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コーイチ物語 「秘密のノート」 138

2022年09月25日 | コーイチ物語 1 16) 華麗なる挑戦
 コーイチはそろりそろりとスミ子に向かって手を伸ばした。スミ子は鼻ちょうちんをふくらましたりしぼめたりを繰り返し始めた。……こりゃあ、熟睡中だぞ。弱ったなあ、こんな状態で起こしたら、指を挟まれるだけじゃすまないぞ……
「あのさ……」コーイチはゴクリと喉を鳴らしてブロウを見た。「スミ子、熟睡中なんだけど、起こしたら危険だよね?」
「そうね、危険ね」シャンが楽しそうに言った。「でもね、コーイチ君も危険な状態よ」
 ……そうだった! すっかり忘れていた! コーイチは思わず目覚まし時計を見た。
「もう何時間か経過しちゃったわよぉ」シャンが言って、コーイチにぐいっと顔を寄せ、小声でささやいた。「スミ子に手間取っている場合じゃないわ…… ちゃっちゃっと片付けましょうよ……」
「あ、ああ、そうだね……」コーイチはシャンを見つめながらうなずいた。「ちゃっちゃっと片付けてしまおう……」
 コーイチはためらう様子もなく、またスミ子に手を伸ばした。
 それを見ていたブロウがあわてて声をかけた。
「コーイチ君! 気をつけて! お姉様が何かしたわ!」
 言い終えるとパンパンパンと手を打ち鳴らした。その音を聞いたコーイチは、はっと我に返り伸ばしていた手を引っ込めた。
「お姉様、コーイチ君に余計な事をしないで!」
 ブロウが言ってシャンをにらみつけた。シャンは「えへへ……」と笑いながら、右の人差し指をピンと立てて左右に振って見せた。……危なかった! ボクに魔法をかけて、無理矢理にスミ子を起こそうとしたんだ。  
「でもね」シャンは笑顔のままで続ける。「あんまりのん気にしてられないわ。スミ子の気分でページ数が変わっちゃうんだから、時間はいくらあっても足りないかもよぉ」
「え?」コーイチが聞き返した。「それって……」
「あのね……」ブロウが溜息をついて言った。「スミ子は見た目は四十ページくらいの薄っぺらなノートじゃない?」
「うん、確かに」
「でも、ページ数はスミ子の気分次第なの。四ページで終わる事もあれば、何千、何万ページにもなる事があるの」
「じゃあ……」コーイチは呆れたような顔でシャンを見た。「時間がいくらあっても足りないかもって、そう言う事だからなのかい?」
「そう言う事よ。それに、この寝起きの悪いスミ子じゃあ……」シャンが脅すような表情でコーイチを見た。「何千、何万ページの可能性の方が大きいわよねぇ……」
「もう、お姉様ったら!」ブロウがふくれっ面で言った。しかし急に考え込むように続けた。「……でも、今は起こすのが先決問題よね……」
 ブロウは不意にコーイチの右手を取って、スミ子の上に力任せに撃ち付けた。ばしんと激しい音がした。コーイチの手の平に痛みが走り、あわてて手を引っ込めた。
 力任せのコーイチの手の平と堅い座卓に挟まれ、いきなり目を覚まさせられたスミ子は、座卓の上で何度も飛び上がりながら、開いたり閉じたりを繰り返した。それが納まると、ページを大きく開いて、コーイチに目がけて飛んだ。
「うわわわわ!」
 コーイチは後ろへでんぐり返しをしながら、スミ子の攻撃をかわした。スミ子はコーイチの座っていた場所に留まっている。スミ子は威嚇するかのように開いたり閉じたりを繰り返しながら、コーイチの方へにじり寄って来た。
「がんばって! コーイチ君!」シャンがどこから取り出したのか、真っ黒の小旗を両手に持ってぱたぱたと振りながら言った。「応援してるわよ!」
「そ、そんなぁ~!」
 コーイチが情けない声で叫ぶと同時にスミ子が飛びかかって来た。

       つづく

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