お話

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ジェシルと赤いゲート 40

2023年07月30日 | ベランデューヌ
 ジャンセンがジェシルの元へ着くと、長たちが立ち上がり歓喜の声を上げていた。ジェシルが助ける事を告げたのだろう。
「偉大なる女神アーロンテイシア様!」
 恰幅の良いカーデルウィックは叫ぶと、両手を広げて、今にもジェシルを抱きしめそうな勢いだ。
「こら、カーデルウィック! 罰当たりな事をするでない!」
 最長老のデールトッケが諌める。カーデルウィックはぽりぽりと頭を掻く。
「まあ、そうしたくなる気持ちは分かるがな……」
 ドルウィンは言うとジェシルをほれぼれとした表情で見る。
「ドルウィン、お前さんも不謹慎そうな顔つきだぞ!」
 長の中で一番若いサロトメッカが真面目な顔で言う。
「せっかくアーロンテイシア様がご助力下さるというのに、怒りを買うような真似は慎まれよ」
 神経質なボロボテットが唸るように言う。
「浮かれている暇はそれほどは無いと思う……」
 知恵者のハロンドッサは、自分のつるつる頭をぽんと叩いて言う。
 ジェシルは村の人々を見る。楽しそうに飲み食いをしている。
「……村の人たちは、ダームフェリアの事を知らないの?」
 ジェシルは、最長老のデールトッケに顔を向けて訊いた。
「左様ですじゃ。それぞれの村の民はまだ知りませんのじゃ」
「いや、幾人かは知っている」サロトメッカが言う。「オレの村の者で、使えそうで信用のおけるものに話したからな」
「何でそんな勝手な真似を!」ボロボテットがサロトメッカを睨む。「万が一村中に広まったら、何とするつもりだったのだ!」
「だから、信用のおける者たちにだけ話したって言っただろう? 相変わらず神経質すぎる」サロトメッカはうんざりした顔でボロボテットを見る。「それにな、遅かれ早かれ話は広まり、皆が準備をしなければならないだろう? その時慌てるよりは数百倍はマシだ」
「だからと言って……」
「まあまあ……」
 言い返そうとするボンボテットと、つかみかからんばかりのサロトメッカの双方を両手で制しながら、つるつる頭のハロンドッサ言う。「内輪でもめるのは良くはないな。しかも、アーロンテイシア様の御前だ」
 ボンボテットとサロトメッカは謝罪の気持ちで、ジェシルに向けて両の手の平を上に向け、頭を下げた。
「良いのよ、そんなに気にしないでちょうだい」
 ジェシルは微笑みながら言う。
 ジャンセンが背後からジェシルの背中をつついた。ジェシルが振り返る。
「ジェシル、もっと威厳のある口調にした方が良い」ジャンセンは真剣な顔をして二人の言葉で言う。「親しみやすさなんて、この時代の神には不要なんだよ。それに、そんな態度をしていると、君がアーロンテイシアではないって勘ぐられてしまう」
「でも、それは事実だわ」ジェシルも二人の言葉で返す。「それに、わたしは役者じゃないから」
「でもさ、さっき愛と慈しみの女神で闘神でもあるアーロンテイシアって自覚していたじゃないか」
「自覚はしているわよ」ジェシルは危険な笑みを浮かべる。「だから、さっさと暴れたいんじゃない」
「とにかく、威厳のある話方をしてくれよ」
「はいはい……」
 ジェシルは長たちを見回した。それから軽く咳払いをする。
「……皆の者、我は皆を救う所存だ。ならば今すべき事は何か? デスゴン率いるダームフェリアの動向と言う事になる」 
 がらりと態度を変えたジェシルに、長たちも背筋を伸ばし直立する。ジャンセンは安堵の息をついた。
「その点をご報告いたします……」ドルウィンが言う。「禍神デスゴンがダームフェリアに現われたのはおおよそ十日前。此度は女神の姿で現れたとの事でございます」
「ダームフェリアは元々が一人の長が束ねております」カーデルウィックが言う。「それだけ人も少ないのですが、皆凶暴で……」
「以前にも、幾度かベランデュームに撃って出て来たことがありました」サロトメッカが言ってにやりと笑う。「ヤツらは凶暴なだけで知恵が足りない。わたしとわたしの精鋭部隊で撃破しました。赤子の手をひねるようなものでしたよ」
「これ、言葉が過ぎるぞ」デールトッケが諌める。「……まあでも確かに、サロトメッカとその精鋭隊は、よう働いてくれましたわ。おかげで近頃は手を出して来る事は無くなったですじゃ」
「サロトメッカは、いっその事、ダームフェリアの者たちを全滅させるべきと主張しておるのですが……」ボンボテットがしかめ面をして言う。「それはやり過ぎと諌めております。いずれは彼らとも友好な関係となれるやもと思っております」
「そのぐだぐだの引き伸ばしが、今度の事に繋がっているんだぞ!」サロトメッカはボンボテットに声を荒げる。「神経質にも程がある! 後悔した時には我らが滅んでしまうわ!」
「これ、やめなさい」デールトッケが二人を叱る。「足並みが揃わなくば、アーロンテイシア様はお救い下さらんぞ」
「デスゴン神が現われ、ダームフェリアの長、ダランゴウはすぐに救いを求めましてなぁ……」ハロンドッサが相変わらずの呑気そうな口調で言う。「まあ、長が一人なだけに判断も速い。わしらとは違ごうておりますなぁ」
「それで、ダームフェリアはどうすると?」ジェシルが言う。「デスゴンと共に攻め込んで来るのか?」
「ベランデューヌには、まだ未開の地がありますので、そこを寄越せと言っておりますのじゃ。今なら乱暴はせんとか言いましてな」デールトッケが言う。「返答の機嫌は明後日でしてな。それで困っておりましたのですじゃ」
「素直に明け渡せと言う長もおります」サロトメッカがボンボテットを見ながら言う。「でも、それが引き金になって、更にあちこちを奪われて行くのは火を見るより明らかな事。デスゴン神と一体化したヤツらはすっかり増長しております」
「なるほど……」ジェシルは言うと、にやりと笑む。その笑みには殺気がある。「世話になった皆のため、わたしが返答をしに行こう」
「アーロンテイシア様お一人で?」サロトメッカが言う。ジェシルはうなずく。「それはいけません! わたしとわたしの精鋭部隊がお供致します!」
「いや、あなたは村々を守るべきだ」ジェシルが言う。「それとも、あなたはアーロンテイシアの力を疑うのか?」
「いえ、決してそのような事は……」
「ならば、話は決まりだ。返答をする場所を教えてもらいたい」
 ジェシルは言うと長たちから離れた。ジャンセンはジェシルを追う。


つづく

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