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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 46

2020年04月25日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 逸子は買い物袋を開いた。最初の中には黒いTシャツが入っていた。続く大き目の袋には迷彩柄のジャケットとズボンが入っていた。さらに袋を開けると箱が入っていて、それを開けると黒い編上げのアーミーブーツ仕様の靴が出て来た。
「これは?」ケーイチは床に並べら得たこれらを見て楽しそうに言う。「昔観た映画の主人公みたいだねぇ」
「あら、お兄様、映画をご覧になるのですか?」
「アクションヒーローやヒロイン物が好きなんだ」ケーイチの目が輝く。「このブレスレットも、そんな思いが詰まっているんだよ」
「なるほど……」逸子はうなずく。「そう言えば、コーイチさんも好きですよね。兄弟って趣味が似るのかしら?」
「コーイチはテレビの戦隊物が好きだな」ケーイチはナナに振り向いた。「ナナさんの時代にも映画やテレビってある?」
「あります」ナナが答える。「でも、映画もテレビも、あんまり流行っていないですね」
「じゃあ、他に娯楽があるんだ」
「主にゲームでしょうかねぇ……」ナナは言う。「映画やテレビって受け側になってしまうじゃないですか。わたしの時代の人は受けるよりも自分から何かしたいって感じなんですよ」
「でもさ、ゲームだって結末はわかっているじゃないか。RPGなら主人公が勝つとか、パズル系なら全ステージクリアで終了とか」
「そうですね。でも、わたしは格闘型対戦ゲームが好きです」
「コントローラーで戦うのかい?」
「わたしの時代のものは、ゲーム用のスーツを着て、それがゲーム画面の自分の選んだキャラクターとリンクしているんです」
「と言う事は、ナナさんの動きに合わせてキャラクターが動くわけだ」
「そうですね。そして、打撃や蹴りが当たると衝撃が伝わってくるようになっています」
「痛くはないのかい?」
「好きな人は痛みを感じるように調整してますよ。わたしもそうですけど……」
「本格的だねぇ……」
「それに全身運動にもなるので、なかなか良いですよ」
「オレやコーイチには向いてなさそうだけど、逸子さんなら良いんじゃないかな?」
「そうですね」逸子はナナを見て笑む。「ナナさんと対戦してみたいです……」
「受けて立ちますよ」ナナもにやりと笑む。「この一件が終わってからですけど……」
「あ、そうだったわね! 格闘ゲームに夢中になっちゃったわ!」逸子が言う。それから並べた服を指差した。「ナナさんは、これに着替えてね」
「え?」ナナは驚く。「これって、逸子さん用じゃなかったでしたっけ? 楽しそうに買っていたから……」
「ふっふっふ……」逸子は胸を張る。「そう見せかけて、実はナナさんの服だったのよ。これから戦いになるでしょう? それに備えたのよ」
「そうだったんですか…… じゃあ、楽しそうにしてたのは?」
「着替えた姿を想像してたのよ」
「確かに、このスカート姿は動きやすいですけど、恥ずかしいですから……」
「そう言う事。じゃあ、着替えてね」
「はい」
 ナナは立ち上がって、両手を交差させて着ているTシャツの裾をつかんだ。
「うわっ! ちょ、ちょっと待ったあ!」
 ケーイチがあわてて立ち上がる。ナナは胸元近くまでTシャツを上げた姿勢でケーイチに振り返った。
「ナナさん! 手を放して!」逸子もあわてる。「見えちゃうわよ!」
「え? そうですか……」ナナは言うと手を放した。Tシャツが元に戻る。「何か不都合でもありました?」「とにかく、オレは外に出ているから!」ケーイチはあたふたと玄関に向かう。「終わったら呼んで」
 そう言うとケーイチは外に出た。逸子は呆れた表情でナナを見る。
「ダメじゃないの。男の人の前で着替えなんかしちゃあ。びっくりしちゃったわ」
「そうなんですか……」ナナはきょとんとしている。「わたしの時代は、全く気にしないんですよ。男性も女性も一人の人間ですから。この時代は、まだ男女平等、男女同権では無いんですか?」
「いえ、そんな事は無いんだけど…… まだ意識が伴っていない部分があるのかもしれないわ……」
「そうなんですね。気をつけます」
 ナナはそう言うと、Tシャツに再び手を掛けた。……確かに、もっと昔だったら、わたしやナナさんの着ているような服は大問題になっていたかもね。時代で色々と変わるのね…… 逸子はしみじみと思うのだった。


つづく
 

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