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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 30

2022年06月22日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
「辰! お嬢ちゃんを拾って、さゆりの所に持って行くんだ!」
 楓が辰に向かって言う。辰はむっとした顔を楓に向ける。
「おい、楓! お前が頭なのか?」辰は明らかに不機嫌な顔をしている。「力じゃオレ様の方が上だぜ」
「わたしの方がさゆりのそばに居るのが長いんだよ。当然、わたしが上だろうよ!」楓も不機嫌な顔を隠さない。「お前はわたしを姐さんって呼ばなきゃいけないんだよ!」
「オレ様だってな、泣く子も黙る『閻魔の辰』って呼ばれてたんだぜ!」辰は言うと薄ら笑いを浮かべる。「お前なんざ、生きている間はせいぜい場末の女郎風情だろうがよう!」
「ははは、そんな粋なもんじゃなかったよ!」静が笑う。楓はイヤな顔をする。「楓はね、騙した男に刺し殺されたんだよ。涙と鼻水とで顔をぐしゃぐしゃにして、命乞いをしてさあ!」
「何だってぇ?」辰が呆れた顔で楓を見る。「お前、本当か?」
「『お願い許して、わたしを好きにしていいからさあ。ほら、他の男を騙して貯めた金もあるから、それをやるよ。だからさあ……』とか、『お願い、やめて、殺さないで、やっぱりあんたが一番好きなんだよう』とか言って死んでったんだ」
 静は笑う。それに釣られて、ユリアも笑う。
「あはは! 何だい、それじゃあ『竜頭蛇尾』って感じじゃないの!」ユリアは楓を指差して笑いながら言う。「それで四天王に喰い込もうって言うんだ。さゆりの四天王って安いねぇ」
「婆あ! やかましいやい!」
 楓は叫ぶと長煙管を取り出し、振り回しながら静に突進した。その楓の前にすっとユリアが立ちはだかった。楓の足が止まる。
「何だい! お退きよ!」楓がいらつきながらユリアに怒鳴る。「この婆あは、わたしの手で始末してやるんだよ!」
「あのさあ……」ユリアが笑みながら楓に言う。「あんたじゃ無理だよ。あのばあさん(そう言って、ユリアは静を顎で示す)、かなりなものだよ……」
「おや、分かるのかい?」静は嬉しそうに言う。「……あんたも『ブラッディ・ユリア』って呼ばれてたんだねぇ。おっそろしい娘のようだ……」
「あら、ばれちゃった?」ユリアは静に振り返り、楽しそうに言う。「そうなのよね。相手を血まみれにするもんだからさ、返り血が目立たないように赤いセーラー服を着ているのよ。まあ、最期は四方から銃で撃たれて自分の血でまみれちゃったけどね」
 ユリアは言うと、その場でくるりと一回りして見せた。血の臭いがした。
「そんなわけだからさ、楓のおばちゃんが、そのおチビちゃんをさゆりの所に連れて行く役目だよ」ユリアは言うと、真顔で楓を見つめる。物凄い殺気を滲ませている。「とっとと行きなよ、おばちゃん……」
「わはは! 愉快、愉快!」辰が笑う。「これではっきりしただろう? 楓、お前はこの中では一番格下なんだよ! 格下は格下なりの仕事をするもんだ。この娘を連れて、さゆりの所に行きやがれ!」
 楓は言い返すことが出来ず、その場に立ちつくし、悔しそうに下唇を噛んでいる。
「早くしなよ、おばちゃん」ユリアが小馬鹿にしたように言う。「これから、この婆さんたちを葬るんだからさ。何時までもそこに居られたら、邪魔なのよね」
「そうだぞ」辰も追い打ちを掛ける。「さゆりが待っているはずだ。あまり待たせると、お前、消されるぞ。さゆりって気が短けぇからよ」
 楓は不貞腐れた顔で、倒れているさとみに近づいた。
「何で、わたしが……」楓はつぶやくと、うつ伏しているさとみを軽く蹴った。「元々は、お嬢ちゃんがいけないんだよ!」
 楓はわけの分からない事を言う。完全に八つ当たりだった。 
「……う、うん……」
 さとみが小さくうめいた。気がついたようだ。もぞもぞと動き出している。
「さとちゃん!」冨が、語気強くさとみに呼びかける。「起きて! そして、すぐに戻るのよ!」
「……ん? あああああ……」
 妙な声を上げながら、顔を上げた。それから、起き上がって、ちょこんと正座した。きょろきょろと周囲を見回す。最初に見えたのは楓の顔だった。
「あ、楓……」とろんとしていたさとみの目がぱっと見開いた。「楓、あなた、ひどいじゃない!」
「おや、お目覚めかい?」楓はからかう様に言う。「もっと眠っていると思ったよ」
「何を言ってんのよ!」さとみは楓が手にしている長煙管を指差す。「それでお腹を叩いてきたくせに! 寝てんじゃなくって、気を失わされたんじゃない!」
「ははは、そんなのはどっちでも良いのさ」楓は言うと、さとみに手を差し出した。「さあ、つかまりな」
「はあ?」さとみは驚く。それから疑り深そうな顔を楓に向けた。「その手をつかんだ途端に、煙管で叩く気なんでしょ? そんな事はさせないわよう!」
 さとみはべえと舌を出して見せて、自ら立ち上がる。その時になって、さとみは、祖母たちがいる事、そして、会った事の無い、しかし、邪悪そうな霊体が二体いる事に気がついた。さとみは、まだ状況が理解できず、小首を傾げている。
「さとちゃん!」冨が言う。「百合恵さんがね、さとちゃんの生身を車に乗せて、この辺まで来ているはずなんだ。だから、すぐに生身の戻りなさい!」
「え? そうなの?」さとみは言うと目を閉じる。自分の生身を感じる。それも近い所にあるのが分かる。「本当だ!」
「おい、おばさん!」ユリアが楓に向かって怒鳴る。「おチビちゃんをとっ捕まえて、すぐにさゆりの所に行くんだよ!」
「そうだ、それがお前の役目だろうが!」辰も怒鳴る。「ばあさんたちはオレ様たちに任せておけ!」
「うるさいねぇ!」楓は二人に向かって怒鳴る。「わたしは四天王なんてやめた! お前らみたいなヤツらにコケにされて黙っていられるかってんだ! おい、お嬢ちゃん! 生身が近くにあるんなら、さっさと戻るんだ!」
「おい、楓! お前、さゆりを裏切るのか!」辰が殺気を込めた眼差しで楓を見て言う。「そうなると、お前を消さなきゃなんねぇぞ!」
「良いんじゃない?」ユリアはくすくす笑う。「こんなおばさんが四天王の一人だなんて、恥ずかしくって困っちまうからさあ! 消した方が良いよ!」
「ふん!」楓は鼻を鳴らす。「わたしの得意は逃げ足の速さだよ! お前たちに捕まりっこないのさ! ……お嬢ちゃん! さっさと戻れって言ってんだろう!」
 楓はさとみの背を押した。と、同時に楓は姿を消した。逃げ出したようだ。
「とっとっと……」
 さとみは数歩けんけん跳びをすると、姿を消した。生身に戻ったのだ。
「じゃあ、わたしたちも消えるかね」
 珠子が言うと、三人もすっと姿を消した。
「ちっ!」辰は舌打ちをする。「みんな消えちまいやがった!」
「お楽しみは先になった方が楽しいじゃない」ユリアは手にしているチェーンクロスを一振りした。鋭い風切音が響く。「さゆりの所に戻って話してやろうよ。遅かれ早かれ、あいつら、さゆりの所に来るだろうからさ」
「でもよう……」
「ふふふ、『果報は寝て待て』って言うじゃない? やるだけやったんだから、良いのよ」ユリアは言う。「さあ、戻りましょう」
 二人も姿を消した。


つづく

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