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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 35

2022年06月27日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
「やれやれ……」百合恵は閉まったドアを見てため息をつく。「……まあ、校長先生って言うのも、大変な仕事なのねぇ……」
「ははは」片岡は笑う。「あの方、校長先生には、全く悪気はないようですね」
「でも、教頭先生がかわいそうです……」さとみは言う。「ずっと怒られていました……」
「ほほほ、さとみちゃんは優しいのねぇ」百合恵は笑う。「気にする事無いわ。今頃、校長先生は教頭先生に謝っているはずよ。そして、教頭先生も理解しているわ」
「そうなんですか?」さとみは小首を傾げる。「わたしなら、あんなに言われたら、泣いちゃいます」
「そこが、大人の世界なのよ」百合恵は言うと、意味有り気に微笑む。「まあ、今のさとみちゃんには関係ない事だわ。それよりも……」
 百合恵は片岡に顔を向ける。片岡は真顔になってうなずく。
「わたしからの話は二点あります」片岡は言う。相変わらず優しく静かな口調だ。「一点目は、さゆりを封印する事です」
「封印、ですか……」さとみはつぶやく。「わたしは、何とかあの世に逝ってもらえればって、思っていたんですけど……」
「それが出来れば一番良いのでしょうが、今のさゆりは荒ぶる霊となりつつあります」片岡は口調を変えずに言う。それがかえって真実味を増している。「百合恵さんのお話では、かなりの強さの側近が二体ついているそうですね。多分、さゆりの悪鬼、邪気に吸い寄せられて来たのでしょう。強い霊を吸い寄せるのですから、さゆりもかなりなものと見た方が良い」
「だからね、それだけ強くなっちゃうと、あの世には逝かないわ」百合恵が言う。「だから、封印するのが精一杯なのよ」
「そうなんですか……」さとみは言う。「何とか出来ないんでしょうか?」
「さとみさんの優しい気持ちは素晴らしいですが、今回は難しいでしょうね」片岡はじっとさとみを見つめる。「それに、さとみさんのその優しさを利用して、さとみさんを苦しめる事もしそうです」
「そうですか……」さとみは青褪める。「怖い……」
「さとみちゃん、さゆりは、多くの碌で無しどもの持つ恨み辛みを塊にしたようなものよ。生身のアイちゃんを攻めることが出来る力もあるし、静さんに対抗する力もある。言ってみれば、無敵な感じよ」
「そうですね。ですから、しっかりとプランを練らなければなりません。さゆりは封印すると言う方向で行こうと考えています」
「……分かりました」さとみは答えた。「わたしもそのつもりでいます。変な情けはかけないようにします」
「それが良いでしょう。さとみさんには不本意かも知れませんが」
 片岡は言うと、スーツの内ポケットに手を入れ、何かを取り出した。手をさとみに向かって差し出して広げた。そこにはペンダントが乗っていた。細い金の鎖に白い大きな勾玉(まがたま)が付いていた。さとみは怪訝な表情でペンダントを見つめる。
「さとみさん、これを身に着けていて下さい」片岡は相変わらず優しく微笑んでいる。「完璧と言う訳ではありませんが、ある程度は守りとなるでしょう」
「え? はい……」さとみは受け取った。「ありがとうございます。終わったらお返しします」
「ははは、さとみさんは良い娘さんだ」片岡は笑う。「ご両親が良い方々なのでしょうね」
「いいえ、とんでもない!」さとみは即座に否定する。そして、ぷっと頬を膨らませる。「わたしを、いっつもからかってばかりなんですよ!」
「そう?」百合恵が言う。「わたしには愛情たっぷりなご両親に見えるわよ」
「きっと、外面が良いんです!」
「ははは、こんな時なのに、なごんでしまいましたよ」片岡は楽しそうだ。しかし、また気を引き締めるように真顔になった。「……普段はともかく、屋上に行くときには、必ずそれを首に掛けておいてください」
「分かりました、ありがとうございます」
 さとみは礼を言ってからペンダントを見る。ほんのりと光っているようで、気持ちも何となく落ち着いて来る。
「それで、片岡さん……」百合恵が訊く。「封印ってどのように?」
「それはわたしに考えがあります」片岡が言って笑む。「ただ、ちょっと準備が必要でしてね。それが整うまで、さとみさんには、屋上に行くのを慎んでもらいたいのです」
「出来るわよね? さとみちゃん?」百合恵がさとみを見る。さとみは大きくうなずく。「では、一点目はそれで何とかなりますわね」
「そうですね」片岡もうなずく。「では、二点目ですが、さとみさんのお仲間の霊体たちの解放です」
「え!」さとみは言うと立ち上がった。「みんなを助けられるんですか!」
「わたしはそう思っていますよ」片岡が答える。「お仲間は閉じ込められているのです。今風に言えば、異次元と言うんでしょうか、強い力を持つ霊体が生み出した檻の様な中にいると思われます」
「檻、ですか……」さとみはつぶやく「……そう言えば、ミツルって言う霊体が現われた時に、わたしは、ミツルの作ったコレクションルームに閉じ込められたことがありました。窓もドアも無い部屋でした。……そんな感じなんでしょうか?」
「そうですね」片岡が言う。「檻は、作り出す霊体によって形は違うようです。自分の好みがあるのでしょうね。宮殿の様なものもあれば、陽の当たらない地下牢のようなものまで」
「うわぁ……」さとみは思い切りイヤな顔をする。「早く助けてあげなくちゃ!」
「でも、その前に、それがどこにあるかが分からないと、助けようもないわ」百合恵が言う。「さとみちゃん、分かる?」
「……」さとみは目を閉じて、おでこをぺちぺちし出した。しばらくしてその手が止まる。おでこに手を当てたまま、百合恵を見る。「……ダメです。分かりません……」
「さとみさん、そのコレクションルームはどこにありました?」片岡が訊く。百合恵は真っ赤になったさとみのおでこを見て笑いを堪えている。「突然それが現われたのですか?」
「いえ、北校舎にわたしが霊体で行った時でした……」さとみは言うと、はっと目を見開く。「そうだ、北校舎! あそこって、霊の力が強くなるんです。きっとみんなは北校舎に居る強い霊体に捕まっているんです!」
「なるほど、それは充分に考えられますね……」
 片岡はうなずくと、立ち上がった。百合恵も立つ。
「さとみちゃん、行ってみましょう」百合恵が言って笑む。「さゆりよりも、やり易いと思うわ」


つづく

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