんな言いますよ。」

「そんなのは街に立ってるポン引き連中に、ついて行くからだよ。見ず知らずの人間の言う事を鵜呑みにして、スケベ心を剥き出しにしてる方も責任はあるって。」

「はぁ、奥が深いですね。」

「全然深くないよ。自業自得だ。頭の中がエッチな事ばかり考えてるから、足元をすくわれる。」

「自業自得かー…。」

「まあ、話を元に戻すと歌舞伎町はそこまで怖い街じゃないって事だ。でも国が攻撃すれば、世間的な見方は正義の行動に映る。あれだけテレビで派手にやれば、歌舞伎町を知らない人間が見たら、嫌でも悪い者退治をしてるとしかとれないようにうまく番組を作ってる。やり方が汚い。」

「言われてみればそうですね。」

「ああ、俺々詐欺とかの方がよっぽど問題あるだろ?」

「ええ、あれは最悪ですよ。人間の屑のやる事です。」

「ああ、人の弱みにつけ込んで、金を騙し取ろうとしてんだからな。でも法律上での罪はというと、裏ビデオ売ってる奴も、俺々詐欺も同じ執行猶予三年から四年だぜ。おかしいじゃん。歌舞伎町のやってる商売で多くは確かに違法かもしれないけど、それを実際に求める客がいる。誰にも迷惑を掛けてないだろ。何故なら歌舞伎町はみんなが欲望を金で満たしにくる歓楽街だからだ。いいじゃねーかよ。自分に関係ない人間が自分の金で好きな事をしに遊びに来てるんだから。」

「その通りですね。自分も好きだから裏DVDを買うんです。好きだからヘルスに行くんです。」

 別にそんな事までムキなって話さなくてもいいのに…。私はそう思ったが、心の中で思うだけに留めておいた。

 

 

09 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

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