庭の桜

「おじいさん、今年も桜が綺麗ですねぇ……」
「そうだのう……　頑張ってくれたのう……」

　いつもの縁側に座って、いつもの満開の桜を二人で愛でる。雲一つない青空に淡い桜の花が映える。庭の桜の樹は決して大きなものではない。それでも、二人は満足気な表情で桜を見上げている。

「今年のは、いつもより花が多い気がするのう……」
「そうですねぇ、おじいさん……」

　ふわっと暖かい風が吹く。幾弁もの花びらが風に舞う。二人は舞う花びらを目で追う。

「綺麗ですねぇ、おじいさん……」
「毎年楽しみじゃのう……」

　そこへ嫁の孝子がやって来る。ちょっとあわてん坊だが気立ての良い孝子に、二人は優しい笑顔を向ける。

「あらあら、今年も桜が満開ね」

　孝子は言いながら、桜の樹を見上げる。

「……おじいちゃんもおばあちゃんも、この桜が好きだったわねぇ……」

　孝子は懐かしそうに呟くと、誰もいない縁側に降って来た桜の花びらを、手で庭へと掃き落とす。