お話

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ジェシルと赤いゲート 39

2023年07月29日 | ベランデューヌ
「それって、わたしたちと一緒じゃない!」ジェシルは声を荒げる。「どう言う事なのよ! 説明しなしさいよ!」
「ぼくに怒ってもなぁ……」ジャンセンは困惑の表情でジェシルを見る。「とにかく、そのデスゴンはぼくたちと同じような状況下にあるんじゃないかとは推測できるね」
「と言う事は、研究者と……」
「その助手……」助手と言ったジャンセンをジェシルが殺気を込めたまなざしで見つめる。「……いや、その従妹……じゃなくって知り合い、いや、立派な援護者……」
「そうかも知れないわね」立派な援護者の言葉でジェシルの機嫌が直った。「ジャン、あなた、心当たりの人なんていない?」
「そうだなぁ……」ジャンセンは腕を組んで目を閉じ、考え込んでいる。しばらくして目を開けた。「……ごめん、思いつかない……」
「そうなの?」
「言えるのは、あの赤いゲートがいつの時代のものなのかって事さ。あんな凄い物、ぼくたちの時代だって作り上げるのは難しそうだ」
「じゃあ、未来って事?」
「かも知れない……」ジャンセンはゆっくりと言う。「でもね、古代においても信じられないほど高度な技術ってのが残されているんだ。継承されなくて、どうやったのかが全く分からないってものが結構ある」
「じゃあ、過去って事?」
「そう簡単には結論付けられないって事さ」
「だとしたら、デスゴンをやっている人と伝達者の人も、いつの時代の人か分からないって事?」
「そう言う事だね。会って話をしてみないと分からない……」ジャンセンは言うと軽く咳払いをした。「まあ、その正体は追々と言う事だけど、そのデスゴンがダームフェリアの人たちを扇動して、近々ベランデュームに攻め入ろうとしているらしい」
「まあ!」
「ダームフェリアの人たちは狩猟民族だから、武器を持った攻撃は得意のようだ。一方、ベランデューヌの方は農耕民族。ましてや争いなんか経験してはいない」
「ダームフェリアが一気に押し寄せたら、ひとたまりもないわねぇ……」
「そうなんだ。それで、ベランデューヌの長たちは相談をし合っていた。そこに……」
「わたしたちが現われた……」
「そう言う事だ。これは正に神のお導きだって思っている。しかも、君はアーロンテイシアの姿をしている。アーロンテイシアは愛と慈しみの女神だ」
「でも、それじゃ戦いには不向きな神のようね」
「そうでもないんだなぁ……」ジャンセンが言う。「アーロンテイシアは別の面も持つんだよ」
「どんな?」
「君にぴったりな側面だ」
「だから、どんな面なのよう!」ジェシルは怒って口調だ。「わたし、そう言う、焦らすような事って嫌いだわ!」
「そうそう、そう言う側面さ」ジャンセンはにやりと笑う。「怒らせたら闘神に変わるんだ。どうだい、君にぴったりだろう?」
「闘神……?」ジェシルはつぶやく。「……つまり、ぎったんぎったんに、ぐっちゃんぐっちゃんにするって事?」
「……その表現の意味は良く分からないけど、怒らせたら手が付けられないくらい暴れるんだ」
「そうなんだ……」ジェシルは言うと、殺気を帯びた笑みを浮かべる。「良いじゃないの……」
「聞いた話だと、君は宇宙パトロールでも、一番の暴れん坊だそうだね?」
「違うわ!」ジェシルは即座に否定する。「悪を許せないだけよ!」
「……まあ、良いや」ジャンセンが面倒くさそうに言う。「そう言うわけでさ、ベランデューヌの人たちは、アーロンテイシアが共に戦ってくれるようにとお願いしようとしていたんだ」
「闘神と化したアーロンテイシアね」ジェシルの笑みがさらに凄さを増す。「ふふふ…… わたしには大人しくて行儀が良いなんて無理だわね」
「うん、それはぼくが保証する。子供の頃の君は……」
「良いわ!」ジェシルはジャンセンの言葉を遮る。「わがまま勝手なダームフェリアの連中に、思い知らせてやるわ!」
 ジェシルは言うと、長たちの元へと向か追うとする。ジャンセンが慌ててジェシルの腕をつかんで止めた。思いの外、力が強い。
「何よ? わたしは今、とっても気分が良いのよ!」
「それは良いんだけどさ、君はあくまでもアーロンテイシアだからね。神様っぽい応対をしてもらわなきゃ困る」
「どう言う事よ?」
「地を出すなって事だよ」
 ジェシルはジャンセンを睨む。しかし、すぐに優しい笑みを浮かべて見せた。
「分かっているわよ。わたしは愛と慈しみの女神で闘神でもあるアーロンテイシアだものね」
 ジェシルは言うと長たちのもとへと向かう。
「……大丈夫かねぇ……」
 ジャンセンはため息をついて、ジェシルの後に従う。


つづく

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