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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 11

2021年11月03日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
「こら! のぶったら! 何て声出してんよう!」
 朱音がしのぶを叱る。さとみも、はてなマークを頭上に浮かべまくった様な顔でしのぶを見ている。
「……先輩……」しのぶはふらりとさとみの方へ一歩近寄る。顔色が悪くなっている。「何にも見えないって、本当ですか……?」
「……ええ、本当よ……」さとみは恐る恐る答える。霊は怖くはないが、こう言う得体の知れない人間は怖いさとみだった。「何も憑いていないわ……」
「あの…… 見間違えとか……」
「のぶ! さとみ先輩に失礼でしょ! それに、先輩はちゃんと霊が見えるんだって話をしたじゃない!」
「だって……」
「……あのさぁ」少し落ち着きを取り戻したさとみがしのぶに向かって言う。「どうして、見間違えだって思うの?」
「だって、わたしには大守護神ヌトが守ってくれているんです」しのぶはきっぱりと言う。「それが見えないなんて……」
「あのさ、しのぶちゃん。その、ヌトって、なあに?」
「知らないんですか?」しのぶは呆れた顔をする。「先輩、霊が見えるんですよね? それなのに、知らないんですか?」
「うん……」さとみは何だか自分が悪いのかと思ってしまう。「ごめん……」
「ヌトって、エジプト神話における天空の女神です。ヘリオポリス九柱神に数えられる偉い神様です!」
「そうなんだ……」さとみは呆れてしまう。……神話の神様が、実際に居るわけが無いじゃないの。でも、真剣な眼差しのしのぶにはそれは言えない。言ってはいけない。「じゃあ、今日はお休みなんじゃないかしら?」
「ああ、なるほど……」しのぶはうなずく。「聖書の神様も休んでいますもんね。ヌト神も、そうしますよね」
「そうね。きっとそうだわね」
 さとみは言いながら、何だか妙な脂汗が浮かんでくる。しのぶは「う~ん、そうか~、お休みか~」と、ぶつぶつつぶやいている。いつの間にか隣に立つ朱音が、さとみの制服の袖を引っ張る。
「なあに?」
「……先輩、のぶの事、変な娘って思ったでしょ?」
「う~ん…… まあ、ちょっとだけ……」
「先輩って、優しいんですね」朱音は妙に感心したように言う。「誰もがのぶを薄気味悪がるんですよね」
「あら、朱音ちゃんは気味悪がらなかったの?」
「のぶって、ああ見えて、すんごく頭が良いんです。特に数学が。なんで、勉強を教えてもらっているんです」
「……教えられるの?」
「先生より上手く教えてくれます。……ただ……」
「ただ?」
「いわゆる、心霊モードに入っちゃうと、ああなっちゃうんです……」
 ある晴れた日の昼休みに屋上で朱音はしのぶから勉強を教えてもらっていた。が、いきなりしのぶがあらぬ方を見つめていた。そこに居たのがさとみだった。麗子とアイに何かを言っている所だったらしい。途端にしのぶは「あの人、霊が見えるわ……」と、さとみを指差して言ったのだ。それからしのぶは慎重に調査を開始し、さとみの事を調べたようだ。
「それからは、事ある毎に先輩の話ばっかりしちゃって……」朱音がうんざりした顔をする。「だから、わたしは言ったんです。『だったら、直接、先輩に話をすれば良いじゃないのよう』って」
 朱音は続きを話さなかった。
 朱音がしのぶにそう言った時、しのぶは顔を真っ赤にして言い返してきた。
「……そ、そんな事、出来るわけないじゃない。お話しするなんて、恥ずかしいわ……」
「何、その反応? まさか、のぶ、あなた、さとみ先輩が好きなの?」
 からかい半分で朱音が言うと、しのぶは真っ赤な顔のままでうなずいた……
「……のぶって、緊張しやすいんですよ、さとみ先輩」朱音はさとみに言う。「だから、ちょっと変に見えますけど、あれは緊張しているからなんです。馴染んでくれば、平気になると思います……」
 恋焦がれてしまった先輩の前だから緊張しているとは言えない朱音だった。
「ふ~ん……」さとみは言うと、しのぶを見た。「ま、わたしだって初対面の人だと緊張するわ。朱音ちゃんは別みたいだけど」
「すみません……」
「良いのよ、気にしないで。いろんな人がいるって事ね」さとみは笑顔をしのぶに向ける。「しのぶちゃん……」
「は、はい!」突然名前を呼ばれてしのぶはさとみを見た。さとみの笑みに顔を赤くする。恋焦がれる女子高生と言った表情だ。「何でしょうか……」
「あら、少し落ち着いた? でも、顔が赤いわね」
「いえ、あの、はい……」しのぶは下を向く。「はい、落ち着きました……」
「良かったわ」さとみはうなずく。「で、さっきの話、校舎の一番北の階段の話なんだけど、教えてくれる?」
「はい!」
 しのぶは顔を上げた。さっきまでの恋焦がれる女子高生の顔ではなかった。……うわぁ、心霊モード全開! 朱音は思った。 


つづく  

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