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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 34

2022年06月26日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
 さとみは校長室の前に立つ。悪い事をしたわけではないが、校長室の前に立つのは良い気持ちはしなかった。深呼吸をしてドアをノックする。
 しばらくして、ドアが開けられた。それも、申し訳程度の幅だった。そこから顔を覗かせたのは、坂本教頭だった。
「綾部君……」坂本教頭はさとみの後ろを覗き見てから、じろりとさとみを見る。「君一人かね?」
「はい……」さとみは答える。「あのう…… 『百合恵会』のメンバーを集めた方が良いんですか?」
「いやいや!」坂本教頭は首を左右に振る。「もし、一緒だったら戻ってもらうつもりだったのだよ」
「そうだったんですか」さとみはうなずく。やっぱり考える事は同じなんだわ。「危険ですからね」
「え?」坂本教頭はきょとんとした顔をする。「いや、それもそうだがね、何せ、ほら、学校の良からぬ出来事だからね。あまり関係者を増やしたくないんだよ……」
「はぁ……」さとみは呆れたように返事をする。「それで、片岡さんと百合恵さんがいらしていると思うんですけど……」
「お、おお、そうそう!」坂本教頭は言うと、少しドアを広く開けた。余分なものは入れたくないと言う感じが嫌らしいまでに伝わる。「さあ、さっさと入りなさい」
 さとみはやや憮然としながら入った。
 校長室は綺麗になっていた。あんな事があったとは思えない。末松校長は、でんと自分の机の所に座っている。校長の机の前にあるソファに百合恵と片岡が並んで座っていた。テーブルを挟んで向かい合っているソファは空だった。そこに、坂本教頭が座っていたのだろう。 
「これはこれは、さとみさん!」片岡が優しい笑みを浮かべながら立ち上がった。「昨夜の出来事、百合恵さんから聞きました。危なかったですねぇ」
「はい、そうでした。わたしが軽はずみだったんです」さとみは答えてから、思い出したように頭を下げた。「あ、どうも、こんにちは!」
「ははは、相変わらず、さとみさんは愉快ですねぇ」片岡は楽しそうだ。「その明るさが、今回も重要になるかもしれませんね」
「……どう言う事でしょうか?」
「ここには恨み辛みの霊が集まっています。その悪感情を和ませられるかも知れませんよ」
「わたしが、ですか?」
「そう思っています」片岡は力強ううなずく。「さとみさんは、ご自身が思っている以上に強いのですよ」
「さとみちゃん」百合恵が声をかける。「それに片岡さんもお座りくださいな」
 百合恵は、前の空いているソファを示す。校長に確認を取る事も無かった。さとみがどこに座ろうかと迷っていると、百合恵はソファの真ん中を示し、そこに座らせた。さとみは躊躇いながらも座った。
「さて、これから重要な話し合いを致しますので……」百合恵は、校長と教頭を交互に見ながら言い、飛び切りの笑みを浮かべた。「お二人は席を外していただけません事?」
「え? そ、それは、あまりに……」
 坂本教頭が文句を言いながら、ドア付近からソファの所まで戻って来た。
「坂本教頭!」末松校長は、強い口調でそう言うと、だんと机を叩いて立ち上がった。「話を聞いてなかったのかね? 百合恵さんは何とおっしゃっていたかね?」
「……はあ……」坂本教頭は末松校長の剣幕に押され、弱々しい声を出す。「……重要な、話し合いが、と……」
「そうだ、そうおっしゃったのだ!」校長は教頭を睨みつける。「それに、君は文句を、難癖を付けようと言うのかね?」
「いえ、決してそのような……」
「今、この学校はどうなっておるのか、君も知らないわけでは無かろう?」校長はずかずかと教頭の前まで歩く。教頭は項垂れている。「今、我が校は、どうなっておるのかね?」
「……はあ…… あの…… 幽霊学園などと噂されかねませんです……」
「そうだろう? 君はそうなっても良いと言うのかね?」
「いえ、決して、そのような……」
「であればだ、我々は、百合恵さんと片岡さんのお力、さらには、我が校の優秀な生徒である綾部さとみ君の力に頼るのが重要ではないのかね?」
「おっしゃる通りで……」
「それに対し、君は、『そ、それは。あまりに……』などと口を差し挟んだのだよ? どう言う意味で言ったのだね? 君が皆さまのお役に立てると言う事なのかね? 君にも、そう言う能力があると言うのかね? そこまで言うんなら、披露してもらおうじゃないか、え?」
「いえ、わたしにはそんな能力など……」
「では、何のつもりで口を差し挟んだのかね?」
「学校の監督責任者として……」
「ほう! ほうほう!」末松校長は呆れたように変な声を上げる。「君が最高責任者だったのかね? それは知らなかったよ! だとしたら、校長のわたしは何になるのかね? 名ばかりの名誉責任者だったのかね? それは知らなかったよ! じゃあ、今後は君がすべて取り仕切ると良いだろう!」
「まあまあ、校長先生……」本当は成り行きを見続けていたかったのだろうが(百合恵は人が困っているのを見るのが好きと言う困った性格がある)、百合恵が割って入った。「教頭先生は、責任感がお強いのですわ。確かに、学外者のわたしたちが、行動をしようと言うのですから」
「いえいえ、わたしは皆様を全面的に信頼しておりますからな」校長は言うと、教頭を睨む。「少しの疑いを挟むような教頭とは違いますぞ。その点をお忘れ無きようにして頂きたいですな」
「ええ、心得ておりますわ」百合恵は言うと、笑む。「でしたら、先程申しましたように、席を……」
「ええ、ええ」校長は何度もうなずく。「外させて頂きますよ。喜んでね」
 校長は言うと、教頭に先に部屋から出るように指示した。教頭は無言で従った。校長はその後に続き、ドアまで進み、百合恵に振り返った。
「では、一時間ほど外していましょう。それで宜しいですか?」百合恵は「結構ですわ」と言ってうなずいた。「では、そう致します。……教育委員会の方々にお会いする事があったら、わたしが最大限に強力的だったとお伝えくださいませ」
「もちろんですわ」
 百合恵は笑む。末松校長は一礼すると部屋を出て行った。


つづく

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