今日もやります、30分1本。
12:25スタート。
Photo by (c)Tomo.Yun
「ダブルライン」
昼休みのスタバは込み合っていた。私と彼は向かい合っていた。お互いコーヒーにもあまり手をつけず、コーヒーは冷めかけていた。短い休憩を何とか確保しようと忙しなく入ってくる客、慌しく午後の仕事に出て行く客。店内はごちゃごちゃとしていた。基本、私はこういう落ち着きがない店は嫌いだ。でも、今日はそんな状況に安心感さえあった。理由は、そう、目の前の彼、もしくは彼氏だと信じていた人。私の頭はまだボーっとしていた。私の次の言葉を待つ彼の覗き込む眼が刺さってはいるが、半ば放心状態に近い私は、ふぐの毒にでも触れたかのように唇がうまく動かなかった。ずーっとずーっと、ずーっと昔にも、同じ種類のパンチを食らったことがある気がしていた。両方、好き。両方、好き、か。両方が好きという言葉は大っ嫌いだった。双子だった自分は、自分よりはかわいい姉と母親の愛情を取り合ったが、その母もよくそう言った。両方、好き。目の前の男も、そう言った。両方、好き。彼に私以外の女性がいるかもしれないことを知ったのは、つい先日だ。私はありったけの平静を保ってこの状況を受け止め、今、彼とその女の関係はどんなものなのか、確かめようと決めた。彼の口から出た言葉は、両方、好き、だった。私はこの言葉を、深いため息で覆うのが精一杯だった。母親が、双子の私と姉に、両方、好き、と言ったとき、とりあえず笑うしかなかった。にっこりとして、姉とも微笑み、母とも微笑んだ。でも、それは仕方なかったからだ。妥協の上の調停だった。いつも、無意識に行き場のない不満が頭をもたげ、自分のものだけにしたい欲求があった。
いま、目の前の男に、両方、好き、と言われ、もう一人の女は居合わせないが、昔からやってきたように、にっこりとして、やり過ごしてしまいたい衝動に駆られた。多少、痺れから解けたように、私の口は動いた。別れて、別れて欲しい、その女と。自分で自分の言葉を聞いて、正直ドキッとした。目の前の男も、比較的温厚な私のいつもの口調とは違った物言いに、少し瞳を開いた。ざわざわとしている周囲が心地いい。早送りのように、どうでもいいから終わり、のサインが欲しかった。テレビ番組の終わり、のサインのように。そして、次回につづく、と。
12:52まで。
ふ~っ。午後もがんばりましょう。
12:25スタート。
Photo by (c)Tomo.Yun
「ダブルライン」
昼休みのスタバは込み合っていた。私と彼は向かい合っていた。お互いコーヒーにもあまり手をつけず、コーヒーは冷めかけていた。短い休憩を何とか確保しようと忙しなく入ってくる客、慌しく午後の仕事に出て行く客。店内はごちゃごちゃとしていた。基本、私はこういう落ち着きがない店は嫌いだ。でも、今日はそんな状況に安心感さえあった。理由は、そう、目の前の彼、もしくは彼氏だと信じていた人。私の頭はまだボーっとしていた。私の次の言葉を待つ彼の覗き込む眼が刺さってはいるが、半ば放心状態に近い私は、ふぐの毒にでも触れたかのように唇がうまく動かなかった。ずーっとずーっと、ずーっと昔にも、同じ種類のパンチを食らったことがある気がしていた。両方、好き。両方、好き、か。両方が好きという言葉は大っ嫌いだった。双子だった自分は、自分よりはかわいい姉と母親の愛情を取り合ったが、その母もよくそう言った。両方、好き。目の前の男も、そう言った。両方、好き。彼に私以外の女性がいるかもしれないことを知ったのは、つい先日だ。私はありったけの平静を保ってこの状況を受け止め、今、彼とその女の関係はどんなものなのか、確かめようと決めた。彼の口から出た言葉は、両方、好き、だった。私はこの言葉を、深いため息で覆うのが精一杯だった。母親が、双子の私と姉に、両方、好き、と言ったとき、とりあえず笑うしかなかった。にっこりとして、姉とも微笑み、母とも微笑んだ。でも、それは仕方なかったからだ。妥協の上の調停だった。いつも、無意識に行き場のない不満が頭をもたげ、自分のものだけにしたい欲求があった。
いま、目の前の男に、両方、好き、と言われ、もう一人の女は居合わせないが、昔からやってきたように、にっこりとして、やり過ごしてしまいたい衝動に駆られた。多少、痺れから解けたように、私の口は動いた。別れて、別れて欲しい、その女と。自分で自分の言葉を聞いて、正直ドキッとした。目の前の男も、比較的温厚な私のいつもの口調とは違った物言いに、少し瞳を開いた。ざわざわとしている周囲が心地いい。早送りのように、どうでもいいから終わり、のサインが欲しかった。テレビ番組の終わり、のサインのように。そして、次回につづく、と。
12:52まで。
ふ~っ。午後もがんばりましょう。
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