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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 37

2022年06月29日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
 踊り場から四階へと階段を上がる。
 一歩一歩が重たい。三人とも表情が険しくなって行く。
「なんだか、イヤな感じですね……」さとみがつぶやく。「前に来た時と全然違っています……」
「そうね」百合恵もうなずく。「何だか、救いようがないって感じだわ」
「それは厳しいですねぇ……」片岡が言う。決して冗談で言ってるのではない事は、その表情から分かる。「……心して行きましょう」
 四階に着いた。不思議と霊体が見えない。
「どこかに隠れているのかしら?」
 さとみは階段から左右に伸びている廊下をきょろきょろと見回す。
「気配もないわねぇ……」
 百合恵も言いながら見回す。
「いいえ、良くご覧なさい」
 片岡は言うと、陽の当たっていない廊下の奥を指差した。
 やや薄暗いそこに、青白い光の点が見えた。点は次第に大きくなって行き、炎のようにゆらゆらと揺れ始めた。
「あれが檻への出入り口なんでしょうか?」さとみは片岡に訊く。「それとも、罠?」
「何とも言えませんね」片岡が答える。「とにかく、もう少し様子を見てみましょう」
「もし罠じゃなかったら、あの中にみんながいるんですよね?」さとみは次第に大きくなる青白い揺らめきを見つめて言う。「だったら……」
「ダメよ、さとみちゃん」百合恵が霊体を抜け出せようとするさとみの腕をつかむ。「自分でも言ったでしょ? 罠かもって。あんなにあからさまになっているんじゃ、どう考えたって、罠だわ。絶対に動いてはダメよ!」
「わたしも百合恵さんに同意ですね」片岡がうなずく。「いざとなったら、動けるのはさとみさんだけなのですから、慎重に参りましょう」
 さとみは気持ちを落ち着かせた。……そうだわ、ここで慌てちゃいけないわ。でも、すぐそばにみんながいるのに…… さとみは仲間の顔を思い浮かべる(豆蔵、みつ、冨美代、虎之助と、あともう一人、顔に靄がかかっているようではっきりしない)。
 と、目の前に三人の祖母が現われた。珠子と富は百合恵の前に、静は片岡の前に立っていた。
「あら、お婆様方」百合恵が笑みながら頭を下げ挨拶をする。「ちょうど良い所ですわ」
「そうかい」珠子が言う。「さとみちゃんが飛び出しそうな勢いだったねぇ」
「あら、ご覧になっていたんですの?」
「出来れば見ているだけにしたかったんだけど」冨がさとみを見る。「さとちゃんがちょっと心配になってね」
「あれは、やはり檻のようですね」片岡が百合恵とさとみに言う。「静さんがそう教えてくれました」
 静はちょっと得意気だ。珠子と富はうんざりした表情をする。
「静、そんな事は誰だって分かるんだよ」珠子がため息交じりに言う。「片岡さんの優しさに甘えるんじゃないよ」
「良いじゃないか」静は言い返す。「片岡さんは生身なんだからさ、守ってあげなきゃだろう?」
「だったら……」冨もため息交じりで言う。「百合恵さんもそうじゃないですか」
「百合恵さんは、あんたらで守りなよ」静は平然と言い放つ。「わたしじゃ二人を一辺に守るなんて出来ないからねぇ」
「わたしは守ってくれないの?」
 いつの間にか霊体を抜け出させたさとみが、腰に手を当て、ぷっと頬を膨らませて立っていた。
「さとみ……」静が言う。「お前くらいになれば、自分で何とか出来るだろう? なあ、みんな?」
 珠子も富もうなずく。さとみはますますぶんむくれる。その顔がおかしくて、皆が笑う。さとみの頬がさらに膨らむ。
「おい!」
 突然、大きな声が廊下中に響いた。皆が声の方を見る。
 青白い炎のように揺らめく光の前に、中肉中背の四人の男が立っていた。四人とも同じような顔をしている。また、お揃いにしているのか、真っ赤なぶかぶかで股下にゆとりのありそうなのズボンを穿き、上半身裸の上に真っ赤なボタンの無い短いベストを羽織り、足は真っ赤なサンダルだった。そして、四人とも厳つい表情を作って偉そうに胸の前で腕を組んでいる。
「サルエルパンツにジレって感じかしら?」百合恵が四人の姿を見てつぶやく。「でも、全然似合っていないわねぇ……」
 四人のうちの一人が前に出る。
「オレたちマハラジャ四兄弟を前に笑うとは、いい度胸じゃねぇか!」
「マハラジャ……?」さとみが言って、じろじろと四人を見た。「……わははははは!」
 さとみは突然笑い出した。祖母たちも笑い、百合恵も笑う。片岡も苦笑を浮かべている。
「何が可笑しいんでぇ!」前に出た男が怒鳴る。「オレたちをなめんじゃねぇぞ!」
「だって、だって……」さとみは一端我慢したが、すぐに吹き出してしまった。「……わははははは!」
「あんたらの姿がおかしいんだよ」静が言う。「元は漫才師じゃないのかい?」
「ふざけんじゃねぇぞ、婆さん!」男が言う。「地獄のマハラジャ、一郎(そう言った時、男は自分を指差した)、二郎、三郎、四郎の極悪兄弟と言えば、ちったぁ知られたワルだったんだぜ!」
「地獄…… 一郎二郎…… マハラジャ……」さとみはつぶやき、四人の顔を見回す。「……わははははは! ダメだわぁ! 面白すぎちゃってぇ!」
 さとみは相当つぼだったのか、からだを折り曲げて、涙を流しながら笑っている。
「ふざけんなよ!」一郎が怒鳴る。「オレたちは、辰兄ぃとユリアの姐御から、ここを守るようにって直々に頼まれたんだぜ。あのお二人から認められているんだ。どうだ、畏れ入ったかよ!」
「さゆりの四天王だね」静が言う。「あ、今は二天王だったっけ?」
「二天王……」さとみがつぶやき、また笑い出した。「わははははは! 何それぇ!」
 さとみの笑い声が廊下に響く。 


つづく



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