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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 22

2021年11月14日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
 さとみと百合恵は豆蔵の先導で歩く。暗闇でも霊体は見えるから、実質的に懐中電灯はいらない。ただ、周囲の状況が分からないので、百合恵は懐中電灯で周囲を照らしていた。
「今のところは、豆蔵だけしか見えませんね……」さとみが言う。「……でも、何となく、イヤ~な感じはします……」
「そうね」百合恵は周囲を見回す。「小者の霊も寄り付かないなんて、よっぽど強い霊がいるようね……」
「……着きやしたぜ……」
 豆蔵が言って振り返る。百合恵が正面を照らす。掃除があまり為されていない、薄汚れたコンクリート製の階段が見えた。
「う~ん、いかにもって感じの階段ねぇ……」百合恵が苦笑する。「誰も掃除をしないのかしら?」
「少なくとも、わたしは入学してから、ここの掃除に参加した事はありません」さとみが答える。「さっきも言いましたけど、こんな階段があるのも知らなかったですし……」
「良いのよ、別にさとみちゃんを責めているんじゃないわ」百合恵がさとみの肩を抱く。「ただ、こういう薄汚い所って、悪い霊が溜まりやすいわね」
「はい……」さとみは言うと、とことこと前に出た。階段を見つめ、それから百合恵に振り返る。「……結界みたいなのはなさそうですけど……」
「あら、そう? 消えたのかしらね?」百合恵は言うと、豆蔵を見る。「豆蔵、どうかしら?」
「へい、じゃあ、階段を上ってみやしょう」
 豆蔵は階段へと進む。階段に足をかける前に百合恵に振り返る。百合恵はうなずく。豆蔵もうなずき返し、階段に向き直る。ゆっくりと足を階段に掛けた。
 と、火花のような閃光が走り、豆蔵は廊下に弾き飛ばされて転がった。
「豆蔵!」さとみが霊体を抜け出させ、倒れている豆蔵に駈け寄る。「大丈夫?」
「へ、へぇ……」豆蔵は上半身を起こす。頭を幾度も振る。「……迂闊でござんした。前は軽く跳ね返される程度だったんでやすけどね……」
「と言う事は、結界が強くなっているんだわ……」
 さとみは言うと、階段を見た。時々、稲光のようなものが走っているのが確認できた。
「百合恵さん。雷みたいなのが時々見えるんですけど……」
「そうなの?」百合恵は階段を懐中電灯で照らし、じっと見つめる。「……ダメだわ、わたしには見えない」
「生身にからだには見えないんだわ……」さとみがつぶやく。「だとしたら……」
 さとみは霊体をからだに戻した。
「さとみちゃん、どうするつもり?」
 百合恵が心配そうに訊く。
「霊体だと、豆蔵みたいに弾き飛ばされちゃいます」さとみはやっと立ち上がった豆蔵を見て言う。「だったら、生身だと通れるんじゃないかって思うんです」
「そうかも知れないけど、さとみちゃんは霊体を抜け出させることが出来るのよ」
「はい、そうです」
「ひょっとしたら、結界に入った途端にさとみちゃんの霊体だけ弾き飛ばされるかも知れないわ」百合恵が深刻な顔をする。「そんな事になったら、どうするの?」
「どうって……」さとみはおでこをぴしゃぴしゃやり出した。「……考えていませんでした」
「じゃあ、一緒に行ってみましょう。もし、さとみちゃんの霊体が弾き飛ばされたら、からだを抱えてこの廊下まで戻れば良いわ」
「でも、それじゃ、みつさんが……」
「そうなったら、何か次の手を考えましょう」百合恵は言うと階段を見る。「それに、生身でも階段を上がれるかどうかね……」
「そうですね……」
 さとみも階段を見る。生身で階段を見ると、稲光は見えない。さとみは提げているポシェットをしっかりとつかんだ。イチゴのアップリケが優しく温かい。
「じゃあ、行きます……」
「ええ、行きましょう」百合恵は豆蔵を見る。「この機に乗じて小者の霊が集まって来たら、追いかえしてね」
「へい、それはお任せを……」豆蔵は言うと、さとみに頭を下げる。「……嬢様、一番大ぇ事な時にお役に立てなくって、申し訳がねぇです……」
「豆蔵、なんて言ったんです?」
 さとみは百合恵に訊く。生身のさとみは霊体は見えるが話は出来ない。
「肝心な時にお役に立てなくて申し訳ないって」
「豆蔵!」さとみは豆蔵に向かって言う。「そんな事ないわ! 豆蔵がいるだけで、どれだけ心強いか! それに、結界が破れれば、大活躍してもらうつもりなんだから!」
 さとみの言葉を百合恵が伝える。豆蔵は目頭を拭った。そして、どんと自分の胸を叩いて見せた。さとみはうなずく。
 さとみと百合恵は階段へと進む。二人そろって右足を上げ、階段の一段目に乗せた。何も起こらなかった。そのまま数段上がる。さとみが振り返ると、豆蔵がほっとしたような表情で手を叩いている。
「第一関門クリアって所ね」
 百合恵が言い、さとみの肩を抱いた。
 

つづく

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