コーイチは座卓に向かい、開かれているスミ子をきっちりと左手で押さえ、ブロウからもらった金色のペンを右手でしっかりと握り、ゆっくりとペン先を近付けた。
シャンとブロウも息を凝らして、じっとペン先を見つめていた。
そのペン先があと少しと言う所で止まった。二人の魔女は驚いた顔でコーイチを見た。コーイチは困ったような顔を二人に向けた。
「あのさ……」コーイチはためらいがちに言った。「……名前を書くように言ってくれたけど、誰の名前を書けば良いのかな?」
姉妹は顔を見合わせ、大きなため息をついた。
「あのね」シャンが諭すように言った。「名前なんて、誰のでも良いのよ」
「そうそう」ブロウもうなずきながら言った。「誰のでも良いのよ」
「じゃあ……」コーイチは腕を組んで考え込んだ。「……岡島の名前でも良いのかなぁ?」
「ダメ!」
「やめて!」
二人はこわい顔になって同時に叫んだ。
「うわあ、ごめんなさいっ!」
コーイチは二人の剣幕に思わず謝ってしまった。
「コーイチ君を怒ったわけじゃないのよ……」シャンは穏やかな声で言ったが、こわい顔のままだった。「あの人の上から目線のオレ様顔が嫌い!」
「私は性格が嫌い!」ブロウもふくれっ面で言った。「魔女の世界からコーイチ君を覗くと、いっつもあの人が絡んでいるだもの、大っ嫌い! 何一つやり遂げられもしないくせに、文句と愚痴だけは人一倍なんだから! あんなヤツに良い目を見させることは無いわよ!」
「そうよ、あんな人、エベレストの頂上がお似合いよ!」
「あら、お姉様、あれをそんな所へ?」
「ええ、今頃カチンコチンよぉ、んふふふ……」
「それはさすがに気の毒よ」ブロウの眼が妖しく光った。「毛皮くらいはサービスね」
「どれどれ……」シャンはエベレストの頂上にいる岡島を透視するかのように目を閉じ、しばらくして目を開いて言った。「毛皮くらいって、こんなにモコモコゴワゴワの着ぐるみじゃ、まるで『雪男』じゃないの!」
「お似合いじゃない、あんなヤツなんだもの!」
「そうね、あんなヤツだもんね!」
二人はさも面白いと言ったふうにキャッキャッと笑った。
「じゃあ……」コーイチがおずおずと口をはさんだ。「岡島以外なら良いのかい?」
「もちろんよ!」ブロウが笑顔で答えた。「会社の名簿があるでしょ? あれを使えば良いわ」
「えええ? 名簿かぁ…… 大丈夫かなぁ……」
コーイチは不安そうな声を出した。
「大丈夫」シャンも笑顔で言った。「さっき話したでしょ? スミ子の大好物をあげるんだもの、決して悪い事はしないわ」
「そうよ、わたしたちを信じて……」
ブロウは可愛い笑顔を浮かべながらそう言うと、コーイチの手に自分の手を重ねた。ひんやりとしていながら柔らかい感触だった。コーイチの鼓動が早まった。
「うん、分かった」
コーイチが答えるとブロウは重ねていた手を離した。
コーイチは床にあった会社の社員名簿を拾い上げた。
つづく
シャンとブロウも息を凝らして、じっとペン先を見つめていた。
そのペン先があと少しと言う所で止まった。二人の魔女は驚いた顔でコーイチを見た。コーイチは困ったような顔を二人に向けた。
「あのさ……」コーイチはためらいがちに言った。「……名前を書くように言ってくれたけど、誰の名前を書けば良いのかな?」
姉妹は顔を見合わせ、大きなため息をついた。
「あのね」シャンが諭すように言った。「名前なんて、誰のでも良いのよ」
「そうそう」ブロウもうなずきながら言った。「誰のでも良いのよ」
「じゃあ……」コーイチは腕を組んで考え込んだ。「……岡島の名前でも良いのかなぁ?」
「ダメ!」
「やめて!」
二人はこわい顔になって同時に叫んだ。
「うわあ、ごめんなさいっ!」
コーイチは二人の剣幕に思わず謝ってしまった。
「コーイチ君を怒ったわけじゃないのよ……」シャンは穏やかな声で言ったが、こわい顔のままだった。「あの人の上から目線のオレ様顔が嫌い!」
「私は性格が嫌い!」ブロウもふくれっ面で言った。「魔女の世界からコーイチ君を覗くと、いっつもあの人が絡んでいるだもの、大っ嫌い! 何一つやり遂げられもしないくせに、文句と愚痴だけは人一倍なんだから! あんなヤツに良い目を見させることは無いわよ!」
「そうよ、あんな人、エベレストの頂上がお似合いよ!」
「あら、お姉様、あれをそんな所へ?」
「ええ、今頃カチンコチンよぉ、んふふふ……」
「それはさすがに気の毒よ」ブロウの眼が妖しく光った。「毛皮くらいはサービスね」
「どれどれ……」シャンはエベレストの頂上にいる岡島を透視するかのように目を閉じ、しばらくして目を開いて言った。「毛皮くらいって、こんなにモコモコゴワゴワの着ぐるみじゃ、まるで『雪男』じゃないの!」
「お似合いじゃない、あんなヤツなんだもの!」
「そうね、あんなヤツだもんね!」
二人はさも面白いと言ったふうにキャッキャッと笑った。
「じゃあ……」コーイチがおずおずと口をはさんだ。「岡島以外なら良いのかい?」
「もちろんよ!」ブロウが笑顔で答えた。「会社の名簿があるでしょ? あれを使えば良いわ」
「えええ? 名簿かぁ…… 大丈夫かなぁ……」
コーイチは不安そうな声を出した。
「大丈夫」シャンも笑顔で言った。「さっき話したでしょ? スミ子の大好物をあげるんだもの、決して悪い事はしないわ」
「そうよ、わたしたちを信じて……」
ブロウは可愛い笑顔を浮かべながらそう言うと、コーイチの手に自分の手を重ねた。ひんやりとしていながら柔らかい感触だった。コーイチの鼓動が早まった。
「うん、分かった」
コーイチが答えるとブロウは重ねていた手を離した。
コーイチは床にあった会社の社員名簿を拾い上げた。
つづく
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