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ジェシルと赤いゲート 10

2023年01月30日 | ジェシルと赤いゲート 
 床にへたり込んで、左右から槍の突き出している階段を眺めているジャンセンの尻を、ジェシルは蹴飛ばした。思わず前のめりになって階段へと転がり落ちそうになる。ジャンセンは悲鳴を上げて両手で床を押さえ、からだを支えた。そして素早く立ち上がると、にやにや笑っているジェシルを正面から睨みつけた。
「危ないじゃないかあ!」ジャンセンは怒鳴る。「階段に落っこちたらどうなると思うんだよ!」
「ジャンセンの串刺しが出来るんじゃない?」ジェシルは平然と答える。「どう料理しても、美味しそうじゃないけどね」
「あのなあ!」
「それよりも、手伝ってよ」
 ジェシルは、怒っているジャンセンを気にする事も無く、横倒しになった大きな机の傍に行き、机をぽんと叩いた。
「……手伝えって、何をするんだい?」
「あのさあ……」ジェシルは呆れたようにため息をつく。「倒れた机をぽんと叩いて見せたら、普通はどう思う? 『あ、そうか、立て直すんだな』って思うんじゃないの? まさか、一緒になって机を叩くのかって思ったの?」
「そんな事思うわけ無いじゃないか!」ジャンセンは口を尖らせる。「机を起こすんだくらいはすぐに分かったよ」
「じゃあ、どうして『何するんだい?』なんて訊いたのよ?」
「ジェシルの事だからさ、そんな当たり前な事を言うとは思わなかったのさ」ジャンセンがお返しとばかりににやりと笑って見せた。「ジェシルってさ、意外と普通なんだな」
「ふん!」ジェシルは鼻を鳴らす。「もう良いわ! 一人でやるから!」
 ジェシルは言うと、倒れた机の正面に立って、、腰を落とし天板に手を掛けた。「むっ!」と気合を入れて天板を押し上げる。が、相当重い机のようで、少しは起き上がるがそれ以上は動かない。それでもジェシルは歯を食いしばって鼻息も荒く力を入れる。
「ははは、美人捜査官が何て顔をしているんだ」
 ジャンセンは笑い声がする。ジェシルはそれを無視してさらに力を入れている。……重たい机だから絶対倒れないと思ったのにぃ! ジェシルは心の中で毒づいていた。
 ふと手元が少しだけ軽くなった。隣にジャンセンがいて、ジェシルと同じようにして机を押していた。それでも、机が少しだけ起き上っただけだった。
「ジェシル……」ジャンセンが苦しそうな声を上げる。「この机、何でこんなに重いんだ?」
「この重さが良くって手に入れたのよう……」ジェシルは言いながら力を込める。「何よ、手伝いにもなっていないじゃないのよう! これだから学者ってダメよね! 頭でっかちでさあ、体力がまるでないんだから!」
「ぼくのやっている学問はね、実地調査もあるし、結構体力を使うんだ」ジャンセンは言うと歯を食いしばり力を込める。「……だから、部屋の中だけの学者とは違う!」
「じゃあ、さっきの腰砕けは、何なのよう!」ジェシルも刃を食いしばり力を入れる。「……どうせ、実地調査って言ったって、遺跡を、ぶらぶらと、歩く程度、なんでしょ!」
「あれは、ちょっと油断しただけ、だ!」ジャンセンはさらに力を込める。「君だって、犯人を、目の前にしたら、後先も考えずに、跳びかかるだろう?」
「わたしは、そこまで、間抜けじゃないわ!」ジェシルも負けじと力を込める。「常に、命がけ、なんだからあ!」
「ぼくだって、命、がけだあ!」
 と、その時、机が起き上がった。勢い余って、二人とも天板の上に乗り上げてしまった。天板にしがみついているような格好のまま、呆然とした表情で互いを見つめ合った。
「ふふふ……」
「ははは……」
 同時に笑い出した。天板の上に座り直し、周囲を見回す。
「あ~あ。引き出しが散らかったままだわぁ……」ジェシルはため息をつく。「壊れちゃったのもあるし……」
「それで、机を起こして何をするんだ?」床に散乱した引き出しの破片や、散らかった引き出しの中身を見回しながら、ジャンセンが訊く。「片付けをさせるって言うんじゃないだろうな?」
「それもあるけど……」ジェシルは言いながら、散らかった床を見回す。ジャンセンはイヤな顔をした。「その前に……」
 ジェシルは目当てのものを見つけたようで、机から下りた。
「これよ!」
 ジェシルが床から拾い上げたのは、メルカトリーム熱線銃だった。それも、ドクター・ジェレマイア作製の特別仕様のものだ。この場合、特別仕様とは、違法性を含んだものと言う意味になる。
「これがあれば、怖いものはないわ」言いながら銃口をジャンセンに向ける。「訳の分からない事を言う従兄を黙らせることも出来るしね……」


つづく

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