お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 8

2021年10月31日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
 その日の夜、さて寝ようとしたところに、みつと豆蔵が現れた。二人は並んで座っている。
 みつは凄腕で美貌の女剣士。豆蔵は渋い中年の岡っ引きで江戸でも五本の指に入る腕利きだ。この二人ならさとみもイヤではない。霊体を抜け出させ、ちょこんと二人の前に座る。
「みつさん、豆蔵、お久しぶりね」
 さとみの声がうきうきしている。昨日からイヤで面倒な事ばかり聞かされていたからだ。
「嬢様……」豆蔵はさとみをそう呼ぶ。「知っていますかい?」
「何?」
「竜二さんの新しい……」豆蔵は言うとぷっと吹き出した。「……新しい恋人ですよ」
「ええ、知っているわ」さとみは思い出してうんざりした顔をする。「虎之助とか言う男の人でしょ? 昨日、竜二が助けてくれって泣きながらやって来たわ」
「さとみ殿」みつはさとみをそう呼ぶ。「世の乱れがわたしたちの世界にも入ってきているようですね。なんとも、嘆かわしい事だ!」
 ……袴に帯刀と言う侍の格好をしているみつさんは、自分の事をどう思っているのかしら? さとみは聞いてみたい衝動に駆られたが、下手な事を言ったら「天誅!」とばかりに斬られそうなので黙っていた。
「その竜二さんですがね……」豆蔵がにやりと笑う。「嬢様の前に現われた時、すぐに話をしてくれなかったって言ってやした。嫌われているんじゃないかって気にしてやしたよ」
「今頃ぉ?」さとみは驚き、そして呆れる。「最初から嫌いに決まってんじゃないのよう!」
「あっしもそう思いやしたが、そこはぐっと堪えやしてね、いつもと何か違っちゃいなかったかって聞いたんですよ。そうしたら、嬢様みたいのがもう一人いたって言ってやした」
「……ああ、朱音ちゃんの事ね」
「どんな娘さんで?」
「押しかけ後輩って感じかなぁ……」
「押しかけ、でやすか。押しかけってのは女房と相場が決まっているもんですが……」
「今は色々とあるのよ」
「さいですか……」
 豆蔵はぽりぽりと頬を掻いた。
「あ、そうだ!」さとみは言うと二人を交互に見る。「それでね、その朱音ちゃんが、わたしがみんなと話せるって事を知っているのよ」
「ほう……」豆蔵は言うと、頬の手を顎に持って来て、幾度か撫でた。「そりゃあ、不思議な事でやすねぇ……」
「その娘の話だと、お友だちののぶちゃんって娘が気が付いたって言うのよ」
「さとみ殿」みつが割って入る。「わたしたちと話せる事、お隠しになるような事なのですか?」
「う~ん、そう言うわけじゃないけど、そんなに知られたくはないわねぇ。ほら、薄気味悪がる人もいるから」
「それよりも、利用しようなんて悪党も居ないとも限りやせんぜ、みつ様」
「ふん、そんなヤツは死んだら天誅を食らわせてやる!」みつは言うと床に置いた刀を左手でつかむと鯉口を切った。それからさとみを見て不敵な笑みを浮かべる。「その際はお任せを」
「……ええ、お手柔らかにね」さとみはみつの迫力に気圧されつつも、とりあえず笑んでおいた。「それで、話って終わりなの?」
「いえ」豆蔵は言うと、軽く咳払いをした。「最近、この一帯に、何やら怪しい雰囲気が漂っておりやす……」
「怪しい雰囲気……?」さとみは眉間を寄せる。「悪い霊体でもいるのかしら?」
「かも知れやせん」
「わたしも注意をしているのですが、気配を上手く消しているようで、なかなかつかめないのです」
「でも、居るのは分かるのね?」
「そうですね、時々ぞっとする気配を感じます」
「みつさんがそう言うんなら、間違いないわね…… これが竜二だったら『馬鹿な事言うなぁ!』とか言って平手打ちを食らわせるけど」
「そんな訳でしてね、嬢様もお気を付けなするようにと申しに参りやした次第で……」
「左様、さとみ殿、お気を付けなさいませ」
「あら、ありがとう……」さとみは言うと、二人を改めて見る。不意に意地悪そうな光がさとみの目に宿る。「でもさ、わざわざ二人で言いに来てくれなくっても良いんじゃないの?」
「いや、それは……」豆蔵が慌てる。「……たまたま、ここへ来る途中でみつ様と出会いやして……」
「そうです」みつは頬を赤くしている。「決して、一緒に来たわけではありません!」
「ふふふ……」さとみは軽く笑う。「分かったわ。でも、二人に会えて嬉しいわ」
「そろそろ嬢様は就寝でやすね」豆蔵は言うとみつを見る。「では、あっしらもおいとまいたしやしょうか?」
「そうですね。寝不足はお肌の大敵だと百合恵さんが言っていましたからね」
「あら、百合恵さんと会っているの?」
 百合恵は繁華街で一番の力を持つ粋で美人な姐さんだ。それだけではなく、生身のままで霊体と話が出来る。さとみと出会ってから、さとみの事を色んな意味で可愛がってくれている。
「はい、百合恵さん、最近さとみ殿と会っていないと愚痴っていました」
「そうなんだ。じゃあ、今度会いに行ってみるわね」
「是非、そうなさって下さい。百合恵さん、喜びますよ」
 二人はすっと消えた。さとみも霊体をからだに戻す。


つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 霊感少女 さとみ 2  学校... | トップ | 霊感少女 さとみ 2  学校... »

コメントを投稿

霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪」カテゴリの最新記事