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ジェシル、ボディガードになる 2

2020年12月30日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「……部長、意味が分からないんですけど……」ジェシルが批判めいた口調で言う。「全宇宙のシンジケートが、どれだけの数があるか知っていますか? その構成員の数とか?」
「実態は不明だ」トールメン部長は平然と答える。「しかし、我々宇宙パトロールより多い事は確かだな」
「多いなんてもんじゃありませんよ!」ジェシルはトールメン部長のデスクを両手で叩く。「それこそ、何万倍って数ですよ!」
「そうだな……」
「それに、シンジケートを全て潰したって、またすぐに現われますよ! 実際、わたしは幾つものシンジケートを潰しましたが、しばらくすると、別のヤツが組織を作ってボスに収まり、新たなシンジケートを構成して暗躍しています」
「そうだな……」
「そう考えると、オーランド・ゼムは改心したんじゃなくて、ボケちゃったんじゃないですか?」
「いや、それは無い。心身ともにきわめて健康体だと聞いている」
「じゃあ、逆に、宇宙パトロールを潰そうって考えているんじゃないですか? わたしたちを無理な闘いに巻き込んで、壊滅を目論んでいるとか」
「ビョンドル長官も、その点を憂慮している」そう言うと、トールメン部長は椅子を回転させ、ジェシルに背を向けた。話は終わりだと言う合図だ。「後は、ビョンドル長官から聞いてくれたまえ」
「どうしてわたしなんですか?」ジェシルは言うと、トールメン部長の後頭部に向かって、べえと舌を出した。「まさか、わたしにシンジケート潰しをさせる気なんですか? わたしがおばあちゃんになっても終わりませんよ?」
「それは、わたしの知る所ではない……」
 トールメン部長は相変わらず、ジェシルに背を向けたままだ。ジェシルはトールメン部長に後頭部にジャブを繰り出した。もちろん届かないようにしてだ。
「ジェシル……」
 トールメン部長は言うと、不意に椅子を軋らせて振り返った。ジェシルは慌てて両手を下げ、素知らぬ顔をした。
「とにかく、長官の所に行け」トールメン部長は言うと立ち上がった。「わたしに舌を出したり、ジャブを繰り出しても何にもならんぞ」
「誰がそんな失礼な事をするんですか?」ジェシルはとぼけた。「上司に敬意を払うのは常識じゃないですか」
「君が常識などと言うと、常識が迷惑するだけだ」トールメン部長はジェシルを睨みつける。「それにな、幾らここで駄々をこねても、長官の所へは行かねばならんのだ」
「でも、わたし、ちょっと急用を思い出しちゃって……」ジェシルが言う。呆れるくらいに白々しい。「カルースと市内巡回をしないと……」
「ジェシル。何をどう言おうが、長官の所に出頭するんだ」
「でも、どうしてわたしなんですか?」ジェシルは口を尖らせる。「それこそ、宇宙連邦軍と協力して潰した方が確実じゃないですか」
「それはわたしの与かるところではない」トールメン部長はジェシルを睨む。「長官への出頭は、長官直々の命令だ。逆らえば、君の首が飛ぶ」
「それはイヤです」ジェシルは素直に言う。最終人事権は長官が持っている。下手に逆らえない。「……それに、特別ボーナスも気になりますし……」
「では、これから出頭するのが良いだろうな」
「分かりました。……やれやれ……」
 ジェシルは不満げな表情で出入り口のドアへと向かった。ドアが開く。ジェシルが一歩踏み出したところで振り返った。
「……でも、どうしてわたしなんですか?」
 ジェシルはしつこくもう一度言った。
「それはビョンドル長官に会えば分かるだろう」
 トールメン部長は思わせ振りな口調で返した。
「その言い方、なんだかとっても気になりますね……」
 ジェシルはじろりとトールメン部長を睨む。
「実はな……」トールメン部長はジェシルの視線をかわすと椅子に座った。背もたれを軋らせる。「オーランド・ゼム本人が君を指名したのだ。気に入られたんじゃないか?」
「え~っ!」ジェシルは思い切りイヤな顔をした。「わたし、会った事もないし、何百歳のおじいちゃんなんかに気に入られたくもありません!」
「そんな事は、わたしには関係が無い事だ」トールメン部長は冷たく言うと、椅子を回転させてジェシルに背を向けた。「さっさとビョンドル長官の所に出頭するんだな」
 むっとした顔を残したまま、ジェシルはトールメン部長のオフィスを出た。


つづく

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