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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 7

2021年10月30日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
 さとみは霊体をからだに戻そうと振り返った。朱音が、ぽうっとした顔で立っているさとみの頬を指先でつんつんと突ついている。それでも反応しないさとみの周りを興味深そうな顔で一周する。さとみは霊体を戻すタイミングがつかめない。
「……先輩……」朱音がさとみのからだに話しかけている。「いきなりどうしちゃったんですか? ……ひょっとして、霊とお話中ですかぁ?」
 朱音は自分の言った言葉にきゃあきゃあとはしゃいで跳ね回っている。……やれやれ。さとみはため息をついて霊体をからだに戻した。途端に、ぽうっとしていたさとみがのろのろと動き出す。
「あ、先輩!」朱音が嬉しそうに話しかけてくる。「今、霊とお話していたんでしょ?」
「え?」さとみは朱音を見る。ぱっちりした瞳がきらきらしている。純粋な尊敬の眼差しだ。さとみはうなずいた。「……ええ、そうよ。今、話をしていたのよ」
「わああっ! すっごぉい!」朱音は言うとさとみの手を取ってぶんぶんと振りまわす。「先輩、凄いじゃないですか! ああ、のぶにも見せてやりたかったなぁ!」
「あ、あのねぇ……」手をぶんぶん振り回されながらさとみが言う。「話って、何なの?」
「話、ですか?」朱音の手が止まる。ちょうど手を頭より高く持ち上げたところだった。「あれ、お話していませんでした?」
「聞いていないわよ。わたしが霊と話が出来るって事で良いんなら、そう言う事よ。お友だちののぶちゃんにそう話してちょうだい。でも……」さとみは朱音とつないでいた手を離して、ぐっと朱音に顔を寄せ、真顔になる。「他の人には言わないでほしいの。わたしはこの力を霊を助けるために使っているんだから」
「先輩……」朱音は手を上げたままでさとみの顔を見てうなずく。さとみの真剣さが伝わったようだ。「分かりました。他には言いません」
「そう、それは嬉しいわ……」さとみはほっと息をつく。「じゃあ、そう言う事で。わたし、帰るわ。朱音ちゃんも気を付けて」
「先輩……」
「なあに? まだ何かあるの?」
 カバンを手にして教室を出ようとしたさとみが振り返る。と、いきなり朱音がさとみに向かって駈け寄って来た。あっという間も無く、さとみは朱音に抱きしめられた。
「ちょっ、ちょっ、ちょっとぉ!」さとみは離れようとじたばたするが、朱音は離さない。ますます力が強くなる。「離してよう!」
「さとみ先輩! わたし、先輩の事が好きになっちゃいましたあ!」
「何を言っているのよう!」
「さっきの真剣なお顔、そして、霊を助けるなんて優しいお心! 惚れちゃいましたぁ!」
「うわぁぁぁ……」
 朱音が目を閉じて唇を突き出した。さとみは必死に顔を背ける。不意に朱音の戒めが解けた。
「ははは、先輩って面白いですね!」朱音が笑う。「冗談ですよ、冗談。なのに、そんなに必死に抵抗しちゃって」
「もう! 先輩をからかわないでよう!」さとみはぷっと頬を膨らませる。「びっくりしちゃったじゃない!」
「すみませ~ん」朱音はぺこりと頭を下げた。「……でも、先輩を好きになったのは本当です。わたしも、アイ先輩や麗子先輩に加わります」
「うへぇ……」
 さとみはつぶやくとうんざりした顔をする。さとみの右手をアイが持ち、左手を麗子が持ち、頭を朱音が持ち、それぞれが引っ張り合っている図をさとみは思い描いた。両脚は何故か竜二がしっかりと握っていた。
「とにかく、もう帰りなさい」さとみは先輩風を吹かせて言ってみた。「先輩の命令よ」
「は~い、分かりましたぁ、さとみせんぱ~い」
 朱音はおどけて言うと、警官の様な敬礼をして見せた。そして、教室を出た。さとみはほっとする。厄介事が終わったと思ったからだ。
「あの、さとみ先輩……」朱音は教室を出しなに振り返った。「明日、のぶと一緒に来ても良いですか?」
「え?」
「わたしより、のぶの方が、先輩にお話があるみたいなんです」
「ああ、そうなの……」
「じゃあ、失礼しま~す。明日も放課後に来ま~す!」
 朱音は行ってしまった。
 さとみはぴしゃぴしゃとおでこを叩き出した。


つづく

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