お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 20

2023年02月25日 | ジェシルと赤いゲート 
 右側の扉に穴が開く。何も起こらなかった。
「ジャン、地下一階と同じく、な~んにも無かったわねぇ」ジェシルは意地悪さ全開でジャンセンに言う。「それとも、やっぱり熱線銃で仕掛けを破壊したのかしらぁ?」
「……まあ、それは後々調べる事にするよ……」ジャンセンは言うと、軽く咳払いをする。「とにかく、部屋に入って見よう」
 ジャンセンは言うと、すっと脇へと移動した。ジェシルに先に入るようにと促しているのだ。ジェシルは苦笑しながら、ジャンセンが手にしている発光粘土を取り上げ、扉の穴から先へと進んだ。ジェシルの身に何も起こっていない事を確認したジャンセンは、そろそろと扉の穴から入って行く。
 その際、左側の扉をそっと押した。
「うわぁ!」
 ジャンセンの悲鳴にジェシルが駈け付ける。発光粘土の灯りで、ジャンセンは扉の穴の所で座り込んでいる姿がぼんやりと見えた。どうやら腰を抜かしてるようだ。
「何やってんのよ? 足でも引っかけたの?」
 ジェシルは言いながら発光粘土をジャンセンに向かって差し出す。ジャンセンは真っ青な顔をして、左側の扉を指差していた。ジェシルは呆れた顔のまま、ジャンセンが指差す扉を見た。
「あら……」ジェシルが驚きの声を上げる。扉の手前の床が開いていたからだ。「何これ? 落とし穴?」
 ジェシルがジャンセンの顔を見る。ジャンセンはこくこくこくと何度もうなずく。ジェシルは開いた床の覗き込む。底が見えなかった。扉を押し開けたら床が開いて落ちて行く仕掛けだったようだ。ジェシルの熱線銃が右の扉の仕掛けを破壊したのだろう。
 ジェシルが銃を撃つ前にジャンセンが扉を押していたら、立っている床が開いて落ちて行っただろう。ジェシルは「わああああああぁぁ……」と断末魔の悲鳴を上げながら落ちて行くジャンセンの姿を思い描き、くすっと笑った。
「……何だよ、座り込んでいるぼくを笑うのか?」
 落ち着きを取り戻したジャンセンは立ち上がりながら言う。
「違うわよ。そんな事で笑ったんじゃないわ」ジェシルは答える。「……でも、あなたの臆病風のお蔭で助かったんだから、良いんじゃない?」
 ジャンセンは何か言いたそうだったが、ジェシルは無視して室内へと戻って行った。ジャンセンも後をついて行く。
「ジャン、もっと明るくしないと全体が見えないわ」
 ジェシルは言う。ジャンセンは鞄に手を突っ込んで発光粘土の塊を取り出し両手で捏ね始めた。眩いばかりの光が生じた。二人は思わず目を閉じた。
「ジャン、いくらなんでも発光させすぎだわ!」
 ジェシルは目を閉じたままでジャンセンに文句を言う。
「いや、粘土だけの明るさじゃないぞ」ジャンセンも目を閉じたまま言い返す。「周りが発光を反射しているんだ」
「どう言う事よ!」
「それだけ、きんきらきんって事だ!」
 ジェシルは少しずつ目を開ける。明るさに慣れた眼に飛び込んできた景色にジェシルは目を見張った。
 床や壁に金貨や金細工の装飾品がびっしりと、しかし、乱雑に散らかっていた。
「何よ、これぇ……」物事に動じないジェシルも、さすがにこの光景には驚いた。「ものすごいお宝じゃない……」
「そうだな」ジャンセンも目が慣れたようで、早速、積まれたお宝に近寄る。「……驚いたなぁ。地下一階の文献と同じく、時代も宙域もまちまちなものがごちゃごちゃに積まれている……」
「それって、ご先祖がだらしないって言っているのと同じよ」
「そうは言っていないよ。たださ、あまりにも乱雑すぎる。時代も宙域も……」ジャンセンは腕組みをする。「一体どうやってこれらを集めたんだろう? 宇宙で一番古い貴族って言うだけじゃ、説明がつかない……」
「それは、あなたたち学者が悩み苦しめばいいわ」ジェシルは言うと周囲をぐるりと見回す。「……あら、あれは何かしら?」
 ジェシルが目を留めたのは、人の体型を模した木型に着せられている金色の衣服だった。
 木型は明らかに女性をかたどったもので、左右の二の腕に五インチほどの長さ、両方の脛には十インチほどの長さの金色の腕輪が嵌められていた。足は金色のサンダルの様なものを穿いている。左右対称に開いた幾本もの鳥の尾羽のような装飾の付いた金色の布が大きく膨らんだ胸元を覆っていた。くびれた胴体は剥き出しのままで、同じ布で出来ていると思われる、脚の付け根辺りをほんの少しだけ隠すような短さのスカートの様なものを穿いていた。頭にはきらきらと光っている宝石が散りばめられた金色の宝冠が載っている。
「ああ、あれかい」ジャンセンが大して興味無さそうに言う。「あれは、古代に信仰されていた女神のアーロンテイシアの衣装だよ。きっとどこかの誰かが作ったんだな。まあ、信仰の対象にでもしてたんじゃないか? まあ、信仰なんてどうせ作り話だよ」
「あら、ジャンって随分と現実主義者なのね」
「信仰はそっち方面の専門家に任せるよ。ぼくはあくまで、歴史と文献の専門家だから」
「ふ~ん……」
「でも、この部屋のお宝は凄いな。ちょっと調べてみるかな」
 ジャンセンは言うと、座り込んで調べ始めた。「いや、違う!」と一人で叫んだり、「そうだよなあ……」と一人でうなずいたり、そうかと思うと目を閉じて考え込んだりで、ジェシルの存在をすっかり忘れているようだ。
 ……これだけお宝がごろごろあると、ありがたみが無くって、あんまり嬉しくないものねぇ。ジェシルはつまらなさそうな顔で周囲を見回す。
「……そうだわ」
 ジェシルはつぶやくとにやりと笑む。


つづく

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