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ジェシルと赤いゲート 11

2023年02月01日 | ジェシルと赤いゲート 
「怖いものはないって、どう言う意味だい?」ジャンセンは無意識に両手を上げながら訊く。その間もジェシルは不気味な笑みを浮かべている。「……まさか、本当にぼくを……」
「ふふふ…… 冗談よ」ジェシルは銃口を天井に向けた。ジャンセンは大きくため息をついて手を下ろした。「これから地下に行くんでしょ? さっきみたいな罠があったらたまったもんじゃないわ」
「まあ、確かにそうだけど……」ジャンセンは、はっとした顔をする。「でもさ、その銃で破壊しながら進もうって言うのかい?」
「命は大切よ」
「そうだけどさ、この仕掛けって過去の遺産なんだよねぇ…… 何百年経っているのかは調べてみないと分からないけど、それが起動したんだ。凄いとは思わないか?」
「凄いって……」ジェシルは呆れる。「あなた、命が危険に晒されたのよ? 分かっているの?」
「分かっているさ」ジャンセンは大きくうなずく。「でも、これも貴重な過去の遺跡だ。しかも動くんだぜ? 仕組みを調べてみなきゃ、気になるじゃないか」
「そんな事を気にしていたら、一歩も進めないじゃない!」ジェシルが再び銃口をジャンセンに向けた。「あなたも左右から飛び出して来る槍を見たでしょ? 他にも仕掛けがあるかもしれないわ。ご先祖はどうしても他人を入れたくないらしいから」
「でもさ、それを掻い潜って乗り込む事を期待しているのかもしれないぞ」ジャンセンは自分の思い付きが気に入ったのか、何度もうなずく。「うん、そうだ、そうに違いない」
「じゃあ、一人で行ってよ!」ジェシルはむっとした顔で言う。「何の準備も無く、気合だけで突破できるって言うんなら、行くが良いわ! 骨くらい拾ってあげるわ!」
「いや、それは……」ジャンセンが口籠る。「正直言って、無理だよ。ここは君の協力が無いと……」
「じゃあ、過去の遺産だの、歴史的資料だの、なんだのかんだのって言わない?」
「う~ん……」ジャンセンは腕組みをして考え込む。「一つ一つ調べてはみたいんだよなぁ……」
「そう!」ジェシルは言うと、熱線銃をショルダーバッグにしまった。「じゃあ、好きに調べてちょうだい。わたしはランチに出掛けるから。帰って来て、あなたの惨たらしい死骸でも見つけたら、葬式だけはしてあげるわ」
 ジェシルは言うと出入りの扉に向かった。
「分かった! 分かったよ!」
 ジャンセンが叫ぶ。子供の時から、ジェシルが強気に出ると必ず折れるジャンセンだった。ジャンセンに背中を向けたまま、ジェシルは勝利の笑みを浮かべた。
「たしかに、地下の部屋へ行って調査する事が目的だったからね」ジャンセンが言う。「そのために障害があれば、排除するのが正しいよ。ぼくにはその術がないからさ、ジェシルにお願いするしかない」
「最初からそう言えばいいのよ」ジェシルは笑みを押し隠し、逆に険しい表情を作って振り返った。「じゃあ、わたしの思う通りにするわね」
 ジェシルはバッグから熱線銃を取り出し、地下への階段の前に立つ。左右から突き出した幾本もの槍を忌々しそうに眺める。
「こんなに飛び出していたんじゃ、下りる事も出来ないわねぇ……」ジェシルは言うと熱線銃を構える。「な~にが、歴史的よ! な~にが、過去の遺産よ!」
 ジェシルは左右から突き出している槍に向かって引き鉄を弾いた。熱線が撃ち出され、槍は消失して行く。
「……あああっ……」
 後ろから聞こえるジャンセンの情けない声に、ジェシルは振り返る。
「何よ? 障害を排除するのは正しいんでしょ? ジャン、あなたがそう言ったのよね?」ジェシルはにやりと笑う。「それに、ここはわたしの屋敷よ。家主がどうしようと文句は言えないわよ!」
 ジェシルは言うと、再び地下への入り口に振り返り、熱線銃を撃つ。ジャンセンの悲しいため息を聞こえるが、ジェシルは知らん顔だった。
 突き出していた槍は無くなり、階段の左右の壁が焦げていた。
「さあ、行きましょう」ジェシルは言うと階段を降り始めた。「……それにしても暗いわねぇ。もう少し行ったら何にも見えなくなるわ。そうなると、また危険だわ……」
「そうだな……」ジャンセンが答える。「たしかに暗いと危険だ……」
「じゃあ、ここで止めちゃう?」
「いや、そうは行かない」ジャンセンは真剣な声で言う。「ぼくも腹を括ったよ。仕掛けに付いては、後で文献とか調べればおおよその事は分かるだろう。今は地下室へ行くのが最優先だ」
「そう、それは良かったわ」ジェシルは素直に喜ぶ。ジャンセンの良い所は、こうと決めたら曲げない所だ。しかし、それ以外は思い当たらない。「……だとしたら、尚の事、暗い中を進むのは危険だわね。懐中電灯じゃ、全体を照らせないし……」
「ははは、ジェシル、ぼくは現地調査もするって言っただろう?」
「言っていたわね」小馬鹿にしたようなジャンセンの笑いと口調が気に入らず、ジェシルはむっとした顔をする。「だから何よ?」
「今と違って、昔は便利な照明なんてなかった。松明とか蝋燭とか、そんな程度だ」
「そんな事、教えてもらわなくたって知っているわ!」
「だが、それじゃ、調査に物凄く支障をきたす」
「だから、そんな事分かっているってば! 聞きたいのは、どうするのかって事よ!」
「ふっふっふ……」自慢げな笑みを浮かべ、ジャンセンは鞄のかぶせを捲り上げ、手を突っ込んだ。「これを使うのだよ」
 ジャンセンがカバンから取り出したのは、白くて丸い、粘土のような塊だった。


つづく

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