三池崇史監督、市川海老蔵主演の映画「一命」を観てきた。言うまでもないが、映画「切腹」のリメイクだ。いつかカラー映画として現代の俳優を使ってリメイクしてほしいと思っていたので、願いがかなった思いだ。
※以下、ネタばれ注意!!
一人の食い詰め浪人が名門井伊家の門を叩く。浪人は困窮する身の上を話し、せめて最期は武士らしく…と切腹するため庭先を貸してほしいと申し出る。話を聞いた家老は、以前にもそう申し出た若い浪人がいたのだが…、と話し始める。
「切腹するため庭先を貸してほしい」訪ねてきた二十歳そこそこの若い浪人はそう言った。これは今流行りの”狂言切腹”であると家中の者たちは判断した。狂言切腹とは、「切腹をさせてほしい」とは言ってはいるものの、大名家が処置に困り多少の金子を与えて体よく追い払ってくれることを期待した集りのような行為のこと。家中の者たちは、再びこういう浪人が来ないよう、残酷にも浪人が申し出た通り本当に腹を切らせようと企てる。
金子をもらって帰るつもりだった若い浪人は、庭先に設えられた切腹の場で切腹を迫られる。しかも自らが持参した竹光の脇差を使って。若い浪人は、自分は必ず切腹するから妻子に会うため一時の猶予を、と訴えるが家老たちは聞き入れず、非情にもただただ切腹を迫る。
病の妻子に三両与えて欲しいと最期に訴え、若い浪人は竹光を右脇腹に突き立てる。しかし、しょせん竹光、僅かに刃先に血が着くのみ。浪人は執拗に切っ先を腹に叩きつけ、さらに体の重みを利用してなんとか竹光を腹に沈ませようとするが、竹光は耐え切れずに半ばで折れる。図らずも折れたところは尖った形になり、浪人は腹に竹光をなんとかめり込ませることができる。しかし介錯役の武士は左脇腹で切りまわすことを要求。浪人が最期の力を振り絞って切りまわすが、竹光で腹を裂くことなどとうてい適わず。さすがに見かねた家老が介錯役を押しのけ自ら介錯する。
その話を聞いて、てっきり浪人は帰るかと思いきや、「切腹したいという自分の思いは変わらず。切腹させて欲しい」と改めて申し出る。呆れた家老は庭先に切腹の場を用意する。
浪人は武勇に優れているという理由で介錯人を指名するが、あいにくその武士は今日は出仕していない。そればかりか昨夜から行方知れずとか。その他にも二人が同様のことになっている。その三人は、以前の若い浪人切腹の折、本当に切腹させて見せしめにすることを考えついた者たちだった。
戦慄する家老たちに浪人は、実は自分はその若い浪人の義父だ、と話し始める。
浪人は、芸州福島家に仕える武士だった。しかし福島家は改易。浪人は、心労がたたり斃れた同僚の息子を引き取り、男手ひとつで実の娘と共に育てた。やがて二人は夫婦になり、孫も授かった。しかし、日々の食事にも窮する生活の中で娘と孫が病に伏せってしまう。病は日に日に悪くなり、医者に診せるための三両がどうしても必要になる。すでに質に入れるものすら何も無くなっていた。
「三両手に入る心あたりがある…」義理の息子はそう言って出て行った。しかし、なかなか戻ってこない。ついに孫は死んでしまう。そこへ井伊家家中の者と名乗る武士たちが、戸板に乗せた変わり果てた姿の義理の息子を運んでくる。切腹を自ら申し出たので、言う通りに計らったことを話し、三両の金子を置いて立ち去る武士たち。浪人がそれを追いかけ武士にいきさつを問いただしている間に、娘は義理の息子と孫の傍らで自害していた。
「妻子を医者に診せるための金子が欲しいと訴えた男を、無残に切腹させるとはあんまりではないか」と訴える浪人に、家老は武士とはそういうものだと突っぱねる。浪人は懐から、切り取られた三本のちょんまげを取り出す。行方知れずの三人のものだった。
家老は浪人を「斬れ」と命じる。浪人はなんと竹光の大刀で数十人相手に立ち回り、飾ってあった井伊家当主の赤備えの甲冑を倒した末、斃れる。
後日、頭にほっかむりをして現れた三人は切腹を命じられる。
話の筋はほとんど原作の「切腹」と同じだったように思う。血の通った思いやりを持ち合わせない残酷で面子第一の武士の社会に対する強烈なアンチテーゼ。そのテーマも原作と変わってはいないと思う。
瑛太演じる若い浪人の竹光切腹シーンは、想像以上のものだった。カラーになった意味は大きい。「切腹」よりも生々しく痛そうだった。特に竹光が折れてしまってからのシーンは必見。原作と似たようなアングルも多かった気がする。浪人だから月代は剃ってなかったんだろうけど、瑛太の髪型がなんとなくかっこ悪かったな…
井伊家家中の、ちょんまげを海老蔵演じる浪人に切られた三人のうち、青木崇高演じる武士は十文字切腹をしたようだ。映っていたのは胸から上だけだった(大量に吐血していた)が。
デジタル3Dの映画を今回初めて観たが、観難いことはなかったし、人が遠景近景に入り乱れる立ち回りのシーンは面白かった。