お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

裏シャーロック・ホームズ その6

2008年09月05日 | 裏ホームズ(一話完結連載中)
 日々是平和。
 最近は犯罪の無い日々が続いていた。ロンドンの晴天続きと同じくらい珍しい事だった。
 わたしは座り心地のよい暖炉の前の椅子に腰掛けて、ホームズを見た。ホームズは、此処のところ憮然とした表情を崩さなかった。今日も無言のままパイプを燻らせている。
「ホームズ、平和ならそれに越した事はないじゃないか」
 わたしは皮肉っぽく言った。
 ホームズはゆっくりと顔をわたしの方へ向けた。煙を大きく吐き出すと立ち上がり、外套をつかんだ。
「どうするんだい?」
「決まっているじゃないか!」
 ホームズはそう言うと、ドアを開けた。それから、わたしの方に振り返り、にやりと笑いかけ、
「レストレイド警部も、このままではスコットランド・ヤードの連中が錆び付いてしまうと、ぼやいていたよ」
と言い置いて、外へ出て行った。
「明日の朝刊の見出しが楽しみだな・・・」
 閉じられたドアを見つめ、階段を駆け下りる靴音を聞きながら、わたしは独り呟いた。
 ・・・『謎の密室殺人、その方法とは?』あるいは『秘宝盗まる、怪盗出現か?』そして『スコットランド・ヤードの奮闘を祈る』・・・新聞の活字も躍り、レストレイドも躍る。
 確かに平和は歓迎されて然るべきものだ。しかし、犯罪捜査を生業としている者には歓迎にも程がある。
 つまり、ホームズの敵は決して犯罪ばかりでは無いと言う事だ。このような平和も大いに憎むべき敵なのだ。犯罪と平和の程好いブレンド、これがホームズの求めている状態なのだ。
 そのためには、自分でブレンドする事も辞さないホームズなのだった。




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