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裏シャーロック・ホームズ その15

2020年02月22日 | 裏ホームズ(一話完結連載中)
「ホームズ! 事件だよ!」わたしは勢い込んでホームズに言った。「死体のそばの壁に血塗られた指紋が付いているんだ!」

「指紋か……」ホームズは面倒臭そうに言った。「その手のものはジョン・イヴリン・ソーンダイク博士に任せると良いさ。緑色の鞄の『携帯実験室』で、たちどころに指紋の主を見つけてくれるさ」

「でもね、ホ-ムズ。この事件は、容疑者がたくさんいるようだ。調査のしがいがあるだろう?」

「ぼくは誰とでも親しくなれるタイプじゃない」ホームズはしかめ面で答えた。「愛想が良くて、誰とでも親しくなれるストランド街の探偵、マーチン・ヒューイット氏に任せると良いさ」

「でも、事件の経過は全て分かっているんだぜ。君なら話を聞くだけで解決できるんじゃないか?」

「そこまで分かっているんなら、ノーフォーク街の『ABCショップ』の隅の席に座っていて、紐で結び目を作ったりほどいたりしている老人に任せると良いさ」

「そう言うなよ、ホームズ」わたしは言って、記事の載っている紙面を軽く叩いた。「じゃあ、記事を読み上げるからさ、聞いてくれよ」

「読むのを聞くなんて! 君が絶対に読み間違わないと言えるかい? それに、感情がこもった読み方をされたら、ぼくの理性を惑わす以外の何物でもないよ」ホームズは言った。わたしはいささか気分を害したが、敢えて言わなかった。「指先で記事を読める盲目の探偵マックス・カラドスに記事を渡せばいいだろう。従僕のパーキンソンは記憶術の天才だったよな? 一瞥しただけでその全てを詳細に観察・記憶できる能力を持っているはずだ。良い相棒だよ。彼らに任せると良いさ」

「でも、なかなかな犯罪だと思うんだけどな……」わたしは未練がましく言った。「これはプロの仕業かも知れない……」

「だったら、紳士泥棒として名高いA・J・ラッフルズの仕業じゃないか? それともフランスのアルセーヌ・ルパンかな」ホームズは大あくびをした。「入り組んだトリックだと思うんなら、思考機械の異名を持つオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン教授にでも頼むんだな。宗教がらみならカトリックのブラウン神父を訪ねると良い。異国の探偵が御所望ならフランス人の若手記者ジョゼフ・ルルタビーユも良いな。探偵の元祖のC・オーギュスト・デュパンも居るぞ。他にも色々居るだろう?」

「ホームズ……」わたしは投げやりなホームズに溜め息をついた。「一体どうしたんだい? いつもの君らしくないぞ」

「ワトソン……」ホームズはうんざりした顔をしながらわたしを見た。「探偵が多い、多すぎるんだよ! 探偵と言う貴重な職業が一般的な職業になってしまった! そのうち、優秀な警官が出てきたり、子供が探偵になったり、探偵団なんてものが出来たり、ドンパチの大好きな探偵が出てきたりするのさ! もうイヤになってしまったよ……」

 時代と共に増えて行く探偵たち。わたしはホームズの言葉に未来の探偵を思い浮かべていた。

「……でも」わたしは慰めにもならない言葉を言った。「始まりは君だよ、ホームズ」

 ホームズは力なく笑った。  

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