
2025/07/16 wed
前回の章
横浜の部屋へ到着すると、チッチとマゲが騒いでいる。
鳥の餌がかなり減っていた。
「ごめんねー、お腹減ったよね? すぐ入れるからね」
餌を補充すると我先にと二匹は凄い勢いで突っつき出す。
水も変え、鳥籠内を掃除する。
少し寝ておくか。
昼に目を覚ますと、無性にナポリタンが食べたくなった。
ナポリタン、ナポリタン…、どこの店のがいいだろうか?
本当なら川越のジミードーナツのミートソースが理想だが、あれを超えるものは横浜には無い。
今から行くとしても五時には仕事だから、時間的にキツいだろう。
どうせならグダグダで、だらしないナポリタンを食べたい。
だとすれば、あそこしかないな。
自転車でギコギコと野毛にあるセンターグリルへ。
別にミツワグリルでもトルーヴィルでもイタリーノでも良かったが、スパゲティメインでご飯もあって、ちょいフライも食べたかったので、この選択になった。
以前行った時あまり美味しくなかったという記憶があり、今回は期待せずスパランチを注文。
久しぶりに食べてみて、麺は温かいし、味もなかなかいける事に驚く。
うん、こうもっちりしたグダグダなパスタをモグモグ食べたかったのである。
ナポリタン、薄いカツ、ライス、キャベツ、ポテトサラダが一つのプレートに。
こういうのって幸せを感じるな。
また今度これを食べに行こう…、そう俺は心の中で静かに誓った。
部屋へ戻りフェイスブックをチェックすると、有馬梨奈やKDDI時代の同僚上野から祝福メッセージが届いている。
小川絵美からはあのデート翌日以来、まったく連絡は無い。
あれだけ俺は真心込めてあの子のデートをお祝いしたのに、おめでとうの一言も無し。
本当に俺は人を見る目が無い。
携帯電話に川端里代からメールが入る。
シンプルな内容だが、祝福と今度お祝いしようという内容。
一日遅れというのがいまいちだが、それでも何もしないよりはいい。
俺は里代へ今度時間作るからデートしようと送り返す。
今度は中華街でなく瀬里奈でも連れてってやろうかな。
もう少しで出勤時間。
さて、辞める事をどう切り出そうか……。
職場までの足取りが重い。
この日出勤すると、名義の長谷川隆が来て店の鍵を開け回銭を置き、すぐ出ていこうとする。
「あ、隆さん!」
「ごめん、ちょっと忙しいからあとにして」
それだけ言うと隆は店から出ていく。
「……」
あれだけ忙しそうにしているのだ。
この店を辞める。
伝えるのは、またの機会にしたほうがよさそうだ。
米原はまだ来ない。
またいつもの遅刻か。
気にするな。
俺はもうここを辞めていく人間なのだから。
携帯電話が鳴る。
一原からだった。
誰もいないから出ても問題ないか。
「あ、岩上さん、お疲れです」
「どうしました?」
「物件ねー、地下と二階だったら、どっちが理想ですか?」
地下と二階……。
ゲーム屋ワールドワンは地下一階だった。
当時大盛況だったあの店。
しかし職種も時代背景も今とは違う。
まずデメリットを考えろ。
以前ワールドワンで入口に火をつけられた事がある。
地下は逃げ場が無い。
警察が踏み込んで来た時も…、いや、そうなったらどの階でも一緒か。
イメージ的に地下はマイナス、二階ならプラス二と考えてみる。
その前に二つの物件が歌舞伎町のどこになるかを聞いてから、判断してみよう。
「一さん、その二つってどの辺になるんですか?」
「地下はうな鐵あるでしょ? あそこの斜め向かいの地下」
すぐにピンと来た。
ゲーム屋時代系列店だったアリーナのあった場所。
「もう一つは?」
「もう一つはねー、うな鐵のところ入っていく道あるでしょ? その細い通りの真ん中くらいにあるビルの二階の物件」
何という偶然なのだろうか……。
俺が初めて歌舞伎町で働いた店ベガ。
うな鐵を入った細い道は平和通りと言う。
歌舞伎町の住民でもその通り名を知っている人間は少ない。
アリーナはあの盛況な時代でも早く潰れた店。
仮に新宿クレッシェンドという店名をつけるなら、俺が最初にいたあの場所が相応しい。
「一さん! 二階…、その二階の物件を押さえてもらえますか?」
気付けば俺は二階を選択していた。
米原が遅刻して出勤してくる。
黙ったままキャッシャー室へ入った。
遅れてすみませんの一言も無しか、あの馬鹿。
俺は小声で「一さん、他の従業員来ちゃったんで、二階でお願いします。ではまた後ほど」と電話を切る。
二という数字。
思い返すと俺にはとても関係性のある数字だった。
まず真っ先に思いつくのが小説の新宿クレッシェンド。
第二回世界で一番泣きたい小説グランプリ受賞。
俺は二回目の受賞者なのだ。
ゲーム屋時代もプロやワールドワンでは最初から二番手の立ち位置。
初めてのゲーム屋ベガも二階。
横浜の今の店も二階。
こじつけ過ぎか……。
ヤクザ客たちが来店する。
さて、仕事モードへ切り替えるか。
俺はホール内を所狭しと駆けずり回った。
仕事を終え部屋へ真っ直ぐ戻る。
新宿歌舞伎町での始めの原点である平和通り。
ゲーム屋ベガで出会った高橋ひろし。
その彼からの誘いで、今俺は横浜へ来た。
引き抜きにより、これから新宿へ。
それがまさか平和通りへ戻ってくるとは。
『インターネットカジノ新宿クレッシェンド』という店名を引っ提げて……。
とても感慨深いものがあった。
俺はこの事を濁しつつも、フェイスブックで記事にした。
俺が二十代半ば初めて新宿歌舞伎町へ行った。
それから約二十年ほどの月日が流れてから、また同じ場所に戻る事になるとは……。
運命?
必然?
因果?
どの言葉が適切なのか自分じゃよく分からない。
ハッキリした事は書けないが、俺は歌舞伎町と文学の融合というこれまで誰もしなかった事をしようとしている。
うん、これなら状況知らない人間はちんぷんかんぷんだろう。
インカジをやるなんて一切書いてないし、裏稼業の言葉も書いていない。
見た人は、ただ俺が横浜から新宿へ移るのか程度の認識。
何があったのくらいには思うだろうが、その辺は濁したままにしておく。
問題ないはずだ。
物件も押さえ、俺の店が始まろうとしている。
それなのに未だ下陰さんへ辞めると言えない俺。
これはキチンと言わなければいけない事なんだ。
いくら言いづらくても、物事の流れは動き出してしまったのである。
下陰さんと別れるのか……。
横浜へ来た当時金の無かった俺に対し、どれだけ良くしてくれたか。
走馬灯のようにあの時を思い出す。
気付けば寝ていた。
目を覚ますと朝十時過ぎ。
この時間なら起きているだろう。
ちゃんと自分の口で伝えないと。
ケジメをつけないといけない。
俺は携帯電話を手に取り、下陰さんへ電話を掛けた。
下陰さんは、すぐ電話に出てくれた。
「おう、岩上、どうかしたか?」
「あのですね…、大変申し訳ないのですが……」
「おいおい、いきなり何だよ?」
「義理のある人に新宿で店を頼まれてしまい、断るに断れなくて……」
半分嘘で、半分本当の事。
義理がある人間は高橋ひろし。
店を頼まれては、強引に引き抜きを受けたから。
「何だよー、おまえいなくなったら、うちの店どうなるんだよ」
「本当に大変申し訳ありません…。ただ、すぐ辞めるとかでなくですね…、代わりの人が入るまでか、もしくは一ヶ月はいるようにします。それでよろしいでしょうか?」
「一ヶ月はいてくれんだな? 分かったよ! しょうがねえもんな。まあ早めに人は探すようにはしとくけどよ」
「本当にすみません。これまで散々お世話になったのに……」
「だったらこのままうちにいろよ」
「……」
「冗談だよ。おまえはすぐ本気にするからな、ガハハ」
俺は部屋にいながら何度も頭を下げた。
こんなにいいオーナーの元を去らなければならない現状。
少しは恩返しできたのか?
自分じゃ分からない。
分かっているのは過去、ジャンボ鶴田師匠にも三沢光晴さんにも、何一つ恩返しできずに先に逝かれてしまった事だけだ。
正直横浜から離れたくなかった。
でももう遅い。
インターネットカジノ新宿クレッシェンドは動き出し、下陰さんにも辞めると伝えてしまったのだから。
鳥籠まで行く。
巣壺から俺のほうを見るマゲとチッチ。
「おまえたちも新宿に一緒に行くんだからね」
「クピピ」
鳥と戯れながら出勤時間まで過ごす。
横浜でのこういった暮らしも、あとどのくらいなのだろうか?
職場へ到着するも、隆からは辞める事について何も触れてこない。
まだ下陰さんが伝えていないだけなのか。
珍しくまともに間に合う米原。
買い出しに行き、いつもの営業が始まる。
今日は暇でまだ誰も来ない。
キャッシャー室から出てきた米原が俺に話し掛けてきた。
「岩上さん、玉城って覚えてます?」
「玉城、玉城…、ああ坊主頭の背の小さなヤクザですよね? 最近半年ほど見えてないけど」
以前俺がイトカズと揉めた時、イタリーノランチを持ち帰りにして舎弟の分まで渡した一件。
あの時イトカズと一緒にいた舎弟が玉城だった。
何故俺が覚えているかというと、玉城が店に来なくなる半年ほど前、急に店での金の使い方が派手になったからである。
これまで来店しても五万から十万円程度のギャンブルしかしなかった玉城が、突然うちで百万円を使った事があった。
それで印象に残っていたのだ。
米原がパソコンで何かを検索している。
「ほら、岩上さん、これ見て下さいよ」
『民家に押し入り、一億円など強盗、組員ら五人逮捕』
「これがどうかしたの?」
「ちゃんと記事見て下さいよ」
普段話もしない米原がここまで言うのだ。
俺はインターネットの記事を読んでみた。
民家に押し入り、現金約一億円などを奪い取ったとして、埼玉県警は二十五日、横浜市中区日ノ出町、指定暴力団○○会系組員玉城○○容疑者(二十八)と住所不定、内装工○○桂輔被告(二十八)(強盗罪などで起訴)、神奈川県藤沢市の高校生ら十八歳の少年三人を強盗容疑などで逮捕したと発表した。
発表によると、五人は昨年十二月七日未明、埼玉県志木市の民家に侵入し、この家に住む八十歳代の無職女性にナイフを突き付けて「おとなしくしろ」などと脅し、現金一億百七万円と宝石などが入った金庫三台(総額約三千九万円相当)を奪った疑い。
「ひょっとしてこの玉城って…、あの玉城?」
「そう」
捕まったのが記事だと三月。
だからここ半年ほど見なかったのか……。
しかしそれにしても横浜のヤクザは本当にこういった記事が多い。
動画付きのニュースに上げられたのは、この玉城で確か今年で三件。
俺たちはこうした犯罪者たちを相手に商売しているのだ。
不可解なのが、何故埼玉県の志木市なのかという部分。
俺の地元川越からなら東武東上線で二十分掛からない距離。
しかし横浜から志木など、かなりある。
それに何故この被害者である八十代の女性の家に現金一億円があるという情報を知ったのか?
不思議であり、気になってしょうがない。
客がどんどん来店してくる。
まずはキャッチの矢田部。
彼は愛想のいい人で、主にポーカーを好む。
相棒の谷口は以前平田が勝ち出禁にしてしまったので、それ以来よく一人で来る。
「あ、四カード! すみません、岩上さん。OUTしてもいいですか? すみません、勝ってしまって」
「どうぞどうぞ、何も問題ないですよ。矢田部さんは勝負に勝っただけの話なんですから」
俺は矢田部のOUTした十三万の金を手渡す。
他の客に呼ばれ対応しに行く。
「十卓様、マイクロ百ドルお願いします」
一万円札を受け取り、ホールからコールをする。
何やってんだ、あいつ?
キャッシャーにいるはずの米原が矢田部の卓へ来ていた。
「米原さん! IN! 早く!」
俺は大きな声を出しながら米原へ金を渡し、キャッシャー室へ行かせる。
矢田部が立ち上がり出ようとするので、入口まで一緒に向かう。
「今日は勝って良かったですね」
気分良く客を帰せば次に繋がるもの。
ドアを開けて矢田部を出そうとすると、暗い表情でこちらを振り向く。
「岩上さん…、米の奴、何とかして下さいよ」
「え、米原が何か?」
「あいつ、高校時代の先輩なんですけど、自分がこうやって勝つと、祝儀はといつも金奪いに来るんですよ」
あの馬鹿、客に対して何をやってんだ?
「大変申し訳ございません…。上申して善処致しますので」
「お願いしますね」
矢田部が帰ると同時にたくさんの客が押し寄せてくる。
ホールはてんてこ舞いだ。
その中に先ほどの玉城の兄貴分イトカズもいた。
仕事が少し落ち着くと、俺はイトカズの席へ行く。
「イトカズさん」
「ん、どうした?」
「玉城さんの一件あったじゃないですか?」
「ああ、志木のだろ?」
「ええ、あれって横浜から何で志木の家に一億あるなんて情報知ったんですか?」
「あー、あれはな、詳しくは言えないが、そういうのを売っている情報屋がいるんだよ」
「……」
矢田部と米原の事が吹き飛ぶほどの衝撃。
横浜だけでなくこれが全国規模であると予測すると、犯罪など無くならない訳だ。
仕事帰り仲通りを歩きながら通る。
ゲンのアンチポップの看板は消えている。
本来夜中の二時が彼の店の基本的な閉店時間。
客の入り具合によって閉店時間もばらつきはあるものの、今日は暇だったのだろう。
新宿へ行く事を伝えたかったけど仕方ない。
横浜で俺が親しくしている人間といえば、このゲンと永井聡くらい。
あとで永井にはフェイスブックのメッセンジャーで伝えておくか。
まあ帰り道こうして通ればいつか開いている日もあるだろう。
それにしても今日は忙しくて疲れた。
帰ったら風呂入ってとっとと寝よう。
鳥の世話をして風呂へ入る。
メッセンジャーで永井聡から『岩上さん、新宿行くんですか?』と早速連絡が来た。
これまでの簡単な経緯を説明している内に、限界が来てそのまま寝てしまう。
目を覚ましたのは携帯電話の着信音だった。
まだ眠かったので、あとで出ればいいやと目を閉じる。
しかしずっと鳴るコール音。
しつこいな、誰だよ……。
ようやく起き上がり携帯電話を手に取ると、一原からだった。
「岩上さん! ネットに新宿のインカジの事流したんですか?」
電話に出るなりもの凄い剣幕の一原。
「はあ? 何の事ですか?」
「新宿でインカジやるってフェイスブックにアップしましたよね?」
寝起きていまいち頭が働かない。
黙っていると電話口の向こうから一原の怒鳴り声だけがガンガン聞こえてくる。
フェイスブックでインカジを書いた?
まるで身に覚えがない。
「ちょっと待って一さん! 少し落ち着いて!」
「岩上さんは何でそんな事を……」
「一さん! いいから話を聞いて! そんなんじゃ悪いけど、一緒に仕事はできない」
激情型の一原は一度火がつくと何でもかんでも思った事を言ってしまう駄目な癖がある。
「岩上さん! 今さらそんなね……」
「だから一さん! 落ち着けよ! そんなんじゃ話しもできねえよ!」
仕方なく俺も怒鳴り返す。
少しの間流れる静寂。
「一さん、いきなりこっちが寝起きに電話してきて、身に覚えの無い事でずっと怒鳴られたら、さすがに俺だって気分悪いですよ」
「そ、それは申し訳なかったでした。でもね……」
「だからそこで声を荒げないで。会話にならなくなるから。誰に何を聞いて、そうなったんですか?」
なるべく冷静さを取り戻させるよう誘導した。
「スーちゃん、いるじゃないですか」
「レシエンの優美ですか?」
「ええ、彼女から連絡あったんですよ。岩上さんヤバい。フェイスブックでインカジの事ベラベラ書いていますよと」
パソコンでフェイスブックを立ち上げ、自分の最近の投稿を見てみる。
俺が二十代半ば初めて新宿歌舞伎町へ行った。
それから約二十年ほどの月日が流れてから、また同じ場所に戻る事になるとは……。
運命?
必然?
因果?
どの言葉が適切なのか自分じゃよく分からない。
ハッキリした事は書けないが、俺は歌舞伎町と文学の融合というこれまで誰もしなかった事をしようとしている。
ひょっとしてこの事をレシエンの優美はインカジの事と勘違いして、あえて一原へ話したのか?
信じられない女である。
俺はこの投稿で一言も裏稼業ともインカジとも書いていない。
唯一きな臭い部分があるとすれば『俺は歌舞伎町と文学の融合というこれまで誰もしなかった事をしようとしている』と、このところくらい。
しかし見方を変えれば俺は新宿クレッシェンドという作品を全国に送り出している。
これも一つの歌舞伎町と文学の融合だろう。
「岩上さん、本当にスーちゃんが言う通りそんな事ネットに書いたんですか?」
「書いていない」
「もし、それが本当だったら、こっちも庇いきれませんよ?」
「一さん…、悪いけど言葉の使い方を間違えないでくれ。いきなりそんな口調で来られて、俺の言い分を聞けないと言うなら、新宿の話を俺は降りるよ」
「岩上さん!」
「だからその大声出すの、本当にやめろよ。凄い気分悪い」
こんな短気な男と組んでの商売など、先が知れている。
俺が致命的なミスをしたならまだいい。
レシエンの優美からの情報を聞いただけでこうだ。
「本当に書いていないんですね?」
「だから本当にくどい。俺はそんな事一言も書いていない」
「分かりました。また店の件は追って連絡します」
電話が切れる。
面倒なので、俺はフェイスブックへ乗せた投稿を消す。
何もやましくはないが、陰で優美が俺の記事を見て変な方向へ喋るという事実だけは分かったからだ。
整理しよう。
俺はレシエンの優美にとって、金を払う客。
自分からインターコンチへ行きたいと予定入れたのに、当日ドタキャン。
自分の誕生日にあえて俺へ、ミートローフの料理を作らせた。
それでいて俺の誕生日、お祝いコメント一つ無いくせに陰で人の記事をコソコソ見て一原へ揉めるようわざわざ報告。
これって自分の店の客のフェイスブックを覗き、好きなように言い触らすのと同じだ。
店を任されている人間の行動とは到底思えない。
頭大丈夫なのか、あの女?
考えれば考えるほど、怒りの虫が治まらない。
俺はフェイスブックのレシエン優美をブロックし、知人限定で記事を書いた。
コソコソ陰で記事だけ見て、情報をベラベラ話している馬鹿な女……。
本当にウザいんで、友達解除&ブロック(これで2人目)しました。
店やってんならさ…、少しはもうちょっと頭の中身鍛えたら?
何でもかんでも面白おかしく話せばいいなんて、馬鹿なの?
こういうの男女年齢問わず、本当にウザい。
自分の記事盗み見て、憶測であちこち言いふらしている馬鹿な女いるんで、今後知人限定公開でやっていこうと思います。
この投稿に対し、俺の知人たちは本当にそんな人がいるのかと驚く人が多数。
少しはスッとしたが、レシエンも俺が今度行く系列の一つでもあるのだ。
あんな女と同じグループ……。
仕事へ行く時間が近付く。
チッチとマゲの世話をして、準備を整える。
店に行ったら名義の隆に、昨日の矢田部と米原の一件を伝えなきゃ。
何か色々と面倒な事ばかり起きているな。
職場へ着き、隆を待つ。
先に米原が来る。
俺は辞めていく身。
なので直接文句や注意を言ったところで、米原には通じないだろう。
関係がさらに悪くなるだけで、あと一ヶ月はここで働く俺にとって得策ではない。
こんなんで新宿へ行って本当に大丈夫なのだろうか?
隆がやってくる。
俺は買い出しのチェックをしながら、彼が店を出るタイミングで一緒に買い物へ出て、米原の件を話そうと思った。
「あ、岩ちゃん」
「はいはい、何でしょう?」
「いつもドリンクと横濱屋へ行くんでしょ?」
横濱屋とは福富町仲通り沿いにある酒屋。
店で使うミネラルウォーター、コーラ、カップラーメンなどを店頭で注文して会計し、うちまで商品を持って来てもらっている。
ミネラルウォーターなどは五百ミリリットルのペットボトル段ボール毎なので、買い物に行く俺はとても助かっていた。
お酒の横濱屋 福富町店・野毛店 移転のお知らせ | 横濱屋|いつも新鮮、絞りたての企業です。
「そうですけど何か?」
「今日からあそこ使うの止めてね」
「はあ? 何かあったんですか?」
何故横濱屋を使ってはいけないのか?
隆から事情を聞く。
この店のオーナーである下陰さんの弟の修さん。
その修さんが経営するゲーム屋が福富町には一軒あった。
横濱という土地柄のおかげでこれまで一度も捕まった事の無い店。
それがこの度神奈川警察署長が代わり、少し方針が変わったようだ。
下陰の店を必ず捕まえると徹底した捜査。
情報は入ってくるものの、この三ヶ月間で二回も店を移転してうまく警察の目をかわしていたらしい。
しかし先日、うちの店と同じように横濱屋でゲーム屋の従業員がドリンクを注文し配達に来たところ、オロナミンCだけ忘れたのですぐ届けると配達員は帰ったそうだ。
インターホンが鳴り、入口のカメラで横濱屋の青いジャンバーを来た配達員が見えたので鍵を開けると、実はそれが警察の人間でゲーム屋は捕まったらしい。
民間企業まで巻き込んでの逮捕。
少しやり過ぎじゃないのか?
確かにそれじゃ、横濱屋など二度と使うかとなるのも当然だろう。
しかし俺が新宿歌舞伎町へ行くと退職を下陰さんへ伝えてから、奇妙な事が多過ぎる。
いや、俺が四十三歳の誕生日を迎えてからか。
明らかに流れがおかしい。
ナベリンこと渡辺は、俺が店を出すと言えば二つ返事で来てくれるものだと思っていた。
この店の米原が客である矢田部が勝つと、先輩の威光をかざして金を取るなんて可愛いくらいだ。
そしてまず一原のあの性格。
あれは一緒に仕事をやるとなると、かなりのストレスになる。
そして同グループのお騒がせチクリ魔のレシエン優美。
ある事ない事ベラベラ喋る性格は、いつかどこかで災いを呼ぶだろう。
向こう側の系列だけでない。
今度はこちら側の修さんのゲーム屋が横濱屋を使った不可解な検挙をする。
これまでどちらかといえば、のほほんと平穏無事に生活してきた俺。
横浜を離れる事になってから、おかしな事が立て続けに起きている。
俺がここへ来て起きた悲劇といえば、麗美華とのデートで四十万の入った財布を落とした事。
増山敦子とのスナックあいだによる破局。
インターコンチネンタルホテルの人間たちからのタカり行為。
川越のガールズバーの里菜が赤ん坊を連れてやってきた。
これらは俺がしっかりしていれば事前に防げたはずのものばかり。
そうじゃない気味の悪い流れ。
俺はこれからふんどしを締めて警戒しながら行かないといけないような気がした。