シャン特製の元気ドリンクは、ほの甘かった。しかし、喉元を過ぎると次第に苦さが口の中に拡がり始めた。液体が塊りになって胃袋に落ち込み、激しく飛沫を上げた。そして、胃壁は吸い取り紙よろしく液体をたちどころに吸収し、すぐさま血流に乗せて全身を何十周も駆け回らせた……ように感じた。それほど、効き目が早かった。
コーイチの両目はぱっちりと開き、背筋がぴんと伸び、胡坐を組んだまま飛び上がると、ぱっと空中で両足を揃え、着座の時には正座となり、金色のペンを指先でぐるぐると十回ほど回し、ぴたっと握り直すと、名簿を見ながら、凄い勢いで黙々とスミ子に書き込みを始めた。
見開き両方に一人ずつ名前を書き込んだが、それにスミ子が色をつけて縁取り消えるまでに、かなりの時間がかかった。コーイチはペンの頭の部分で座卓の天板をコツコツコツコツと素早く何度も叩き、苛立ちを見せていた。
名前が消えるとカサコソと音がして勝手にページがめくれ、新たな見開きを示した。コーイチは間髪入れずにグイグイと筆圧強く名前を書き込む。またコツコツコツコツと座卓を叩く音が続く。しばらくすると、カサコソとページがめくれ、グイグイと書き込み、コツコツコツコツと座卓を叩く。
「お姉様……」ブロウが心配そうにコーイチを見ながら小声で言った。「かなり効き目がありそうなんだけど、どんな調合をしたの?」
「何もしてないわよ」シャンはきょとんとした顔で答えた。「私たちが飲んでる回復薬をあげただけよ」
「まあ、大変!」ブロウは立ち上がった。頭を抱えてうろうろし始めた。「私たちのドリンクは、コーイチ君のような普通の人たちにはきっと合わないわよぉ! ……ああ、どうしましょう……」
ブロウは黙々と書き込みを続けるコーイチのペンを持つ右手首をつかんだ。コーイチはその手を振りほどくように大きく動かした。ブロウはその勢いで床に投げ出されてしまった。
「ダメだわ。全力を引き出されている……」
ブロウはふらふらと起き上がりながら言った。
「ダメなの……?」シャンは不安そうな顔で言った。「早く終わってもらいたかっただけなのに……」
「確かに早くは終わるかもしれない…… スミ子もページをめくるのが疲れてきているようだし……」
「じゃあ、困る事はないじゃない」シャンが強がった声を出した。「効き目が強いだけよ、心配はないわ……」
「そうかもしれない…… でも……」
「でも…… なによ……」
ブロウは真っ青な顔で姉のシャンを見た。シャンの強がりは消し飛んだ。ブロウ以上に青い顔になった。
「今はドリンクの効き目のせいで全力を引き出されているけど、ドリンクの効き目がなくなってしまったら……」
「なくなってしまったら……?」
「全力を出した反動で、抜け殻になってしまうかも……」
「……!」
シャンとブロウは揃ってコーイチを見た。
コーイチは黙々と書き込みを続けていた。その速度は目に見えて加速して行った。それに反して、スミ子のページがめくれる速さは遅くなって行く。苛立つコーイチのコツコツコツコツと言うペンで座卓を叩く音が、とてつもなく早く長く響いていた。
「コーイチ君……」
ブロウの声はコーイチには届いていなかった。
ブロウの目にはカラカラに干からびて座卓にうつぶせてぴくりともしない数時間後のコーイチが映っていた……
つづく
コーイチの両目はぱっちりと開き、背筋がぴんと伸び、胡坐を組んだまま飛び上がると、ぱっと空中で両足を揃え、着座の時には正座となり、金色のペンを指先でぐるぐると十回ほど回し、ぴたっと握り直すと、名簿を見ながら、凄い勢いで黙々とスミ子に書き込みを始めた。
見開き両方に一人ずつ名前を書き込んだが、それにスミ子が色をつけて縁取り消えるまでに、かなりの時間がかかった。コーイチはペンの頭の部分で座卓の天板をコツコツコツコツと素早く何度も叩き、苛立ちを見せていた。
名前が消えるとカサコソと音がして勝手にページがめくれ、新たな見開きを示した。コーイチは間髪入れずにグイグイと筆圧強く名前を書き込む。またコツコツコツコツと座卓を叩く音が続く。しばらくすると、カサコソとページがめくれ、グイグイと書き込み、コツコツコツコツと座卓を叩く。
「お姉様……」ブロウが心配そうにコーイチを見ながら小声で言った。「かなり効き目がありそうなんだけど、どんな調合をしたの?」
「何もしてないわよ」シャンはきょとんとした顔で答えた。「私たちが飲んでる回復薬をあげただけよ」
「まあ、大変!」ブロウは立ち上がった。頭を抱えてうろうろし始めた。「私たちのドリンクは、コーイチ君のような普通の人たちにはきっと合わないわよぉ! ……ああ、どうしましょう……」
ブロウは黙々と書き込みを続けるコーイチのペンを持つ右手首をつかんだ。コーイチはその手を振りほどくように大きく動かした。ブロウはその勢いで床に投げ出されてしまった。
「ダメだわ。全力を引き出されている……」
ブロウはふらふらと起き上がりながら言った。
「ダメなの……?」シャンは不安そうな顔で言った。「早く終わってもらいたかっただけなのに……」
「確かに早くは終わるかもしれない…… スミ子もページをめくるのが疲れてきているようだし……」
「じゃあ、困る事はないじゃない」シャンが強がった声を出した。「効き目が強いだけよ、心配はないわ……」
「そうかもしれない…… でも……」
「でも…… なによ……」
ブロウは真っ青な顔で姉のシャンを見た。シャンの強がりは消し飛んだ。ブロウ以上に青い顔になった。
「今はドリンクの効き目のせいで全力を引き出されているけど、ドリンクの効き目がなくなってしまったら……」
「なくなってしまったら……?」
「全力を出した反動で、抜け殻になってしまうかも……」
「……!」
シャンとブロウは揃ってコーイチを見た。
コーイチは黙々と書き込みを続けていた。その速度は目に見えて加速して行った。それに反して、スミ子のページがめくれる速さは遅くなって行く。苛立つコーイチのコツコツコツコツと言うペンで座卓を叩く音が、とてつもなく早く長く響いていた。
「コーイチ君……」
ブロウの声はコーイチには届いていなかった。
ブロウの目にはカラカラに干からびて座卓にうつぶせてぴくりともしない数時間後のコーイチが映っていた……
つづく
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