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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 214

2020年12月19日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「おや、戻って来たね」
 生じた光を見ながらそう言ったのは、ナナの家のリビングに居るケーイチだった。
 光から、チトセ、ナナとタケル、アツコとタロウ、逸子とコーイチが順に現われた。
「やあ、兄さん」コーイチがケーイチに言う。「今戻ったよ」
「雰囲気としては、全て上手く行ったって感じだな」ケーイチが言いながらうなずこうとして、動きが止まった。光が消えたからだ。「……あれ? テルキさんは?」
「テルキさん…… ですか」ナナは言うと、にこりと笑んだ。「見つかりませんでした」
「ほー、そーかね」ケーイチは言うと、ナナの顔をじっと見てうなずく。全部了解と言った表情だ。「そうか、見つからなかったのか…… まあ仕方がないな。でも、コーイチが戻って来たから良しとするかな」
「どれもこれも、ケーイチさんのおかげです」ナナは頭を下げた。「色々とありがとうございました」
「はははは、気にする事は無いさ」ケーイチは笑う。「オレもタイムマシンに関して様々な事が出来て、感謝しているんだよ」
「あら?」アツコが周囲を見回す。「わたしの側近たちは?」
「彼らは、自分の時代に戻って行ったよ」ケーイチが言う。「自分自身を見つめ直す良い機会になるだろうとか言ってね」
「そう…… なんだか放っておいて悪かったわね」アツコは言って、いまだに下を向いているタロウを見る。「でも、それが良いかもね。自称、頭の良い男はわたしにくっついているだけだから……」
 とどめの刺すかのようなアツコの言葉に、タロウはソファにどっかりと座り込んでしまった。
「全てが終わりました……」ナナが言う。ふうっと大きなため息をついた。「全て……」
「そうか……」ケーイチは何度もうなずく。「……って事は、今晩は宴会だな!」
「え?」ナナは驚く。「ケーイチさんがそんな事を言うなんて……」
「オレはめでたい時にはめでたく騒ぎ主義だ」ケーイチは言うとチトセに向く。「チトセ、今晩は宴会だ。準備に掛かれ!」
「何だよう! 兄者は手伝わないのかよう!」チトセは口を尖らせる。「オレばっかりじゃ、大変だよう!」
「ま、手伝いたのだがな」ケーイチは言う。「もう少しやり残しがあるのだよ」
「ずるいぞお!」
 チトセの声を背に受けて、ケーイチはリビングを出て行った。地下の研究室へ向かったのだろう。
「宴会の準備が出来たって、教えてやらないんだからな!」
 チトセは言うとドアに向かってべえと舌を出した。
「まあまあ、そんな事は言わないで……」逸子が言う。「チトセちゃん、わたしも手伝うわ。一緒にやりましょう」
「うん…… で、他のオバさんは……」チトセはナナとアツコを見て、鼻で笑った。「まあ、仕方がないか…… 無理か」
 ナナとアツコは文句を言おうとしたが、言えなかった。二人とも料理が出来ないからだ。チトセはにやにやしながら逸子とキッチンへ向かった。ナナとアツコは口を尖らせている。その横で、タケルはぼうっと立っている。
「……タケルさん」コーイチがタケルに話かける。「ボクはあの綺羅姫と少しだけ一緒に居た。性格がきつい姫だったよ。その姫がテルキさんにめろめろだ。テルキさんなら大丈夫だよ」
「そうなんだろうけどさ……」タケルはため息をつく。「先輩、ボクの理想だったからなぁ…… でも、まさかなぁ……」
「ショックなのは分かるよ。……タイムパトロールの支持者だったんだからね」
「いや、それは、先輩の熱い想いを知っていたからね。さも有りなんって所なんだけどさ……」タケルは再びため息をつく。「でもさ、先輩が女性に惚れちまったなんてさ…… それもあんな気の強いお姫様が相手だよ。もう、驚きを通り越して呆れてしまったよ……」
「そう……」コーイチはぽりぽりと頭を掻く。……ため息の原因はそっちなんだ。コーイチもため息をつく。「……まあ、良いじゃないか。幸せそうだったしさ。タケルさんにもいずれそんな女性が現われるよ」
「コーイチさんには逸子さんがいるもんなぁ……」タケルは言うと、ちらっとナナを見る。「……ナナじゃなぁ…… 近々ボクの上司になっちゃうしなぁ……」
「わたしが何よ?」ナナが割って入ってくる。チトセにからかわれて機嫌が悪そうだ。「誰と比べて、何を言っているのよ!」
「いや、別に……」タケルは言うと、また、ため息をついた。「先輩……」
 コーイチはタロウを見た。タロウはソファにうずくまったまま、じっと空の一点を見つめている。
「タロウさん……」コーイチの声にタロウは顔を上げると、虚ろな眼差しを向けた。「あのさ、そんなに落ち込まなくても……」
「ふん!」アツコが鼻を鳴らしながらタロウの前に立った。「コーイチさん、甘やかさないで。タロウはね、何か上手く行かないと、直ぐこうなっちゃうの。小さい時からずうっとね。わたし、そんな態度、もう見飽きちゃったわ」
「そこまで言わなくっても……」コーイチは言う。「アツコさんのために命まで懸けようとしたじゃないか……」
 文句を言うコーイチの袖をつかんだアツコは、コーイチを部屋の隅にまで引っぱって行く。
「コーイチさん……」アツコは声を落とす。「わたし、タロウとは付き合いが長いのよ。あんなタロウの回復方なら熟知しているわ。……見ていてね」
 アツコはそう言うと、タロウの所に戻り、肩に手を置いた。タロウはゆるゆると顔を上げてアツコを見る。すると、アツコは飛び切りの可愛らしい笑顔をタロウに向けた。途端にタロウはにこりと笑顔を返した。ソファからすっと立ち上がる。
「コーイチさん!」タロウは元気な声を出す。「ボクなら平気だよ。落ち込んでいたなんて、コーイチさんの思い違いだよ!」
 タロウは言いながら、手足の曲げ伸ばしをして見せた。アツコはコーイチに目配せをすると、両手で口元を覆い笑いを堪えている。
「ははは…… それへ、良かったね」
 コーイチは呆れたように言う。


つづく

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