透析による時代の変化
・透析導入により腎不全患者の清明予後は著明に改善
・何時まで透析をすべきかといった倫理的、社会的、経済的な問題が出現
・透析中止が本邦で合法であるという明確な確約は無く、医療従事者が透析中止を消極的
本来の透析の役割
・患者の生命予後を改善
・生活の質を向上させ、維持する
慢性血液透析療法の導入と終末期患者に対する見合わせに関する提言(案) 日本透析医学会雑誌 2012年12月 P.1090
海外での方針
・透析中止も緩和医療の一環として法的にも認められており、 適切なプロセスをふまえている限り問題はない。
・透析中止による死亡は全死亡原因においてカナダでは第2 位、米国においても第3位である。
本邦でのジレンマ
・本来治療であるべき透析自体が長期にわたると患者にとって肉体的、精神的苦痛になりうる。
・ 本来患者の意思で医療行為を拒否することはできるが透析になると患者、家族、医療従事者が躊躇
透析を行わない
・Withhold:透析を導入する医学的根拠を有するが行っていない状態
・Withdrawal:透析を定期的にされている患者に対して透析を行わなくなる状態
透析中止を検討する病態
- 不可逆的な重度痴呆
- 長期にわたる意識障害(植物状態など)
- 重度の肺、肝、心疾患のため日々の生活が著しく制限されている状態
- 精神障害のために透析に協力できない病態もしくは薬剤や抑制帯を使用しないと透析できない病態
- 制御困難な疼痛が透析によりおこっている病態
- 多発臓器障害が入院3日後も遷延している予後の厳しい病態
UPTODATE: Withdrawal from and withholding of dialysis
透析中止に至るアルゴリズム
- 患者の意思決定能力の評価
- 患者の事前指示書(Advance directive)の有無を確認
- 可逆的因子の有無の評価(尿毒症など)
- 透析のトライアルの適応を検討
- 患者との対話により患者の透析中止の動機を理解する
- 透析チームとの話し合い
- 家族を含めての話し合い
- 必要時には代理人との話し合い
- 透析中止、およびそれに伴い起こりうる自体へのサポート
Shared decision-making in dialysis: RPA/ASN guideline Am J Kidney Dis 2001; 37: 108
透析中止でおこりうる事態
- 疼痛
- 便秘
- 不安
- 肺水腫にともなう呼吸苦
- 死(通常1-2週間内)
症状に対する治療
①呼吸困難
- 水分制限
- 塩分制限
- 限外濾過法(Ultrafiltration)のみ継続することもある。
- 麻薬による症状緩和 ----モルヒネ:効果強いが腎排泄のため体内に蓄積する。
----フェンタニル
----水和モルヒネ(Hydromorphine):欧米で第一選択
②疼痛
- メペルジンは腎不全患者に使用すると代謝 物蓄積にて興奮作用、痙攣おこすため使用禁忌。
- モルヒネは蓄積しうるが数日内の治療としては適切
- フェンタニル、メサドンは適切
③けいれん:尿毒症、薬剤性により起こりうる。
- ベンゾジアゼピン、クロナゼパムを使用
- 痙攣合併する例は10%以下のため予防的抗痙攣薬は推奨されていない。
④不安
- 患者および家族との話し合い
- ベンゾジアゼピン、ハロペリドール
- ホスピスは本邦においては保険適応がない。
まとめ
- 透析を中止する事は患者、家族、医療従事者にとっては非常に繊細かつインパクトの強い行為である。
- 逆に漫然と透析を続ける事は必ずしも患者の幸福に関連し ていない。
- 透析中止を考慮する際は患者を筆頭として関与している 人々皆との議論の末、決定すべきである。
- 透析中止が決定された際は、残された患者の日々を苦痛なく過ごすように全力をつくす。