お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 38

2023年07月28日 | ベランデューヌ
「アーロンテイシア様……」最長老のデールトッケが話しかける。「単刀直入に申し上げます……」
「そんなに畏まらないで良いわよ」ジェシルは楽しそうに言う。ジャンセンを言い負かしたのが嬉しくてしょうがない。「わたし、今とっても気分が良いから」
「わしらをお助け頂きたいのですじゃ……」
「え?」
 ジェシルは驚いた顔でデールトッケを見る。他の長たちも深刻な顔でうなずいている。ジャンセンも同じようにうなずいている。
「ここって色々と恵まれた土地なんでしょ?」ジェシルはジャンセンに自分たちの言葉で訊いた。「村の人たちも明るいし問題ないって感じだけど……」
「そうだけど……」ジャンセンが答える。「それ故に問題が起こったんだ」
「村の人たちを見ていると、そんな風には思えないけど?」
「長たちの所で話が止まっているからだよ。いずれは知られてしまうとは思うけどさ……」
「アーロンテイシア様」長の中では一番若いサロトメッカが一歩前に出る。「伝達者殿を解せずとも話が出来るのでしたら話は早い。我々、ベランデューヌの民をお救い下さい!」
「これ、サロトメッカ、いくらなんでも急性過ぎだぞ」神経質なボンボテッドがサロトメッカを諌める。「まずは、現状をお伝えし、知って頂く事だ」
「まあまあ……」つるつる頭に陽光を照り返させて、知恵者のハロンドッサがのんびりした口調で割って入る。「二人の気持ちはよく分かるがのう、ここは伝達者殿にお伝え頂こう。わしらが話しては感情が先に立ってしまうおそれがある」
「そうじゃな」デールトッケがうなずく。「わしも良い歳をして気持ちが急いてしまったわい……」
「なあに、それだけまだまだ若いって事だ」サロトメッカが笑う。「ベランデューヌに対する思いは皆一緒だ」
「……では、伝達者殿」ドルウィンが、話がまとまったのを受けてジャンセンに話す。「アーロンテイシア様へお話を……」
「分かりました」
 ジャンセンはそう答えると、ジェシルを少し離れた場所へと促す。長たちが、ジェシルにまとわりつく子供たちに、親の元へ戻るようにと諭す。子供たちは不承不承な顔をしながらも長たちに従った。ジェシルとジャンセンは歩き出す。長たちはジェシルとジャンセンの方を見ないようにして話をしている。

「……それで?」
 ジェシルは、ジャンセンが誘った場所まで行くと切り出した。
「ああ……」
 ジャンセンが曖昧に答える。
「それじゃ分かんないわ」ジェシルがむっとした顔をする。ずっと笑顔を強いていたので、久々な感じがした。「あなたの話だと、奇跡には関係なさそうだったけど?」
「まあ、確かに作物を実らせろとか雨を降らせろって類の話じゃないけど……」
「じゃあ、何なの?」ジェシルは困惑気味なジャンセンの表情を見て、ふざけた口調で続けた。「ひょっとして、あなたの一番嫌いな、戦いをするって言うような話かしら?」
「えっ!」ジャンセンは驚いた顔でジェシルを見る。「……いやあ、ジェシル、君、本当に神掛かってきたなぁ…… 的中だ……」
「えっ!」今度はジェシルが驚く。「……ちょっと何を言っているのか分かんないんだけど?」
「いや、そうなんだよ、戦いについての事なんだ……」
 ジャンセンが話し出す。
「このベランデューヌ地方は非常に恵まれた土地なんだ。でもね、それを囲むように広がる一帯は真逆なんだ」
「恵まれていないって事?」
「そう、土地も痩せていて、天候も日照りか大雨かのどちらかが長く続く。基本、ベランデューヌは農耕が中心で、周りは狩猟が中心なんだ」
「それは大変だわ…… だったら、そんな土を捨ててベランデューヌに来れば良いじゃない?」
「それがそう簡単には行かないんだ」ジャンセンは苦しそうな表情になる。「こう言う言葉は使いたくないんだけど、ベランデューヌって特権階級が住む事の出来る土地なんだよ……」
「特権階級?」ジェシルは思い切りイヤな顔をした。ジェシルが嫌いな言葉の一つだったからだ。「ここの人たちって、そう言う立場なんだ……」
「いや、でも……」ジャンセンは慌てる。「決してその事を鼻にかけているわけじゃないんだ。前にも言ったように、信仰心も篤くて穏やかな人たちなんだよ」
「じゃあ、受け入れてあげれば良いだけじゃないの。戦わずして収まるわ」
「長たちの話だと、受け入れの事は幾度も話し合いをしたそうだ。土地もまだ十分にあるからね。もちろん、それに応じた人たちも大勢いたそうだ。今では皆が区別なく暮らしている」「そう……」ジェシルは笑みを浮かべる。「それなら問題ないわね」
「でもね、ベランデューヌには絶対に来ないと言い張る、頑なな者たちもいるんだ……」
「僻み根性の塊みたいね。そんな連中は放っておけば良いんだわ!」
「来る者拒まずの態度でいるからね。結果として放っておく形になった」ジャンセンの表情が険しくなる。「それがますます周りの土地……ダームフェリアって言うんだけど、の者たちの怒りを増す要因となった」
「どうして? 自分たちがこっちへ来なかっただけじゃない?」
「そうなんだけどさ、彼らの土地、ダームフェリアに対して援助を差し伸べていない、ベランデューヌのヤツらは代々受け継いだダームフェリアを荒れ地にする事が目的なのだ、……そう思い込んだ」
「最低……」ジェシルは呆れた顔でつぶやく。「でもさ、ベランデューヌの方がダームフェリアに対して全てに圧倒しているんじゃないの?」
「まあ、そう言えるね」ジャンセンはうなずく。「ただ、ある出来事が起こったんだ……」
「ある出来事……?」
「うん……」ジャンセンはジェシルをじっと見つめて話す。「ダームフェリアにデスゴンと言う神が、少し前に現われたんだ」
「デスゴン……?」
「ああ、凶暴で戦いの大好きな禍神(まががみ)だ。性別は現われる時々で変わるらしいが、この度は女神の姿らしい。しかも、伝達者も付いている……」
「何ですってぇ!」
 ジェシルが大きな声を上げた。


つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ジェシルと赤いゲート 37 | トップ | ジェシルと赤いゲート 39 »

コメントを投稿

ベランデューヌ」カテゴリの最新記事