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ジェシル、ボディガードになる 1

2020年12月29日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「……ジェシル」
 トールメン部長は椅子の背もたれを軋らせる。デスクを挟んで、ジェシルがつまらなさそうな顔をして立っている。返事もしない。
「君に任務がある」トールメン部長はジェシルの様子に無関心なまま話を続ける。「デズラ・シンジケートを知っているだろう?」
「……デズラ・シンジケート……」ジェシルが呟く。相変わらず、トールメン部長を見ようともしない。「さあ、知りませんね。……と言う訳で、失礼します」
 ジェシルはそう言うと踵を返し、出入り口のドアへ向かった。
「今回の任務はパトロールとは別のものだ」
 トールメン部長の言葉にジェシルの足が止まる。しかし、振り返りはしない。
「もう一度言うぞ。これはパトロールとは別の案件だ」
 トールメン部長は言ったが、ジェシルは背を向けたまま右手を上げ、出入り口のドアへと進んだ。腰まである長い黒髪が揺れる。ドアが中央から左右に開いた。
「特別ボーナスが出るのだが……」
 トールメン部長のこの言葉に、ジェシルは振り返った。ドアが閉じた。
「部長、どう言う事ですか?」ジェシルはトールメン部長のデスクまで歩み寄る。じっとトールメン部長を見つめる顔が、心無しか笑みを作っている。「詳しい話をしてもらわないと、何が何だか分かりません」
「ジェシル……」トールメン部長は、特別ボーナスにつられたジェシルに対して関心を示さず、淡々と話を続ける。「改めて聞くが、君はデズラ・シンジケートを知っているか?」
「いいえ、知りません」ジェシルは即答する。「辺境の地のちっぽけなチンピラ集団じゃないんですか?」
「デズラ・シンジケート言うのは……」トールメン部長は背もたれを軋ませ、上目使いでジェシルを見つめる。「ジェシルの言った事は半分は当たっている」
「やっぱり、田舎の一団体ですか?」
「老舗と言った方が正しい」トールメン部長がジェシルの言葉を訂正する。「デズラ・シンジケートのボスは、オーランド・ゼムと言うナルスカ人だ」
「ナルスカ人…… あの長命の?」
「そうだ。平均寿命は約五百年ほどだ」
「うわ~っ……」ジェシルはとってもイヤな顔をする。「それじゃ、しわしわのよぼよぼのぐだぐだのぼけぼけになるんじゃないですか……」
「……ジェシル」トールメン部長はジェシルを見る。その目は厳しい。「それは言い過ぎだぞ。ナルスカ人は高齢になってもさほど劣化は見られない」
「でも。五百年の生きるなんて、わたしには考えられません」
「君の個人的な感想はどうでも良い」トールメン部長は言うと、溜め息をつく。「少しは黙って話を聞け」
「分かりました」
 ジェシルは言うと、黙ってトールメン部長を見つめる。しかし、全身から不満と文句とがにじみ出ているようだった。トールメン部長は慣れているようで、平然と見つめ返している。
「デズラ・シンジケートのボス、オーランド・ゼムは、ナルスカ人の中でもとりわけ長命だ」
「幾つになるんです?」黙っていろと言われても出来ないジェシルだった。「そこまで言うんだから、相当なものなんでしょ?」
「多分、七百歳は越えている。しかし、身体機能はあまり衰えてはいない」
「……化け物、って感じですね……」
「余計な事は言わなくてよろしい。それと、少し口を閉じていろと言ってはずだ」
 ジェシルはむっとして、唇を尖らせた。分かりました、口は開きませんと言うアピールのようだ。
「オーランド・ゼムは長命なだけだは無く、その影響力も大したものなのだ。宇宙全域のシンジケートに通じている。オーランド・ゼムが眉一つ動かせば、シンジケートの一つが滅び、二つ動かせば、その宙域のシンジケートはコネクションごと消滅すると言われている」
「じゃあ、もっと眉を動かしてもらって、全てのシンジケートを消してほしいですね」
 ジェシルは軽い冗談のつもりで言ったのだが、トールメン部長は真顔でジェシルを見つめている。
「……ジェシル、君は、本当は、何か知っているんじゃないのか?」
「何の事ですか? 今のは冗談ですけど?」
「……実は、冗談ではないのだよ」トールメン部長はうんざりしたように言う。「オーランド・ゼムは改心して、全てのシンジケートをぶっ潰したいと考えたのだ」
「はあ?」ジェシルは呆れたようだ。「まさか、シンジケート同士をぶつけ合うってわけじゃないんでしょ?」
「そんな危険な事はしない。改心したオーランド・ゼムは、我々宇宙パトロールの協力を要請してきたのだ」
 トールメン部長は溜め息をついた。


つづく

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